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レイナと稽古とハンバーグ

「脇甘い、体が剣に流されてる!」

「は、はい!」


 後日、早速私達は訓練を行っていた。

 といっても行き成り魔物相手のモンスターハンターなんて無理だからまずは基礎的な戦闘技術を学ばせる。

 とは言えこれはほとんど独学した物だから正しいかと言われると分からないけど。


 しばらくアイシェの相手をして、休憩に入る。


「アイシェの武器だけど、エストックなんだね」

「あ、はい。お父さんが使っていたので」


それを真似してってことかな。そういえばお父さんに少しだけど習ってたんだっけ?


「私には不釣り合いでしょうか?」

「ううん、珍しい武器だなあと思って」


 刺突と斬撃、両方を想定した中々マニアックな武器だと思う。

 私個人の価値観で、そうでも無いかも知れないけど。


「さて、次はサロス君やろうか」

「はい!」


 アレから私はサロス君のことをサロス君と普通に呼ぶようになった。

 こっちは王族だし相手は勇者だ。それなら君付けでいいだろうという考えだ。


「人間を相手にする時は常に相手の思考を意識して。隙があるからってそこに飛びついたら罠ってこともあるからね」

「はい!」

「それから近距離での大振りは止められやすいの。だから小さく多く手を出すように意識して。ただしスタミナ配分を忘れない事」

「はい!!」


それから私は半年掛けて二人に色々なことを教えた。近接戦闘の基本から中遠距離戦闘を好む相手との立ち回り方、格上と戦う際の注意点、連携することの大切さとか、様々だ。

 因みにアイシェのお母さんにはアイシェに手紙を出させて連絡を取っている。

 何せ王宮で数年間預かるんだからね、ちゃんと連絡しないと大変心配を掛けてしまう。

 いや、連絡したらしたで心配されたんだけど……それは割愛しよう。


「はぁはぁ……レイナさん、強すぎです、これだけ動いて、息も乱さないなんて」

「レイナお姉ちゃんは一体どれだけ強いのか底が見えません……」

「あははははは」


 笑ってごまかすしかない。

 二人のレベルをこっそりプロパティでちょこちょこ見ているのだが、最初はアイシェが10レベル、サロス君が8レベルだった。

 それが今では20レベルと19レベルだ。これがこの世界でのどのくらいの強さかは何となく知ってる。

 そこら辺の騎士のレベルが実は20~25なのでアイシェはもう騎士並みに強い。

 そしてサロス君もまた、騎士に一歩及ばないものの相当の実力者というわけだ。


 半年でこの変化、実際成長速度としてはどうなんだろう。

 今度騎士団長辺りに相談してみよう。

 因みに騎士団長は35レベルと中々の数値だったよ。


「さて、今日はここまでにして、お夕食にしましょうか」

「「はい!」」


 そんなわけで私達は食堂に向かうことにしたのだけど……。


「気が変わった」

「レイナお姉ちゃん?」


 私は急にハンバーグの気分になった。というか、もとから割とそうだった。

 というのもこの世界の料理、美味しくないわけでは無いのだが、ぶっちゃけうん、アレなのだ。

 私はゲーム内でも料理スキルを取っていたので、それで料理が出来るはずだ。

 食材もあるし、うん、たまには自分で作ろう。


「今日は私、自分で料理する」

「え、レイナお姉ちゃんは料理も出来るんですか?」

「まあね、アイシェも食べる?」

「はい!」


 きらきらとした笑顔を見せるアイシェにこれはマズイ物は出せないと気を引き締める。

 そしてよく見ると、横でサロス君も何か言いたげだった。

 こういう時結構遠慮しいなのだ、サロス君。稽古とかは結構貪欲だけどね。


「サロス君も良かったらどう?」

「いいのですか?」

「いいよ。三人分ね」


 そんなわけで調理場を借りて料理をすることにした。


「さてと、おじゃましまーす」

「これは、レイナ様、本日は何様ですかな?」

「ガゼフさんこんにちは。ちょっと調理場をお借りしたくて」


 私は彼、王国の料理長をやっているガゼフさんに厨房を借りる許可を貰おうとした。


「ここを? レイナ様は料理をなさるのですか?」

「ええ、まあ」


 ガゼフさんの言葉には王族なのに? という疑問が浮かんでいるのが分かる。


「……良かったらガゼフさんも食べてみます?」

「よいのですか?」

「ええ、まあお口に合う保証はできませんけど」


 一応ね、こうでも言っておかないとこの世界の基準では美味しくないかもしれないからね。


「さって、何にしようかな」


 私は自分のアイテムボックスと城の貯蔵庫を見ながら何を作るか考える……。


「うん、ハンバーグの口だね」


 結果、ハンバーグが食べたいという欲求が再浮上したので、それに乗っておくことにした。


「タマネギみじん切り~ひき肉こねこね~塩コショウもして~っと」


 私はサクサクとハンバーグの下ごしらえをする。

 因みに肉は牛100%だよ。この世界じゃ珍しいと思う。


「レイナ様、その、随分とお上手ですね」

「へ? そうですか?」


 私が料理しているのを見て、ガゼフさんがそんな事を言う。

 まあ料理スキルレベルMAXだから上手いには上手いだろうけど。

 何せMOAの料理は本当の料理とそん色なかった。自分で素材選びをして、調理工程を挟んで、料理を作っていた。

 スキルで一瞬とかでも出来るけど、それは一度作った料理に限る。

 なので料理スキルレベルMAXなんて結構珍しかった。何せ本当に料理できる人じゃないとそこまで上がらないからね。

 でもゲームでは様々なバフが得られたから大変好評だったスキルの一つでもある。


「後は焼いたら出来上がるんだけど……」


 流石にハンバーグだけだと寂しいので、切ったニンジンを炒め、ジャガイモをフライドポテトにする。

 これでサイドメニューも充実の一皿が完成だね。


「さてっと、これをスキルで複製っと」

「ぬお?!」


 私がスキルでハンバーグを作り出すと驚くガゼフさん。

 あれ、なんか変な事した?


「な、なんですかコレは!」

「え、ハンバーグっていう料理だけど」

「ハンバーグという料理なのですか……ではなく! この、一瞬で料理が?!」

「あ、あぁ……」


 そっか、そういえばそうだった。

 この世界、スキルと魔法が衰退してるんだった。


 ここ半年、サロス君達の教師をしながら私もこの世界の勉強をしたのだが、なんとビックリ、この世界、MOAの500年後の世界だった。

 MOAの頃にあった国は過去のモノ。魔法やスキルも衰退し、今では武技なるMOAには無かった技などがあるようだけど、それだけで、魔法等は一部の剣の振れない人が使う力みたいな端役のような扱いだった。

 何せ本来8階級あるはずの魔法がこの世界じゃ4階級しかないことになっているくらいだ。

 いや、500年って結構色々変わっちゃうものなんだね。

 で、話しを戻すと、そんな世界でスキルで料理を作ったら、まあうん、驚かれるよね。


「スキル何ですけど、ご存じないですか」

「え、えぇ、すきる、というのですか」

「えぇ、結構便利なんですよ、これ」


 まあとりあえず料理もできたし、早速食べたいところだ。


 私はメイドさんにお願いして食堂までハンバーグを運ぶのを手伝ってもらう。

 四人分だからね、一人で運ぶにはちょっと多い。


「さてと。それじゃあ頂きます」

「「「頂きます」」」


 食堂に着くと私達は早速ハンバーグを食べる。

 うん、美味しい。流石料理スキルレベルMAXだね。

 そう思いながら私が黙々と食べていると、一人、テンションがおかしな人が居た。


「うぉおおおおおおお!!! なんだこの味はぁあああああああああ!!!!!」

「な、なんですか、大丈夫?」


 ガゼフさんがめちゃめちゃテンション上がっていた。

 急に立ち上がってるし、どうしたのこの人。


「レイナ様! このハンバーグという料理! 美味しい、美味し過ぎます!!」

「え、ああ、どうも」

「このソースは一体……肉も柔らかくジューシーで、それにこのホクホクとした芋も……一体何です?!」

「えっと、ソースはデミグラスソースで、肉は食用に育てた牛のひき肉で、芋はジャガイモを揚げただけだけど……」

「なんと……そんな……そんなことが……」


 何か色々衝撃を受けてしまったのか、ふらつくガゼフさん。


「これは……私が作るどの料理よりも美味い……」

「そ、そんなことないですよ」


 なんか泣きながら感動しているガゼフさんを慰める私。いや、これは予想外の展開……。


「いえ、そんなことあります。これからはこの国の料理長はレイナ様でもおかしくありません!」

「いやいやいや、やらないですからね」


 ただでさえ教師をやっていて自分の時間が少ないのだ。

 他の大多数の為に料理している時間なんて無い。


「そうですか……ですがせめて、この料理、一度国王陛下に味わっていただくことはできないでしょうか?」

「え、嫌ですけど」


 全然嫌だ。王様に料理出すとかそんなの私みたいな普通の女子高生がすることじゃない。

 ……まあ、今はハイエルフだけど。


「ではせめて……その……レシピを教えては頂けませんか」

「いいですよ?」


 それなら簡単だ。私が作るわけでも無いし、今後食べたいときに食べられるのは良いことだ。


「よいのですか? 料理のレシピは言わば料理人の命、魂ですよ?」

「私、料理人じゃないですからねえ」


 一応世界を旅するエルフの王族、ハイエルフさんだ。料理は出来るけど料理人ではない。


「それに私の作ったレシピって訳でも無いし」

「そうなのですか? エルフの民族料理のようなものなのでしょうか?」

「いやあ、それは無いと思うよ」


 正確にはネット知識だ。

 ネットで調べて、その通り作ったのを覚えているだけだ。


「それじゃ、教えるから一緒にまた厨房に行きましょうか」

「はい! お願いいたします!」

「サロス君とアイシェはゆっくり食べてていいからね」

「「はい」」


 私とガゼフさんは食事を直ぐに済ませると厨房に向かった。

 この後、ハンバーグを教えた私は、調子に乗って他の料理も作ったんだけど……流石に全部教えることは出来なかった。


「料理の世界はまだまだ広かった……ありがとうございます、レイナ様、おかげで新しい世界を視る事が出来ました」

「そ、それはよかった」


 そこまで言うと言い過ぎな気がするけど……。

 まあ、皆で美味しい食事を摂れてよかったねってことで、今回は気にしないでおくことにした。


ご読了ありがとうございます。

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次回更新も不定期ですが、書け次第の更新となります。

今後ともよろしくお願いいたします。

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