レイナとローテと仲直り
「どうしよう……」
ある休日、私は困っていた。
それはローテの事だった。
「なんて謝ろうかなあ……」
暫くほったらかしにしてしまったので怒られても仕方ない気がする。
何せすぐ戻って来れると言っていたのに、まったく戻っていないのだから。
「はあ、どうしよっかな」
怒ってるだろうか……それとも悲しんでいるだろうか……。
うーん、こういう時は一人で悩んでも仕方ないね?
「アイシェーいるー?」
私はアイシェの部屋を訪ねた。
居ないってこともあり得るけど、今日は孤児院に行きたいだろうから、私を待つか、迎えに来るかの二択のはずだ。
「レイナお姉ちゃん? どうしたの?」
アイシェが扉を開けて出て来る。
「ちょっと相談があってね」
「相談?」
そう、相談だ。
困った時は同年代の女子に訊くのが一番だと思ったのだ。
「じつはかくかくしかじかで」
「何? かくかくしかじかって」
「うん、伝わらないよね!」
説明がなんて説明していいかわからなくてとっさに出た言葉に私もビックリだ。
伝わるわけない!
「えっと、同年代の子と……喧嘩って程でもないんだけど、ちょっと約束破っちゃって……それでその、どう謝ったらいいかなあって」
「レイナお姉ちゃんと喧嘩できる相手なんて居るんですね……」
「それどういう意味かな……?」
聞いてみたい気もするけど、聞かなかった方が良い気もする。
「レイナお姉ちゃん強いから……」
「喧嘩って言っても殴り合いじゃないよ……」
私ってなんでこんなに暴れん坊に見られてるんだろうね?
「で、何かいい方法無いかな」
「うーん……約束を破っちゃったなら、埋め合わせ……何かこう、代わりになることをするとか?」
「ほほう」
なるほど。そういう手があるか。
だとしたら……うーん?
「レイナお姉ちゃん、料理ができるから何かご馳走するとか」
「おぉ!」
そっか、それだ!
美味しいデザートでも作って差し入れよう!
「ナイスアイデアだよ! 私ちょっと行ってくる!」
「何処に?」
「厨房にー!!」
私は叫びながら厨房にダッシュした。
善は急げってね。
「ガゼフさーん、厨房貸してくださーい」
「おぉ。レイナ様、また料理を作るのですか?」
「いやあ今回はデザートを少々」
「デザートですか」
さて、何にしようかな。
マフィン、プリン、アイス、ケーキ、クッキー、色々思い浮かぶ。
「卵と牛乳があるしなんでもできるよねえ」
思い付く限りのお菓子にはこれだけあれば結構何でも作れる気がする。
バターとかも作れたら欲しいけど……。そっかあ、バター無いんだよね。
「よし、プリンにしよう」
そんなわけで私はプリンを作成することにした。
「卵割って、砂糖、牛乳、色々混ぜ混ぜ……」
プリンの詳しい作り方はネットで調べたっきりなのでこれであってるか若干不安になる。
でもまあ、スキルもあるし、何とかなる……よね?
そして一時間後。
「で、できた!」
ついにプリンが完成した。
数は多めに6つ作った。
「よーし、これを……」
「じー」
「うん、まずはガゼフさんに上げるね」
「よいのですか?!」
いや、そんなじっと見られたらね。
「それで、これは何というデザートなのでしょうか」
「プリンだよ。今回は気合入れて上に生クリームも載せました」
お詫びの品だからね、気合が入るってものだよ。
「そうですか……プリンに生クリーム……では、頂きます」
「うん、感想聞かせてね」
「美味い! プリンという名に恥じぬプルンとした食感に程よい甘さと卵の風味、何よりこの生クリームが美味い!」
「そか、よかった」
この世界の人の口にも合うならローテもきっと喜んでくれるだろう。
「それじゃ、これ届けて来るんで」
「国王陛下にですか?」
「え、いや、違うけど」
なんで私が国王に差し入れしなきゃいけないのだろうか。
いや、そこまでは言われてないけどさ。
「違うのですか……いえ、よいのです、ありがとうございました」
「はーい」
私は返事だけ残すと、足早にアイシェの部屋に向かった。
「ただいまアイシェ」
「あ、お帰りレイナお姉ちゃん。ご馳走は出来たの?」
「ご馳走って言うかデザートをね」
「デザート?」
私はアイシェにもプリンを差し出す。
いい案をくれたお礼だ。
「これがそうなの?」
「うん、数はあるから遠慮なく食べて」
「そう? じゃあ、いただきます」
そう言ってアイシェは受け取ったプリンを頬張る。
そして。
「んー! 美味しい! レイナお姉ちゃんって本当に何でもできるんですね!」
「いや、何でもは出来ないよ?」
出来る事だけである。何でもなんて出来ない。
「このお菓子美味しいです」
「それはよかった」
デザート、お菓子、言い方は色々あるけど、まあ喜んでもらえるモノならなんでもいい。
「さて、これをローテに上げて来るね」
「私もアルケの街までお願いしていいですか?」
「そだね、一緒にいこっか」
ということで、私は早速アイシェと共にアルケの街に転移する。
そしてアイシェを孤児院に送ると、私は急いで宿屋に向かった。
「こんにちはー」
「あら、レイナ様、いらっしゃい!」
「ちょ」
宿に入るとオリヴィエさんが私を「様」と呼ぶ。
「なんで『様』なんですか」
「そりゃあねえ、エルフの王族であるハイエルフにして、救国の英雄、流星の魔女様だからねえ」
「うぅ」
出たよ流星の魔女の噂。
何処に行ってもこの名前で呼ばれるね。
「それ程のものじゃないので普通にレイナでお願いします」
「ふふっ、そうかい? じゃあレイナ、おかえり」
「あはは、ただいまです」
さてと、とりあえず軽い挨拶も済んだことだし本題に入りたい。
「それで、ローテは居ますか?」
「あぁ、居るよ。でも最近様子が変でねえ」
「はあ」
調子でも悪いんだろうか、それとも私の所為で機嫌が……?
「今は食堂でテーブルを拭いてるはずだよ」
「ありがとうございます」
私はオリヴィエさんに教えられて早速食堂に向かう。
食堂に入ると1人でテーブル拭きをしているローテが居た。
「はあ」
「ローテ、ただいまー」
「レイナお姉さん?!」
なんか溜息吐いてたけど、大丈夫かな。
「帰ってくるのが遅くなってごめんね」
「い、いえ……はい、心配しました」
「そっか……ありがと」
心配してくれてたんだね、優しい子だ。
「流星の噂を聞いてたから、きっと忙しいんだろうなと思って」
「あー……まあね」
まあ確かに忙しかったけど、忘れてしまっていたのは事実で。
でも流石に本当のことは言えないので黙っておく。
「それで、遅くなったお詫びにこれ、どうぞ」
「何ですかコレは?」
「プリンっていう、お菓子かな」
「食べ物ですか」
「うん」
見慣れないモノを渡されたらまあ、食べ物かどうか判別つかないよね。
「王都のお菓子なんですか?」
「いや、私の手作り」
「レイナお姉さん料理とかもできるんですか?」
「まあね」
ローテは私の言葉に驚いている。
私が料理出来るのって意外なのかなあ……王族だから?
「それでまあ、お詫びの品って事でひとつ」
「ありがとう、レイナお姉さん、食べてみていい?」
「うん、どうぞ」
私はスプーンを取り出すとローテにあげる。
「ありがとう。ん……美味しい!」
「よかった」
これで口に合わなかったらヤバかったね。
まあもう既に二人試食済みだから大丈夫だとは思ってたけど。
「レイナお姉さん、お店とか出せるんじゃないですか?」
「え、いいよ、面倒だし」
料理は楽しいし美味しいけど、仕事にしたいとは思わない。
それよりは冒険者として旅してまわりたいくらいだ。
「こんなに美味しいのに、勿体ないよ」
「そうかな」
「そうだよ」
まあ気に入ってくれたのは良かったけど、そっか、お店なあ……。
「まあその内考えてみるよ」
「レイナお姉さんならきっと素敵なお店が出来ると思うな」
「いやいや」
まあお金はあるから作ろうと思えば出来なくはない、でも人手とかが足りないから絶対に過労で倒れるね、間違いないね。
「それで、レイナお姉さんはしばらくこっちに居るの?」
「ごめん、またすぐに王都に戻らないといけないんだ……実は私今王都で教師をやってて――」
そこからは私の近況報告をした。
ローテは私の話を楽しそうに聞いてくれて……。
久しぶりの再会は、なんとか何事も無く楽しく過ごせたのだった。
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