レイナとエルフと解放
孤児院の件から1月、私は休みの日は毎日孤児院に顔を出すようになっていた。
というのも、アイシェが母の手伝いをしたがるからである。決して私が働き者なわけではない。
まあアイシェも週に一回くらいは母に会いたいというのもあるのかもしれないけど。
「で、なんでこんなことに?」
アイシェが孤児院に行っている間、漸く思い出したかのようにローテに会いに行こうと思った矢先。
私は路地裏から聞こえた悲鳴を頼りにそっちにフラフラと首を突っ込んだらなんとビックリ、エルフの少女が誘拐される真っ最中だった。
で、まあ。もちろんそんなの助けるに決まっているわけで。悪漢を蹴散らし、助けたのは良いんだけど……。
「なんでこうなったの……?」
今私は助けた少女に説教される最中だった。
「聞いてますか? 私はアイツらのアジトまで行って同胞を解放する予定だったんです」
「あ、はい」
でもおかしいね、じゃああの悲鳴はなんだったのかな。
「なんで助けたりするんです? 普通関係ない人なんて放っておくでしょう」
「あー、一応ほら、同族だし。悲鳴も聞こえたし」
「なるほど。確かにちょっと胸を触られたくらいで悲鳴を上げた私にも責任はあるみたいですね」
「あ、そういう」
それで悲鳴。うん、捕まる気は満々だったんだね。
「ですが同胞だからと言って首を突っ込みますか? 一緒に捕まったらとか考えないのですか?」
「いやあ、私が捕まることはないんじゃないかなあ」
一応助ける前にステータスを覗き見たけどあの賊はかなり低レベルだった。
そう言う意味では彼女の方がレベルは高かったね?
「何処から湧いてくるんですか、その自信」
「レベル的な?」
「レベルいくつなんですか」
「言わない」
「なんですかそれ」
そう言って思いっきり溜息を吐いて呆れ顔の少女。
うーん、でもなあ。
「態々掴まって敵のアジトまで行くなんて危険だよ」
「そんなの承知の上です。その上で、それでも同胞を助けたいのです」
「私だって目の前で同胞が攫われそうになったら助けたよ」
「何が言いたいんですか」
「別に……」
お互い様だと思うの私だけ? 彼女も彼女で首を突っ込んで同胞とは言え他人を助けようとしているではないか、と。
「どちらにしても、また攫われやすい場所でうろうろするところからです……はあ」
「それなら大丈夫だと思うけど」
「何がですか?」
「私、さっきの奴らマーカーしたから居場所わかるよ」
「は?」
今度は何言ってんだコイツって顔をされた。
うーん、この子表情に気持ちが出過ぎてるよ……これで潜入とか大丈夫なのかな。
「場所が分かる魔法を使っておいたの、だから他の子も助かるよ」
「どうしてそんなことができるんですか」
「そりゃまあ、高レベルだし」
「……そう、なら案内してくれる?」
「いいけど、一緒に行くの? 私一人でも賊くらい殲滅してエルフの子達を解放くらいできるけど」
「貴女一人に任せるなんて出来ないわ。私の姉の為でもあるのだから」
「お姉さん?」
「そう、掴まってるのよ、奴らに」
そう言って悔しそうにする少女を見て、ここまで無茶をする理由がようやくわかった。
「わかった、でも危険だと思ったら私の近くに居てね」
「なんで」
「私が強いからだよ。守るから」
「なによ、本来なら私一人で平気なんだから」
「そうかなあ……」
そう言っているが彼女のレベルは31だ。ぶっちゃけ一人で賊の中に入って殲滅する程強いとは思えない。
そりゃまあ、さっきの賊くらいなら数人相手は訳無いだろうけどね。
「そうよ。それよりほら、早く行くわよ」
最初は敬語だったのに随分口調が砕けたね……。いや、良いんだけどね、多分本物のエルフな分、私より年上だし。
「うんうん、わかったわかった」
「返事は一回でいいわ」
「はーい」
「伸ばさない」
「はい」
なんだか面倒な事に首を突っ込んでしまったなあ。これでまたローテと会うのはお預けだ。
「それで、何処に行ったのよ」
「街の外、山の方かな」
「山の……どこかに洞窟とか、アジトがあるのかしら」
「かもね」
そんなわけで、私はマップを見ながらマーカーした三人組を追って街を出る。
「ところで名前は?」
「リサよ」
「そっか、私はレイナ、よろしくリサ」
「レイナ……?」
私の名前を聞いてふと、足が止まる。
「もしかして……いや、何でもないわ」
「うん?」
もしかして、何だろう。私と同じ名前のエルフでも知っているのだろうか。
「さあ、行きましょう。夜までには着かないと」
「そうだね」
私はリサの言葉に同意する。
夜、暗い中で奇襲を掛けるのは容易い。でも、同胞を逃がすとなると暗い足場ではちょっと心配だ。
「それで、目的地はまだなの?」
「後ちょっとだよ」
走りながら話してる所為か、リサは息が上がっていた。私? 私はレベル100だからね。全然大丈夫だよ。
「そう、なら、ちょっと休憩ね、突入前から息が、切れてちゃ、話にならない、わ」
「そうだねえ」
まあそうだよね、きっとこの子魔法使いなんだろうし、ぜーぜーしながら詠唱っていうのもね。
無詠唱は一応高レベルからのモノだから多分リサには使えないし。
「さ、いこっか」
「えぇ、そうね」
そんなわけで私達は人攫いのアジトと思わしき廃墟になった砦に潜入した。
「うわあボロボロ、こんなところで何してるんだろ」
「貴女もうちょっと警戒心持ちなさいよ……アイツらはエルフを捉えて奴隷として売ってるのよ」
「マジかー」
そういう人たちか……仲良くするのは難しい方々ってことは分った。
「貴女だって一歩間違えれば奴隷になるのよ。今からでも帰ったら?」
「いやいや、そんな薄情な真似できないって」
いくらなんだって同胞が掴まっているのに見捨ててなんていけない。
「そう、なら集中して」
「はい」
といっても、私はマップとサーチで何処に人がいるか分かっている。
さっきから話がてら何人か無詠唱魔法で眠って貰ってるし。
逆にリサは一人だったら気づかず突っ込んでそうだから心配になる。
砦の中、地下に続く階段のところで私は立ち止まる。
「この奥の部屋に4人居るよ」
「さっきの奴らは?」
「いるよ」
さっき私が蹴散らした3人が居る。
そしてさらにもう一人。
「どうする?」
「倒すわ」
「簡単に言うなあ」
相手の強さもわからないのにそんな調子で大丈夫なんだろうか。
「いくわよ!」
「え、あ、うん」
リサはそういうとドアを蹴破り中に入る。
うーん、ワイルドだね。
「なんだてめぇら……ってさっきのエルフ?!」
「兄貴コイツです! この緑髪のエルフに邪魔されて!」
「隣のは俺らが攫おうとしてたガキです!」
「ほう」
「やあやあ、どもども」
「敵に挨拶なんてするな!」
リサに怒られちゃった。
でもなあ、だって兄貴のレベル40だよ?
こんなの相手にもならない。
まあ、リサだけじゃやっぱり危なかったのは間違いないんだけどね。
「俺はホーネット、お前は?」
「レイナだよ」
「レイナ……? その名前に若草色の髪……まさかお前……!」
あ、ヤバイ。これはマズイ。
「えいっ」
「ぐはぁっ!?」
私は一瞬で距離を詰めると兄貴……ホーネットの腹を思いきり殴った。
あ、嘘、死なない程度に思いきり殴った。
「兄貴?!」
「てめぇよくも!」
「おらあ!!」
「えいえいえい」
他の三人は兄貴さんより遥かに弱いのでめちゃくちゃ手加減して小突く。
「っと、これで成敗完了だね」
「な……貴女、一体何者なの……」
「ただのしがない冒険者だよ」
いやあ危なかった。危うくホーネットの兄貴から流星の魔女の単語を聞くところだった。
絶対に勘付いてたよね、あの感じ。
「さ、コイツ等は魔法で縛り上てっと……さ、奥にいこっか」
「え、えぇ。そうね。きっと奥に奴隷にされているエルフ達がいるはずよ」
そういって歩き出すリサについて行く私。
「居た! ラサ姉さん!」
「リサ?! どうしてここに!」
お姉さんの名前はラサというらしい。金髪碧眼の美しい女性だった。
リサもだけど、やっぱりエルフって美形ばっかりだね。
「姉さん達を助けに来たのよ」
「貴女またそんな無茶して……それで、後ろの方は?」
「あ、はろー。私はレイナって言います、まあ、協力者的な?」
「レイナ……? 若草色の髪にそのお名前……まさかと思いますがハイエルフにして流星の魔女の異名を持つレイナ様ですか?!」
「ぐはあっ」
まさかこっちから流星の魔女の名前が出て来るとは思わなかった。
なんで妹は知らなくて姉は知ってるの!
「え、ラサ姉さん、レイナの事知っているの?」
「レイナなんて呼んでは駄目よ! この方はエルフの王族であるハイエルフ、しかもこの国では知らない者は居ない流星の魔女様よ!」
「いやいやいや」
知らない人居るからね、現にリサは知らなかった。
「もしかしてとは思ってたけど……なんでそんな人がアルケの街なんかに?」
「アルケの街にちょっと用事があったから寄ったんだけど、そしたら悲鳴がね、聞こえたから」
「悲鳴ですか?」
ラサさんが不思議そうに尋ねる。
「そ、リサが攫われるところだったんだけど……助けたら怒られちゃった」
私は笑って言うが、ラサさんは笑ってなかった。
「リサ、貴女何をしていたの!」
「それは……ラサ姉さん達を助ける為にこのアジトの場所まで攫われたフリをしようと……」
「馬鹿! そんなことしてただで済むわけないでしょう!!」
「でも!!」
あー、姉妹喧嘩が始まっちゃったよ。
さて。どうやらほかに敵も居ないみたいだから私は他のエルフの子でも解放してこようかな。
「っとその前に、その枷外せます?」
「これですか? これは特別な枷で、魔法を使えなくさせるモノなのです……自分では外せません」
「そうなんだ。じゃあ壊しちゃいますね」
「え?」
私は一言ことわりを入れてからアイテム破壊魔法を使った。
「ブレイクアイテム」
「うそ?!」
私の魔法で枷は簡単に破壊され、ラサさんは自由になった。
「今のも魔法ですか、レイナ様」
「そうだよ。ご存じない感じ?」
「はい……こんな魔法見たことがありません」
そっかあ、これも結構初歩の魔法なんだけどなあ。
魔力とMP消費次第で破壊不能オブジェクト以外は破壊できる魔法だ。
便利なので結構使ってるプレイヤーの多い魔法の一つだったんだけどなあ。
「さ、それじゃ私は他の子の枷も壊してくるね」
「えぇ、お願いしますレイナ様」
「お願いレイナ……じゃなかった、レイナ様」
「いいよ、レイナで」
急に様付けで呼ばれるとかむず痒いというものだ。
「うあ、結構いるなあ」
私はマップで見ただけで10人以上捕まっているのを確認した。
その1人1人に枷がされており、それをすべて破壊して周った。
「はい、これで最後っと」
「ありがとうございます!」
「いえいえー」
こんなことで同胞が救えるんだ、安い物だ。
というかこの件、一回国王に相談すべきだね。
仮にもエルフの王族として、エルフが奴隷にされている現状は何とかしたい。
私にも王族の責務とか責任感が芽生えて来たのかな。
「ちなみにお家に帰れない人はいる?」
一応聞いてみたが、皆で故郷の森に帰るそうだ。
まあこれだけの人数なら大丈夫かな。
「とりあえず路銀あげちゃう」
そういって私は一番しっかりしていそうなラサさんにお金を渡した。
何処まで旅するのか知らないから、結構多めに渡しておいた。
「ありがとうございますレイナ様! このご恩はいつか必ずお返しします!!」
「いやいや、いいよ。王族として民を守るのは当たり前でしょ」
まあ王族は設定で、私としてはそんな立ち位置のつもりあんまりないんだけど。
それでも同胞は助けたいよね。
「それじゃ、私は戻るから」
「はい、ありがとうございました」
ラサさん達と砦跡で別れると、私は足早にアルケの街に向かう、今日はとりあえずアイシェと合流して帰るとして……。
はあ、また来週になったらローテに会いに行こう。
ごめんねローテ。
私はそう思いながら、1人アルケの街に走った。
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※すみません原稿書き換え前のをコピペしてました……ちょっとだけ誤字等の手直しをしました。