レイナと宿と姿見
「さて、どうしたものかなあ」
よくよく考えたらアイシェか門番さんに宿の場所でも聞いておけばよかった。
まあ自分で街を散策しながら探すのも悪くないかな。
それからしばらく街の中を散策しながら、時にちょっとした買い食いでお腹を満たしつつ歩いていると、漸くそれっぽい、つまり宿っぽいものを見つけた。
というのも、表の看板にベッドマークにZZZと書いてある、これで宿屋じゃなかったらなんだろう。
「おじゃましまーす」
私は遠慮がちに宿屋の扉を開けた。別に悪いことをしている訳では無いが、良く知らない世界というのがこう、何をしても間違ってたらどうしようという感覚にさせる。
さっきもお金でやらかしたし。
「いらっしゃい。おや、エルフかい」
「もしかしてエルフはダメでしたか?」
異世界物だと亜人とか異端は除け者とかあるもんね……奴隷にされてるくらいだし。
「いや、珍しいお客だと思っただけさ。私はオリヴィエこの宿の店主さ」
「私はレイナって言います。ちょっと遠く田舎から来たもので世間知らずな面もありますがどうぞよろしくお願いします」
ここまで言っておけばうっかりやらかしても大丈夫だよね……?
「そうかいレイナ。何か分からないことがあれば私か娘のローテに訊いてくれればいいよ」
「はい、ありがとうございます」
優しい女将さんでよかった。これで後は何泊するかだね……どうしようかなあ。
「とりあえず10日ほど止まりたいんですけど」
「それなら銀貨5枚だね」
うーんとリーネで計算するとさっきの銅貨100枚の時は1リーネでお釣りが900銅貨だった。
てことは1リーネが銀貨1枚。
今回が銀貨5枚だから……5リーネで10日? 安すぎない?
「それなら……これで泊まれる分だけお願いします」
「な?!」
私は15リーネを出した。これで30日は泊れるね。
「レイナ、アンタ随分羽振りがいいんだね」
「そうですか?」
「そうだよ……普通宿代は前払い。でもだからってここまでの大金を払って泊まるくらいならいっそ街中に家でも借りた方が良いんじゃないかい?」
「おぉ……」
そんな心配をされてしまうとは思わなかった。
確かに、一か月分の宿代を払うくらいなら一ヵ月分何処かに家を借りるのも悪くは……。
いやいや、この街に根を下ろすと決まったわけでもあるまいし。
「大丈夫です、この街に住むと決まったわけでもないので」
「そうかい? ならまあ、頂いておくとするかね。食事は付いてるから安心しな。時間になったらローテに呼びに行かせるよ」
「ありがとうございます」
そしてその後、私は女将さんに言われた通りの部屋に入った。
うん、シンプルイズベスト。いい部屋だね。
「さて、これからどうしようかな」
ここまではとりあえず初日に進めるべきイベントを進めたに過ぎない。
この後どうするか、それが重要だ。
転生したからには何か役目でもあるのだろうか……?
神様が可哀そうな私に気まぐれに自由をくれたとか?
うーん、悩んでも分からないね??
「そうだ、容姿の確認しておこ」
森で耳を触ってから気になって居た。
私のエルフの姿はゲーム内のままなのかと。
「うわ、ゲーム内のアバターのままだね。装備もそのままだし、顔も……元の私より遥かに美人だ、神様グッジョブ」
などと冗談を言ってみたが、いやホントに美形だ。流石エルフ。
いや、まあ、正確にはハイエルフなんだけど。
「でもそうなるとホントに設定どおりなら私数万歳ってことになるね」
MOAにはハイエルフへの転生条件として3万時間のプレイというものがあった。
これは大半のプレイヤーには知られていない、何故なら私も3万時間やって初めて転生可能通知が出て知ったからだ。
でもって、なんでそんなクソ調整なのかといえばMOAの設定にハイエルフは長い時を生き、鍛えたエルフのみが転生して王族に迎え入れられた者という設定があるからだ。
なのですべてのエルフが王族になれるわけではない。鍛えて、レベル100に到達したものだけだ。
それも更にクソ設定で、実はMOAは最初の20名しかレベル100には到達できないという設定まであった。
これは後から知られたことで、最初にプレイしていたプレイヤーの中でも皆競ってレベルを上げたりしていなかったので、たまたま最初に100になった者が20名に達したとき、初めて知ることとなった。
なので本来のレベル上限は80だ。20レベル分、最初の20人は強いということになる。
ちなみに私がその最初の20人に入れたのは当然廃プレイしていたからだ。
当時はもう既に体が機械に生かされている状態だったので、MOAを初めて、嵌って、それから一直線にレベル100まで行ったということだ。
で。そんな私が3万時間プレイした結果が転生条件ハイエルフと恐らく一万時間ごとに一個もらえる装備、ソードビット、永劫回帰の髪飾り、そして降隕の杖。
はあ。これって絶対チート転生だよねえ……。
「私、これからどうしたらいいんだろう」
更新続きます。