レイナと奴隷と貴族
「さて、探すと言ってもどうしたものかなあ」
何しろこの国自体ははそれなりに広い。
城下町を探して見つからなければそれはそれでいいことだけど、そうなったら今度は地方まで探しに行くのかということになる。
まあ、とりあえず考えても仕方ないので先にマップとサーチで王都内を調べることにしようかな。
「マップ、サーチ、エルフ」
うーん、この王都には…………居た。
「居ちゃったか……奴隷じゃないエルフってことは……あるのかなあ」
リサみたいにわざと捕まろうなんてエルフが他に居るとは思えないから、多分奴隷なんだろうなあ。
「あーやだやだ、はやく終わらせよ」
私はマップに写るエルフの場所まで移動する、もちろん徒歩じゃないよ。
空を飛べる魔法はないけど、歩ける魔法ならある。
なので空を歩いてこっそり……屋根の上まで移動してみた。
「で、それはいいんだけど」
問題はこの家、どう見ても貴族の屋敷だよねぇ……。
奴隷の飼い主はご貴族様かあ、いやー参ったね、手加減した方が良いのかな。
「ま、それはさておきおじゃましまーす!」
私はマップで確認したエルフの居るであろう部屋に窓から突撃した。
そりゃあもう大胆に窓を蹴破ったよ。
「とうっ」
「なんだ?!」
「ひいっ!」
私が部屋に入ると、そこにはうら若きエルフの女性――エルフだから実年齢はわからないけど――と如何にも悪い貴族ですって顔をした貴族が居た。
しかも両方全裸だ。あちゃあ。
「ジョージかあ」
「誰だ?!」
今まさに、情事が行われるという瞬間に出くわした。中身高校生の健全な私にはキッツイ絵面である。
「とりあえず、そこの貴女、エルフの、奴隷かな?」
「は、あ……えっと」
私の言葉に凄く答えにくそうに貴族の方をチラリと見る女性。
「私の奴隷だったら何だというのだ!!」
「あ、そっちが答えてくれるんだ。はい、じゃ、さよなら」
「ぐぶうっ!!」
私は風を圧縮した魔法を放つとお貴族様をぶっ倒した。
「な、いったい、何が……」
「そんなことよりこれ着てこれ」
私はアイテムボックスから自分の予備の服を出すとエルフの女性に渡した。
「あ、あの、一体貴女は」
「私? ハイエルフだよ」
「ハイエルフ?! では王族の」
「そ、助けに来たよ」
私はそういうと、話しながらもぶっ飛ばしたお貴族様を土魔法で縛り上げる。
「助けに……私を?」
「そう、奴隷なんでしょ? そんなの助けるでしょ」
「あ、ありがとうございます」
そう言って涙するエルフさん。余程酷い目にあっていたのかもしれない。
うーん、もっと早くに動くべきだった。
まあでも、後悔してもしきれないものだ。ここは命が助かっているだけ良いと思う事にしよう。
「さてと、そろそろ騒動に気づかれる頃だね、一緒に逃げるよ」
「ど、何処にですか?」
「王城」
そう言うと私はエルフの女性ごと王城の自室に転移した。
「え? あ? え?」
「落ち着いて、転移魔法だよ」
「転移魔法?」
「エルフちゃんもそこからかあ」
私は細かい説明は後で、という便利な言葉を使ってその場を濁す。だって面倒だったから。
「この馬鹿貴族王様に突き出してくるから、ちょっと待っててくれるかな?」
「え、あ、その、一緒じゃダメですか」
「え、一緒に居たいの? ならまあ、いいけど」
まあさっきまで奴隷だったんだもんねえ、一緒に居た方が安心できるのかなあ。
「さ、じゃあ行こうか」
「はい」
私はエルフちゃんの前を歩いて先刻までいた執務室に向かう。
まだ多分いるよね、国王。
「レイナ様? とその方と……そちらのエルフの女性は?」
「色々あってね、通してもらえる?」
「は、レイナ様が来たら通してもよいと取り決められましたので」
「あ、そうなの」
いつの間にそんなことに、今朝来た時は一回確認が入ったはずだ。
あんまり私が来るもんだから面倒になったのかな。
「じゃ、お邪魔しますよー」
「むう、レイナ殿か、それとそちらは……」
「奴隷にされてたエルフちゃんと奴隷にしてた馬鹿貴族を捕まえたんだけど、どうしたらいいかなと思って」
「ぬ、早速やってくれたな……」
それは褒めてる? それとも?
「しかもその縛り上げて担いでいるのはデーブ侯爵ではないか……まさか侯爵ともあろうものがこのような悪事に手を染めているとは……いやそれ以前に侯爵相手にこの仕打ち……いくら何でも思いきりが良すぎる……」
「褒めてる?」
「褒めていない」
「だよねー」
まあ言った傍から奴隷見つけて来て、しかも侯爵ぶっ飛ばして来たわけだから国王も頭が痛いだろう。
「でもそっかあ、侯爵なんだ」
「知らないでやったのか」
「知るわけないでしょ私が。でもまあ、殺してないしいいでしょ?」
「む、まあ……罪と現状を考えればそうだが……貴女は手加減とかそういう事は考えていないのか?」
そう言って頭を抱える国王。
失礼しちゃうね、もし私が加減をしてなかったらこの馬鹿貴族はあの世にとっくに行っている。
「手加減したから、生きてるんですよ」
「はあ……わかった。侯爵の身柄はこちらで引き取らせてもらってもよいかな?」
「解放しないよね?」
「まさか。搾り上げて情報を吐かせるのだ」
「そっか、じゃあ渡すよ。……信じてるからね?」
「あぁ、わかっている」
一応念押しもしたし大丈夫かな?
「後のことはこの国で何とかして貰える? いくら私でも国の隅々まで探せないよ」
「分かっている。後はこちらで対処しよう」
「うん、そうして」
出ないと永遠に奴隷を探す旅に出ないとならない。
……まあハイエルフだから寿命的には問題は全く無いんだけどね。
「さて、じゃあエルフちゃんは私が引き取るね」
「あぁ、頼む」
「じゃ、いこっか」
「は、はい」
こうして私はエルフの奴隷をまた一人解放し。
後日こってり絞られた馬鹿貴族は情報をぺらぺらと喋り、後に国主導で奴隷商の一斉摘発が行われた。
こうしてこの国でのエルフの奴隷問題は解決の道へと進みだしたのであった。
……まあ、その際に私の名前の元に「エルフの奴隷を解放しなければ流星が降るぞ」なんて脅しもあったけれど、それはまた別の話で。
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