レイナと帰郷と孤児院
「はー、暇なのも案外悪くないねー」
私は訓練が休みの日、最近はよく城下町で買い食いをしていたのだが、今日は暇を持て余してみる気分だったので何もせずに過ごしていた。
「なんなら惰眠を貪るという手も……」
そんなことを考えていると、ドアがノックされた。
なんだろうね、誰だろう。
「どうぞー」
「失礼します、レイナお姉ちゃん」
「あら、アイシェ、どしたの」
今日は休日だ、訓練でもないのに私の所に来るなんて……まさかアイシェも暇なのかな。
「レイナお姉ちゃんは何をしていたんですか?」
「うん? 惰眠を貪ろうかと」
「レイナお姉ちゃん……」
なんか呆れられてるよ、どうしたらいい?
「わかった、外に出よう」
「待ってレイナお姉ちゃん、実はお願いがあって来たの」
「お願い?」
なんだろうね、アイシェが急にお願いだなんて。
「休日の稽古ならやらないよ?」
「うん、それはいいの」
「そう?」
前は休日に一人で訓練してて、私が止めさせた経緯もあるのでお願いと言われてそれかと思ったんだけど違ったようだ。
「レイナお姉ちゃん、この街じゃないんだけど、アルケの街の孤児院って知ってる?」
「え、知らないけど」
それは全然知らない、なんで急にアルケの街の孤児院の話が??
「お母さんと手紙でやり取りしているんだけど、お母さん、元気になったから孤児院で働き始めたみたいなんだけど、その孤児院の状態が良くないみたいで……」
「ふむ」
それで私にお願いって言うと何だろう、何をしたらいいのかなあ。
「特に母屋が酷いみたいで……レイナお姉ちゃんなら建て直せたりしないかなって思って」
「あー」
確かに私ならそのくらいはサクッと出来る。
アイシェは私が家をサクッと作れるのを知っているからお願いしてきたのだろう。
よし。
「じゃあ行こう」
「自分から言っておいてなんだけど、いいの? 行って帰って来るだけでも大変だけど……」
「うん? あぁ、アイシェには言ったこと無かったっけ」
というか今思い出した。私、転移魔法あるのに一回もアルケに帰ってない。
ローテにまた来るねって約束してたのに……あはははは。
「私も用事思い出したから、ついでに行ってくるよ転移魔法で」
「えっと、うん」
「アイシェも行く?」
「転移魔法ってなに?」
「あ、そこからか」
私は簡単に転移魔法について説明するとアイシェにめちゃくちゃ驚かれた。
そして。
「それなら私、手紙でやり取りしなくてもお母さんに会える?」
「あ」
それもそうだ。私さえその気になればいつでもお母さんに会わせてあげられたのだ。
ま、まあうん、私も今の今まで忙しくて色々ね、忘れてたってことで。
「それじゃ行こうか」
「うん、レイナお姉ちゃん」
そんなわけで転移魔法でアイシェの家にまで転移した。
「ホントに私の家だ……」
「ね、言ったでしょ」
一瞬の出来事にアイシェが目を白黒させている。
「ただいまー」
「おじゃましまーす」
二人で一緒に扉から入ると家の中は誰も居なかった。
住んでないとかじゃない、今は誰も居ないのだろう。
「お母さんは家じゃないか。シェリーはどうしたんだろ」
「シェリーは妹さん?」
「そうです、シェリーもお母さんの手伝いで孤児院かな?」
「行ってみよっか」
「はい」
そんなわけで私達はアルケの街の孤児院を目指す。
で、道すがら色んな人に孤児院の場所を聞きながらようやく到着。
すると、結構酷いことになって居た。
「これが孤児院……? 廃墟とかでなく?」
「レイナお姉ちゃん……気持ちはわかるけど言い過ぎだよ」
「あ、ごめん」
余りの有様につい酷い感想が声になってしまった。
そのくらい、母屋が酷かった。
「おじゃましまーす」
「あら、レイナさん!」
開口一番、迎えてくれたのはアイシェの母、エイリーさんだった。
「それにアイシェも?!」
「ただいま、お母さん」
親子の感動の再会だね。うんうん。
「どうしてここに? 王都で修行中なんじゃ」
「お母さんから孤児院の状態を聞いて、レイナお姉ちゃんに助けて欲しいってお願いしたの」
「そしたら丁度暇だった私が転移魔法でやって来たって訳です」
「転移魔法……?」
おやおや、本当にこの世界では転移魔法は使われてないんだね。
私はサクッと転移魔法について説明して、それから孤児院の話に戻った。
「それで、この孤児院、経営状況が良くないように見えますけど」
「えぇ、そうなの……私もここで働いているとは言ったけれど、実際はボランティアみたいなものよ、御給金はほとんど頂いてないわ」
「え、まじ」
それは……酷いね、ここの経営はどうなっているのだろう。
国とかからお金が出てたりしないのかな?
というか……うーん。
よし、メンドクサイからここはパワープレイで片付けよう。
「あの、この孤児院の院長さんに会わせてもらえますか?」
「はい、今呼んできますね」
そんなわけで待つこと数分、エイリーさんが年配の女性を連れてやって来た。
「私がこの孤児院の院長のマーガレットです」
「こんにちはマーガレットさん、私はレイナ、ハイエルフです」
私がそう名乗ると、マーガレットは直ぐに膝をついた。
「あぁ、あの噂は聞いております、王国をオークキング率いる群れから魔法一つで守った英雄、流星の魔女様ですね」
「えっ……まあ、はい」
私が王族だから跪かれたのかと思ったけど、それだけでもなかった。
こんなところにまで流星の噂は広がっていたんだね……。
「それで、その、レイナ様はどういったご用件で?」
「えっと、この建物、直していいですか?」
「はい?」
私は自分の力でこの建物を直ぐに直せることを伝えた。
そしてその上で一応了承を得てからにしようと思ったことも。
「お願いしてもよろしいのでしょうか?」
「いいですよ、暇なんで」
どうせほかにやることも無い。なら可愛い妹分のお願いくらい聞いても罰は当たらない。
「えっとアイテムボックス……リソースが足りないから、ちょっと待っててくださいね」
「え、あ、はい」
私は転移魔法でロッキー山脈に行くと、岩を切り出した。
「エアカッター、エアカッターっと」
よし、石材はこれでいいよね。多分。
「でもって戻ってっと」
「一体どこから?!」
私が突然消えて現れたのでマーガレットさんが驚いているが今はそれは置いておく。
「リソース選択、石材、修繕項目、建造物、孤児院」
私はアイテムボックスに仕舞った石材を使って孤児院を立て直した。
「なんと?!」
「よっし、これで母屋は大丈夫だね」
新品の孤児院の出来上がりだ。
「後は……院長さん、この孤児院って経営はどうやってるんですか?」
「は、はい。国からの助成金でやっております」
「あーそうなんだ……」
ふーん、じゃああの国王が悪いのか、それか財務卿か……はたまた末端貴族か。
どちらにしてもこの国には良くない人物がいるようだ。
「ちょっと私、まだやることあるから一回王都に戻るけど、アイシェはどうする?」
「えっと、迎えには来てもらえますか?」
「うん、ちゃんと戻って来るよ」
「それじゃあ、お母さんと待ってます」
「おっけ」
それだけ言うと、私は転移魔法で王都に向かい。
急いで王様の元に向かった。
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