剣聖と魔神と劣勢
「厄介ですね」
流星の魔女、レイナ殿に任された魔神の分身の足止め。
ローソンさんと共に戦うこと数分、既に戦況は芳しくない。
「最初の魔神と比べて、武器を使わない点、これが厄介とはなんとも言えないな」
ローソンさんがぼやく。気持ちはわかる。何しろ初めての体験だ。武器を持たない、いや、その身一つが武器である相手が、これほどまでに厄介であるという体験は。
「来ますよ」
「ああ」
魔神が我々を倒すべく距離を詰めてくる。対する我々は、迎撃すべくその場で剣を構える。
「くずきり!」
ローソンさんが軟化の魔剣を使って連続の剣閃を繰り出す。
対する魔神はといえば、それを体で受ける。そしてのそのまま、残った部位で反撃してくる。
「つっ! 魔神というのは本当に厄介だな!」
ローソンさんの言うことは本心だろう。本当に厄介なのだ。
何せ魔神はその身を武器にするだけあり、恐ろしい程の身体能力と鍛えられた(?)体つきをしている。
しかも私の魔剣では傷一つ付かない程の硬さを持っている。だから基本的には私は攻撃には参加できない。かといってローソンさんだけだと決定力に欠けていた。
「また再生したか」
「そのようですね」
これが決定力に欠ける理由。
魔神は再生するのが早かった。魔法で回復している様子がないのだから、そういう存在なのだろうと思うしかない。
ローソンさんの軟化の魔剣できり飛ばされた、硬質な腕や足が再生する。
攻防一体の強靭な体。それが再生していく。それは悪夢だった。
一般的に武器を使う相手との闘いなら、武器を無力化。つまり使えない状態にすればいい。
それは相手が格闘家や魔法使いでも変わらない。格闘家なら四肢を、魔法使いなら魔法を使えなくすれば、無力化できる。
だから、魔神相手もローソン殿は四肢の切断を狙った。しかしどうだ、かの魔神は超速での再生能力がある。
剣を壊せば直すのは容易ではない。それは生命のない武器ならそうだ。魔法も、魔力切れなら使えない。こちらは回復するが、すぐではない。
しかしどうだろう、目の前の魔神は武器が、体が再生する。
とてつもなく厄介な相手だ。
「はぁ……はぁ……」
ローソンさんの息は上がり始めていた。これはこの数分の死闘が原因……ではない。
我々はレイナ殿が来る前から、この街を守るために闘っていた。故に既に体力は消費した後。レイナ殿に任されたのが時間稼ぎとはいえ、厳しいものはある。
「ローソンさん、少し休んでください、しばらく私が防戦します」
「すまない……」
魔神は、レイナ殿の方に向かったりする様子はない。我々をここで始末するつもりなのだろう。
カキンッ!
思考の合間に高速の突進からの掌底が飛んでくる。それをギリギリのタイミングで受ける。
「くっ。人外の存在でありながら、武術の心得のある動きとは」
拳ではなく、掌底だった。なぜそうなのか、理由は直ぐにわかった。
「そう来ますか」
掌底を受けた剣を、そのまま手のひらを使って掴む。そう、掴まれた。
強靭な体があるからこそ、軟化の魔剣でない、私の剣を掴んだのだ。そして。
「がはっ」
武器を諦め、手を放そうとした瞬間、逃がすまいと、いや、ここで殺すとばかりに打ち込まれた一撃。
しかしこれは剣から手を放し、動き出していただけに、浅かった。浅かったが。
「し、死にかねない威力ですねぇ」
いいながら、ポーションを飲む。回復するが、痛いものは痛い。
「武器も失い、どうしたものか」
魔神は私の剣を、興味ないと言わんばかりに無造作に捨てた。
拾いに行くか? いや、その余裕は無いだろう。
さて、本当にどうしたものか……。
そう、考えていると。
「これは……剣?」
レイナ殿のいる方向から、剣が飛んでくる。
それは魔神を通り過ぎ際に切り裂くと、私の手元に来た。
「これを、使えと……?」
レイナ殿からの支援といったところだろう。魔神をたやすく切り裂いた剣を、そっと握る。
「これならまだ、時間が稼げそうですね」
「ふぅ……そうだな」
息の整ったローソンさんも参戦する。
さあ、まだまだ粘りますよ。
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