レイナと旅と病
「うわあ」
楽しい旅が始まるぞ! と思ったのも束の間の事。
私達は早速、賊に絡まれていた。
「王都近辺さ、治安悪すぎない?」
「魔王復活の噂を聞いてそれに乗じて悪さをしようという輩が多いようです」
なるほど、火事場泥棒みたいなものかな??
「一応言っておくけど痛い目見る前に降参しない?」
「へへっ、こんな上玉二つも前にしてそれはねぇだろうよ」
「「「へっへっへっへっへ」」」
「うわあ」
正直ドン引きである。上玉扱いはまあ嬉しい気がしないでもないけど。
「はあ、アイシェやれる?」
「抜かずに、ですか?」
「そ」
「やれます!」
「じゃあやろっか」
数分後。
「ずびばぜんでじだ」
「はい謝れて偉いね~。連行はするけど」
私達はぼこぼこにした盗賊たちの謝罪を聞きながらも次の街まで盗賊達を引っ張って走った。
そして街に着くと憲兵さんに盗賊達を渡して冒険者ギルドに向かった。
何か面白そうな依頼があったらこなしつつ楽しみながら旅するつもりだ。
「うーんドラゴンとか死神とか魔神とか居ないのかなあ」
「何言ってるんですかレイナさん……」
「居たら面白くない?」
「面白くないですよ。そんなのが溢れてたら世界滅んじゃいますよ」
「そうなんだけどね……でもそのくらいじゃないと歯ごたえなくてつまらなくない?」
「レイナさんは戦闘狂ですか……」
「えぇ……」
まさかの戦闘狂扱いに困惑する私。
アイシェも割とそんな感じだと思うんだけどなあ。
「とりあえず面白そうな依頼は無いね」
「面白そうかどうかで決めるのはどうかと思いますけど……」
「そうかなあ」
でも面白いか、楽しいかどうかは重要だと思う。旅は楽しくしなくちゃね。
とは言えうーん……地味な依頼ばっかりだなあ。
この町は比較的安全なのか討伐系の依頼も見当たらない。
メインクエストだけじゃなくてサイドクエストもコンプしたい派の私的にはやってみたら面白いという事もありそうだけど……。
「あっ」
「なになに?」
私が考え込んでいるとアイシェが声を上げたので訊いてみる。
何か良いのでも見つけたのかな。
「病気の母の為に薬草が欲しいという依頼があったので……」
「あぁ……そっかあ」
アイシェも昔は母の為に薬草取りしてたよね。それが出会ったきっかけでもあるし。
「受ける?」
「いいんですか?」
「いいよ。暇だし、急ぐ旅でも無いしね」
それにまあ、依頼がある以上は困っている人がそこにいるわけで。助けたあげられるなら助けてあげたい気持ちもある。
「それじゃ、これ受けようか」
「はい」
そんなわけで私とアイシェは依頼書をボードから取ると受付に向かった。
「この依頼受けたいんですけど」
「はい、こちらの依頼ですね。冒険者カードをよろしいでしょうか?」
「はいどうぞ」
「拝見します……って、えぇ?! Sランク?!」
「う、うん、そうだけど」
「国内に片手で数えられる程しか居ないとされるSランク冒険者だなんて……あの、本当にこの依頼でいいのですか?」
「うん。間違いなくこの依頼だよ」
「そうですか……わかりました、依頼の受付をさせて頂きます」
「はい、よろしく」
私はそれだけ言うとアイシェと一緒にギルドを出る。
「さて、薬草を探しに行きたいとこだけど」
「そうですね、もう夜なんですよね」
「そうなんだよねぇ」
流石に夜に薬草探しって言うのもね、明るいところでやりたいよね。
「という訳で私は依頼者の所に直接行って魔法で治そうと思います」
「流石レイナさん……考え方が斜め上ですね」
「そう?」
そうかな? 割と普通だと思うけど。
「ってことでレッツゴー!」
「ってどこだか知ってるんですか?」
「え、依頼者の名前は見たからマップとサーチで探せるし」
「それも魔法ですか?」
「スキルと魔法だね……説明は面倒だからしなくていい?」
「はあ、面倒なんですね?」
「うん」
「じゃあいいです」
私の面倒の一言に若干呆れつつも理解して引いてくれるアイシェは良い子だね。
「それでは改めて、レッツゴー」
掛け声と共に歩き出す私達。目指すは町の西側だ。
「それにしても、いきなり行って怪しまれないですかね」
「大丈夫だと思いたいね。身分証もあるし」
「そうだと良いんですけど……」
まあいきなり押しかけたらビックリはされるだろうけど、薬草より魔法で治した方が手っ取り早い。
なんとか受け入れてもらえると良いんだけど。
「着いたよ」
「ここですか」
家自体は普通のごく一般的な洋式の家だ。
別に特段変わったところはない。薬草くらい買えそうなものだ。
「生活が困窮しているとかではなさそうだね」
「そうですね……ただ薬としての効果の高い薬草は高額ですし薬はもっと高いですからね、一般の家庭で手に入れるのは難しいかと」
「へえ、そんなものなんだね……」
それで冒険者を雇って持ってきてもらった方が安い……のかな?
まあ知識さえあれば冒険者からしたら依頼料が少なくても実績にはなるから意外といい依頼なのだろうか?
よくわからないけど、まあとりあえずさっさと終わらせよう。
「コンコン。こんばんわー誰かいませんかー」
「はーい」
私がノックと共に挨拶すると、中から小さな女の子が出て来た。
年は9か10くらいだろうか。
「えーっと、この依頼を出したのは貴女?」
「はい、そうですけど……お姉さん達は?」
「冒険者です。貴女のお母さんを助けに来たの」
そう言ってアイシェは微笑む。
笑顔で相手の警戒を解く作戦かな。私も乗っておこう。
「薬草、ですか?」
「薬草だと明日になっちゃうから、魔法で治そうと思って来たの」
「魔法で?」
少女はキョトンとする。まあこの世界の魔法では考えられないもんね……。
「病気治せるの?」
「治せるよ」
私は言い切ってしまってちょっと後悔する。
治せなかったらどうしようね?
「大丈夫です、レイナさんに任せてください」
「……わかりました」
そう言って少女は意を決した。
知らない大人を信じるって大変だと思うんだけど。この子は思いきりのいい子なのかな。
「それじゃあこちらに」
「はーい」
私は少女の招きを受けると家の中に入った。
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