レイナと神託と病魔王
「それにしても本当に久しぶりね、二年以上あってないわよね?」
「そうですね」
久しぶりに会った神様は「久しぶりだわー本当に久しぶりの出番ー」とか言ってちょっと嬉しそうにしている。
こちらとしてはペスト……黒死病の事もあるし、色々聞きたいことが山積みなのでありがたいタイミングではあるけど……。
「それで今回はなんで私の夢に?」
「あ、そうそう、それよ。神託とかどうかなぁと思って」
「神託ですか……」
つまり神のお告げというやつだろう。
「どう? 聞いとく? 聞いちゃう??」
「ノリがうざ……何でもないです聞いておきます」
「今サラッと神相手に毒吐いたわね……肝座ってるわあ」
なんかこの神様、神様って感じがしなくて自然と素で話してしまう。
もっと私は神だってオーラを出してたら、また違ったかもしれない。
「それじゃあ神託を……こほん。今いる街から南西にある森に向かいなさい。そこに元凶が居るわ」
「居る? 誰かが居るんですか?」
「そこは見てからのお楽しみで」
「全然楽しく無いですよ……」
相手は黒死病絡みの敵だろう。全然楽しい相手じゃない。
「まあまあ、そう言わずに。それじゃ、言う事言ったし私は消えるわね」
「えっ、ちょっと! 私まだ聞きたいことが!」
「あ、そうなの? じゃあそうねぇ……この問題を解決できたら、その時また改めて会いましょう」
「なんでそんな回りくどいことを……?」
「そっちの方が楽しみが出来ていいでしょう?」
「楽しいかどうか以外の判断基準ないんですか」
「無いわ」
「無いんだ……」
凄いな神様って、それだけで存在してて。
「それじゃ、またねー」
「はいはい」
そこで彼女、神が消えると、私の意識は暗転し、目が覚めると昨日泊った宿で目が覚めた。
「うーん、今日も元気で神託もあってありがたい!」
「神託ですか?」
「およ、アイシェ起きてたんだ」
そういえばアイシェと同じ部屋だったね、うっかり神託というワードを使ってしまったよ。
「まあ、ハイエルフくらいになると神託もあるっていうか」
「レイナさん程の人なら神にお告げを頂いても不思議じゃないですね」
「あ、納得するんだ」
ここは普通正気を疑うとこだと思うけど。
うちのアイシェは本当に素直でいい子だ。
「ってわけで、ペストの元を潰す為に南西にある森に向かうよ」
「森ですか」
「そ、神託があったからね」
「では行ってみましょう」
「おー!」
そんなわけで、私達は宿を出て街の外へ向かう。
ただ、街の門で一回通行止めにあった。
「この街はいま流行り病が蔓延している、外に出ることは許されない」
「その病の元が森にあるから排除しに行くんだけど」
「駄目だ駄目だ。そんな確証も無い言葉で外に出ようと言ってもそうはいかないぞ」
「あー、そうなるかあ」
どうしようねこれ。神様は南西の森に行けって言ったけど、そもそも街から出られないのではどうしようもない。
「私達はSランク冒険者です。病の元を絶つ為に南西の森に向かわなければなりません。通してください」
「Sランク?! いや……しかし……」
お、アイシェのSランク発言で怯んだぞ? これはもう一押しあったらいける?
「私はハイエルフで、この病には皆さんより詳しいです。病の元を絶つ為に協力してもらえませんか?」
「ハイエルフ?! それで病に詳しい……ふむ……はあ、わかった、ただ必ずちゃんと戻ってくるんだぞ」
「はい」
よっしゃ、これでなんとか南西の森に向かえるね。
「アイシェありがとう」
「いえ、レイナさんこそいい説得でしたよ」
「アイシェに乗っかっただけだけどね」
さて、早速南西の森に向かおうか。
私はユニちゃんを出してアイシェと一緒に乗る。
「南西の森までレッツゴー!」
私はユニちゃんにゴーサインを出すと駆け始めた。
目指すは南西にある森。大分広い場所みたいだ。こんな場所から何を探し出せばいいんだろうね。
「でもって到着したのはいいけれどっと」
「なんだか怪しげな森ですね」
「そだねえ」
アイシェが言う通りかなり怪しげな森だった。
もうね、怪しいですよーって顔に書いてあるくらい怪しげな、木も植物もおどろおどろしい、霧も毒みたいな色した霧が森にだけかかっているという分かりやすい感じだった。
俺に触れたら怪我するぜ、みたいな。
「とりあえず、アイシェは毒とか病対策の装備持ってる?」
「無いですね」
「じゃあ、あげるね」
私はアイテムボックスから毒や病に耐性を得るブローチを出した。
「これ装備してれば大丈夫だから」
「そうなんですか? ありがとうございます」
アイシェにお礼を言われながらも私自身も同じものを装備する。
防具にあらゆる状態異常の完全耐性はあるけど、念のためという奴だ。
「さ、いこうか」
「はい」
ここからはうっそうとした森の中なのでユニちゃんではなく徒歩での移動となる。
「さてさて、何が出て来るのかなあ」
「なんだか楽しそうですね」
「え、そう見える?」
なんてことだ、あの神様の楽しそう云々が移ってしまったのかもしれない。
この状況を楽しむなんて、よろしくないことだ。
「なんかワクワクしてません?」
「うっ……それは、ちょっとだけ」
ちょっとだけ冒険みたいだなと思ってワクワクしている自分に、ほんのちょっとだけ反省する私。
でもさ、仕方なくない? なんかさ、面白い冒険の臭いがさ、するんだよ?
「そんなことより! マップ、サーチっと」
こんな広大な森を二人で隅々まで散策する気なんて無い。
マップとサーチを使ってここに『居る』らしい何かを探す。
そして――。
「居た」
「何か見つけたんですか?」
居たよいた。明らかに敵みたいな反応が複数。
「行くよ!」
「はい!」
私達は反応のある方に駆け出す。
近い、すぐそこだ。
「居た!」
「あれが?」
森の開けた場所に大きな体をしたムキムキの二足立ちの『ネズミ』が一体。
そしてその周りに巨大ネズミが数体。
げっ歯類……なるほど、これが今回のペストの現況って訳だ。
「うぬらは何者か」
「ネズミが喋った?!」
筋肉ムキムキで顔だけリアルネズミな奴が喋った。
喋るネズミなんて夢の国でしか会えないよ、こんなところで会えるなんてなんていうか、えっと、何?
「気持ち悪いですね」
「アイシェストレートだねえ」
アイシェのストレートな酷評にビックリする私だが、気持ちは同じかもしれない。
そうだ、今のうちにプロパティでステータスの確認を……。
「今一度問う、うぬらは何者だ」
「私達? 今回の病の現況を絶ちに来た冒険者って言ったら分かる?」
えーっとそれで、ステータスは……。
「敵か、ならば容赦すまい」
「え、やば」
コイツ、ステータス……レベルが65もある。
アイシェより強いなんて最近見なかったから驚きだ。
「アイシェ下がって、私がやるから」
「え、何でですか」
「アイツめちゃ強いよ。アイシェは周りにいるネズミの相手をお願い」
「は、はい」
それにしても一体何者なんだろうね、このネズミは。
「戦う前に名乗ろう、我は病魔王=アロスティアだ」
「何その頭痛が痛いみたいな名前」
アロスティア、病気とかそんな意味のギリシャ語だよね。
MOAは後半になるとやたらギリシャ語使った魔法名とかあったから身に付いた程度の浅知恵だけど。
「某の名は」
「レイナだよ、まあ覚えてることも出来ないと思うけどね」
何せこれから始まるのはペスト菌との決戦だ。殺し合いになるのは覚悟の上だ。
ともなれば私の名前なんて覚えていられたら困る。それは敗北を意味しているからね。
「それじゃ、行くよ!」
「はい!」
私はアイシェに掛け声を出すと、戦闘を開始した。
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