レイナと教皇と祭祀
「暇だねー」
オークキングの一件から半年後、私はサロス君とアイシェの訓練に休暇が無いことに気づいて休暇を週1で与える事にした。本当は週休2日が良かったんだけど、それはサロス君とアイシェに拒否された。
「城下町でも見て回る? それとも図書室で何か読んでみるとか……」
うーん、何をしようかなあ。
そう私が考えながらもダラダラ過ごして居る時だった。
「レイナ様、今お時間よろしいでしょうか」
「え、あ、はい」
扉の向こうから誰かに声を掛けられる。
特に着替え中とかいうハプニングは起きないのでそのまま応対する。
「失礼します。レイナ様、教皇聖下がお呼びです」
「誰それ」
初めて聞く、聖下ってことは宗教系の方だろうか。
「この国で最も信仰されている宗教、戦の神ハラルド神を信奉するハラルド教の長です」
「はへー」
なるほど、つまり偉い人だね。
そんな人に呼ばれるなんて、何かしたかな私。
「ご同行願えますか?」
「いいですよ」
まあどうせ暇してたし、偉い人と謁見なんて疲れそうなイベントだけど、暇には変えられないね。
「それではご案内します」
「はーい」
そんなわけで、私は呼びに来た騎士……もしかして教会が関係あるなら聖騎士だったりするのかな、まあ、その騎士さんに付いて行く。
「こちらです」
「あら」
案内されたのは応接室だ。こんなところに偉い人待たせて大丈夫なの?
「失礼します! レイナ様をお連れしました!!」
「入りなさい」
「どうもー」
私はそろりと部屋に入ると、そこに居たおじいさんとその両脇に立つ騎士二人に目が行った。
護衛……かな?
「貴女が噂の流星の魔女様ですね」
「ま、まあ、はい」
その二つ名は止めて欲しいけど、偉い人相手に面と向かって言うのは憚られた。
「今回お呼びしたのは他でもなく、貴女様の力の事です」
「え、はあ」
それって国王様も言ってた奴かな。
アレから半年経ったけど、今更何を?
「その力、神から与えられたものではありませんか?」
「え、どうでしょう」
急に神とか言い出したよ。どうしようこれ。
「レイナ様はご存じでしょうか、王からのお触れが出て以来、民衆の大半はその内容に安堵し、流星の魔女を味方だと認識していることを」
「えぇ、まあ」
それは知っている。城下町に降りても何の問題にもならない。
むしろ私が例のハイエルフだと気づくとお礼と称して色々してくれる人たちもいるくらいだ。
「ですが同時に、王の言葉を信じられず、未だに恐怖している者たちが居るのも事実です」
「そうなんですか?」
それは知らなかった。そういう人たちも居たんだね。
「そこでご提案があります」
「はい」
なんだろ、提案……宗教の人の提案……?
「この度貴女様の作られたクレーターの上に神殿を築きました。そこで祭祀を執り行い、貴女様を神の使徒という事にして祭り上げるのです」
「え」
何それ、なんか嫌な予感がするんだけど。
「そうすれば我々ハラルド教が全力をもって支持しましょう、そうなれば、残りの民衆も教団の声に耳を傾け、安堵できるでしょう」
「はあ」
なるほど、これは壮大な宗教勧誘だね。
「それで、どうでしょうか?」
「まあ、できれば皆に安心して欲しいですよね」
「では」
「ただし、私、神の使徒ってことになっても今までと変わらないですよ? 教会に与したりしません」
「分かっております。貴女様は自由を好む、そういうお方とお見受けします」
「よかった、それなら問題無いですね」
このおじいさん、見る目は確かなようだ。
私は自由に生きたい。その為にだったら何だってする。せっかくの二度目の、自由の効く体での人生だからね。
「それでは祭祀を執り行いましょう」
「いつですか?」
「実はもう準備は済ませてあります、今からが良いでしょう」
「善は急げですか」
いやー、本当に準備が良いね、私が断ったらどうする気だったんだろう。
「その前に、お名前をお伺いしても?」
「そうですね、申し遅れました。わたくし、ジェム・アーリーと申します。以後お見知りおきを」
「よろしくお願いしますね」
さて、それじゃあ祭祀ってことだから準備はしっかりしないとね。
「見た目が豪華な方が良いかな」
そう思っていつもの防具じゃなくて見た目がよいドレスに着替えることにした。
「装備っと」
「おぉ!」
私が目の前で急にドレス姿になると部屋に居た皆が驚く。
まあそうだよね、見慣れないよね。
「流石は神の使徒、それでは参りましょうか」
「はーい」
そして着替え終わった私はジェムさんと騎士の方々と共に神殿に向かう。
その最中、城を出たところで異変に気付いた。
「あれ、なんかお祭りムード?」
「えぇ、今日貴女様を神の使徒と認め、洗礼の儀を行うと触れが出ていますからな」
「ホント、私が断ったらどうする気だったんですか……」
準備が良いにも程がある。私が断らなくてよかったね。
「その時は教会の祭祀に顔を出さなかった敵、魔女という扱いになっていたでしょうな」
「うっわ酷い」
私の言葉に笑うジェムさん、とんだ食わせ物だ。
「それでは行きましょう、馬車を用意してあります」
「はい」
そんなこんなで馬車に乗って神殿に向かう中、皆の歓声に迎えられて進む道は中々悪い気はしなかった。
「さて、着きますぞ」
「ついにかあ」
ついに洗礼とかいうのを受けてしまうらしい。どうなるんだろうね。
「それでは中へ……これより洗礼の儀を執り行います」
「はい」
私はクレーターの上に建てられた神殿に入ると、凝った内装に目を奪われかけたが、そんな時間はなかった。
私は1柱の神を模した像の前に跪くと、洗礼を待つ。
多分こんな感じでいいよね? 違ったら誰か言うよね??
「戦の神ハラルド様、この者に祝福を与えたまえ」
儀式はそのまま進み、そして、驚きの現象が起きる。
「な、なんだこれは?!」
「おおぅ」
戦の神ハラルドの像が光っている、それはもう、後光が射しているとかいうレベルで。
そして、光は収まることなく広がっていき……。
気が付くと、見覚えのある、ある場所に、私は居た。
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