レイナと病魔王と決戦
「ソードビット、降隕の杖装備っと」
戦闘開始の掛け声の後、私はフル装備に切り替えた。
何せ相手は病と付くが魔王という。
病魔王。もしかしたらサロス達が倒さなきゃいけない魔王と関係あるかも知れないけど、ここで出会ってしまった以上、倒すしかない、と思う。
「まずは手始めに……ブリザード!」
「ふんっ」
私は手始めという事もあって多少加減した攻撃を放つ。
なにしろ今はフル装備。下手に加減せずに攻撃したら地形を変えかねない。
かといって倒せないのも困るんだけどさ。
で、魔法の効果のほどだけど、うん、全然効いてないね?!
「我に魔法は効かぬ」
「え、本当?」
それが本当なら困ってしまう。私魔職だし。
「鍛え抜かれた筋肉の前に、魔法等無価値」
「うん、どっちだろう」
このネズミ頭が脳筋なだけなのか、本当に効かないのか怪しくなってきた。
「仕方ない、試してみますか」
「ふん、何度でも来るがよい」
そう言って胸を……胸筋を張って構えるネズミ頭。シュール過ぎる。
「プロエレスフィ・ヒオノシエラ!!」
原初の吹雪、これは数ある魔法の中でも最強クラスの氷魔法だ。
この世界では存在しないとされる最上位の魔法、星界級魔法。
これを耐えられるなら本当に効かないのだろう。
「ぐっ、ぬぅ……ふんっ!!」
「お、おぉ」
耐えた。効いては居るけど耐えられた。
レベル超越してる私の最強魔法を耐えられるという事は本当にかなり高い魔法耐性があるようだ。
「まさか、この私にダメージを与える魔法がこの世にあるとはな……」
「まさか、私の魔法を耐えきる筋肉がこの世にあるなんてね……」
いやあ、まさかまさかだよ。
どうなってるんだろうね、あの筋肉。
「だがしかし、お主の力量は見切った、ここからは我からも攻める」
「いやあ、うーん」
見切ったとか言われてもな……まだメテオ・フォール使ってないし。
とはいえこんな至近距離で使える魔法でもないんだけどね。
「ソードビット、ちゃちゃっとやっちゃって!」
「ぬう?!」
私はソードビットを動かすとネズミ頭を攻撃する。
これは物理判定だし、効かないってことはないでしょう。
「ぐうっ、こざかしい!!」
「見切ったんじゃなかったの? ほら、来なよ」
「くぅっ、舐めおって! ふん!」
ネズミ頭は気合を入れると、ソードビット一本一本をはじきながら私に突っ込んで来る。
二足歩行のネズミ頭の筋肉が突っ込んで来る絵面は割とホラーだった。
「プロエレスフィ・ヒオノシエラ!!」
耐性があるとはいえ効く魔法だ。これプラスでソードビットの相手までは出来ないだろう。
何せ片方を耐えるので手一杯なんだから。
「ぐぬぅううう!!」
「よしよし」
効いてる効いてる。この調子で行けば安定して勝てるだろう。
さて、ところでアイシェの方はどうなっているんだろうね。
チラッと見てみるともう既に何体かのネズミを倒した後だった。
流石は私の弟子、仕事が早い。
「アイシェ、手伝おうか?」
「いえ、レイナさんは魔王の相手を!!」
「そっかー。手が必要なら言ってねー」
私はそれだけ言うと視線を病魔王に戻す。
いや、正確には戻そうとした。でも、そこには病魔王は居なかった。
「あれ、倒した?」
そう一瞬錯覚したが、次の瞬間マップとサーチで位置を把握した。
まずい、街の方に逃げている。
「あぁもう、面倒だなあ!」
街に行かれたらまた病気が蔓延しかねない。
私は直ぐにエアウォークを使って森の上を走り、後を追った。
「居た! ソードビット、足を狙って!」
「くうっ、空をも移動するか!」
ソードビットが纏わりついている間は移動速度が遅くなる。
弾いたり避けたりしながら移動するからだ。
それでもネズミ頭は街に向かう足を完全には止めはしない。
マズいなあ……。
「私の勝ちはネズミ頭を倒すことだけどあっちの勝ちは病気を蔓延させて人類を滅ぼすことだ……」
病気が広まれば、私一人では手の届く範囲しか守れない。
そうなる前に、止めなければならない。
「仕方ない……プロエレスフィ・フローガ!!」
原初の炎、これで森事焼き払おう。
これなら足を止めることができる。木々には悪いけど、人類の存続には変えられない。
「ちぃっ、こざかしい! 実にこざかしいぞ魔女よ!」
「それはどうも。誉め言葉だと思っておくよ」
戦いにおいて相手の嫌がるところを突くのは基本だ。
「さて、決着付けちゃおうか」
「こうなれば我も本気で相手をしようではないか」
「お?」
本気で? 今までは本気でなかったと?
「なら私も、永劫回帰の髪飾り、発動」
MPと魔力が3倍になる。これで正真正銘、全力全開だ。
「決着だ魔女レイナよ!」
「いいよ、掛かっておいで」
私はそういうと、ソードビットを放ちながらも次の魔法の準備をする。
「プロエレスフィ――」
「ふんっ!!!!」
「あっぶな?!」
魔法を使おうとしたら放っていたソードビットを私に向かって飛ぶように弾いて来た。
なるほど、本当に本気って訳だ。
「うおぉおおおおおおお!!」
「つうっ?!」
そしてソードビットを避けている間に距離を詰めて来たネズミ頭の一撃が私の腹部に入る。
……まあ実際は杖で防いでるから直撃ではない。それにレベル差もあるから大して痛くはない。
が、私の体はそれでも数メートル後退した。
そしてその隙に……。
「うぉおおお!!」
「また逃げるの?!」
炎で焼かれた森の中を猛進するネズミ頭。
もう体力的に結構削っているはずなのに、元気な事だ。
「まあ逃がさないけど、バインド!」
「ぬうっ?!」
私は土の拘束魔法でネズミ頭の動きを止める。
「これで終わりだよ、ソードビット! プロエレスフィ・フローガ!!」
「ぐぬぅうおおおおおおおおおおおおお!!」
私の魔法と複数のソードビットが命中し断末魔の叫び声を上げるネズミ頭こと病魔王。
「かはっ……我が死んでも、第二、第三の魔王が……」
「そしたらまた倒すから良いよ」
それだけ言って私はソードビットでネズミ頭の首を落とす。
「終わった……」
今回は思ったより手こずってしまった。
「さて、アイシェの方に行こっと」
その前に炎で焼けている森をプロエレスフィ・ヒオノシエラで鎮火してから戻る。
さて、あっちはどうなっているかな。
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