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レイナと遊びと神の名

今回はいつもの倍以上文章量があります。ごゆっくりお読みくださいませ。

「あらあらどうしたのよ、逃げてばかりじゃない」

「っ! 言ってくれるなぁ!」


 ハラルド神の振るう鞭のような剣から発せられる無数の斬撃、それをただひたすらに避ける。

 避けて、避けて、避けて。そうしてもう既に何分経っただろう。


「お得意の誘導とか、しないのかしら」

「できないの、わかってって言ってますよねぇ!!」


 格下相手なら避けながら好ましい未来、行動に誘導もできる、でもハラルド神は……。

 うん、認めよう、この神様は間違いなく戦の神。モノ・ト・メルロンで未来確定を使って何とか『避けている』状態だ。誘導する余裕なんてない。


「ソード……っう!」

「ごめんなさい? それ、キャンセルで」

「あぁもう!」


 ゲーム内でもあった、鞭剣の特性。それは対象の行動を一定確率でキャンセルさせることだ。

 それが物凄い回数、えげつない速度で飛び交っているので、何か行動を挟もうにもキャンセルが続いて何もできない。

 とはいえこれもゲームではせいぜい一回の攻撃あたりに1%~3%程度の確率しか無い物だった。こんなにキャンセルされるようじゃゲームとして終わってるし。

 つまり……。


「チート過ぎる!!」

「お褒めにあずかり光栄だわ?」

「余裕が腹立つ~!!」


 チート強化された鞭剣は、キャンセル率100%だった。

 どんな魔法もスキルも行動も、キャンセルされまくる。

 とはいえこれにも弱点はある。

 それは、どこまで行ってもキャンセルでしかない、ということだ。

 あくまでもキャンセルなので、無かったことになっている。だから魔法なら魔力を消費しないし、スキルなら体力を、消費しなかったことになっている。

 だから、試行回数的には、何度だって行動をやり直せる。とはいえ、だ。それはせいぜい確立が3%しかなかったゲームでの話。確率100%でキャンセルされるこれは、いくら試しても結果は無し。無い物はなんどやってもない。無意味だ。


「さあ。いつまで回避する気力、集中力、体力が持つか楽しみねぇ」

「むむぅ!」


 それを言うならこの神様、いつまでこんな濃度の攻撃続けるつもりなのか。

 体力無尽蔵ですか……。


「クソッ、手数と威力が大きすぎて下手に近寄れない……!」

「すみません、レイナさん、私達ではこれに介入はできませんっ!」

「だよねぇ!」


 私はひたすら攻撃を避けながら、それでもアイシェとサロスに攻撃が向かないよう、全力で手を出す努力をしている。

 じゃないと一瞬でも隙を見せれば、サロスとアイシェに鞭剣が向くだろう。その場合、アイシェはまだ避けられるかもしれないけど、サロスはリタイアだ。


「どうしようかな!」

「ふふふっ、楽しいわねぇ」

「どうしたらレイナさんを…………あっ」

「ん?」


 なんかアイシェ、今思いついたの?

 あの子は賢い子だ。何か思いついたなら、試す時間をあげたい。何か打開策になるだろうから。


「アイシェ! 任せた!!!」

「え? はい!!」

「うん?」


 私は首をかしげるハラルド神に、今まで以上にスキルや魔法の試行回数を増やす。

 アイシェの邪魔は、絶対にさせない!!


「イデア・ケラヴノス!!」

「キャンセル」

「ソードビット!」

「キャンセル」

「ファント……」

「キャンセルで」

「だとしてもっ!」


 兎に角、手数を出す振りでいい、キャンセルを全部こちらに向けたい。

 そういう意味では、これは狙い通りだ。


「何かアイシェが企んでいるみたいね?」

「そうですねっ! ケラヴノス!」

「いったい何を……って、あれはっ――」

「?」


 ハラルド神の顔色が変わる。見るからに……焦ってる。


「ちょちょちょちょちょちょちょっ!! そんなもの使う気?!!!!!」

「何? ん? え、あれは……」


 アイシェの手を見ると、持ってた。

 アレを。そう、私が渡した、あの……。


「ヘブンズ・ソードじゃん」


 ハラルド神が焦っている理由が分かった。アレの威力を恐れてのことだろう。


「そんなのさせるわけないでしょう!!!」

「残念、あれは通すよ!! イデア・ケラヴノス!」

「舐めないでくれる?! その程度キャンセルするまでもないのよ!!」


 そういいながら初めて攻撃を避けるハラルド神。なら!


「だったら、ソードビット、メテオ・フォール、ファント……」

「あぁもう、うっさい! キャンセル!!」

「つっ、今だよアイシェ!」

「はいっ」


 その声と共に、ヘブンズ・ソードから光線……レーザー。ビームが放たれる。

 そして。


「つっ! ……もう知らない、手加減無しよ!!」

「え」


 手加減無し? 遊ぶ程度の力、なのでは?

 そんなことを私が思った矢先。ヘブンズ・ソードのレーザーが、消えた。


「なっ」

「……はあ、はあ、残念だったわね」

「いったい何を??」

「ふ、ふふ、舐めてもらっちゃ困るわ。私はこれでも、錬金の天才。1にして全であり、全にして1。その法則外にあって無を有に、有を無に規定する者よ。この程度、世界の一部として再構成するくらい、わけないわ」

「つまり??」

「わからない? ビームなんて言う事象はね、いくらでも分解してそうなる前の状態に戻せるのよ」

「つまり、高密度のエネルギーを分解して攻撃力に変換される前のただの熱量に……世界の一部に戻した?」

「そうね、その認識が近いわ」

「うっわ、ずるい」


 つまりこの神様。魔法なら魔法という事象になる前の魔力に戻すような、そんな感覚でビームを熱量に、戻したようだ。

 しかも分解っていうのがたちが悪い。高密度のエネルギーだから攻撃力になるのだ。分解されてしまえば、現実に影響を及ぼす現象には至れない、認識できず、現実に影響しないそれは無に近いのだろう。


「権能ですか?」

「この程度が? まさか。これはただの錬金の一工程。分解と再構築の、分解の部分よ」

「なるほど。ん、つまり」

「これからが、本番よ」


 そう言ったハラルド神の手元が光る。

 もし、だけど、私の考えが正しかったら……!


「サロス! 鎧を使って防いで!」

「え。あ、はい!」


 サロスは着ていた鎧を即座に外し、そして。


「さ、お返しよ?」

「サロス!」

「任せてください!」


 光った手元から放たれる、ビームにサロスの鎧が当たる。

 そして、防いだ。


「あら残念、そんなのもあったのね」

「死んだらどうするんですか!!」

「それ、こっちのセリフだから」

「うぐっ」


 ハラルド神のツッコみにぐうの音も出ない。

 確かに先に物騒なビームを使ったのはこっちだ。


「それにしても、ふうっ。楽しいわね?」

「こっちはそんな余裕ないですけどねっ!」

「そお? じゃあそろそろ、再終幕にしましょうか」

「人の話聞いてます?!」


 ハラルド神は、ふわっと空に上がると、何かをしだした。


「ねえ、貴方達『神の杖』って兵器、知ってる?」

「神の……?」

「杖?」

「それって……!」「


 二人は知らないから、疑問符だけど、私は、知ってる。

 どっかの国が造ろうとした、衛星軌道兵器だ。

 ざっくり言うと、質量のあるものを宇宙から地上に向けて射出して、加速度的に威力を増した状態でぶつける兵器。

 疑似隕石みたいな? 確かそんな感じの……。


「それが、どうかしましたか」

「不遜な名よね。神を名乗るなんて」

「えぇ、まあ」

「傲慢で腹立たしいわよねぇ」

「そう、ですね」

「でしょう? たかだか物体を高所から落っことすだけで、神の名を関するなんて」

「それが、どうかしましたか」

「あら、また同じ質問。まあいいわ、答えましょう。今から本当の神の杖を見せてあげるわ」

「正気ですか?」

「正気も正気よ。最後のテストだと思って?」

「はぁ……もうっ!」


 この神様、何が狙いなんだろう。

 遊ぶ程度と言いつつ、ここまでヤバい戦闘力を突き付けてくるとか、大丈夫だろうか。


「それじゃあ、行くわよ? 私の最大火力にしてお気に入り。名を『神の槍』」


 そう言って、ハラルド神は手を空高く上げ、そして。


「防がない方が身のためよ? さあ、どうするか、見ものね?」


 手を、振り下ろした。


「転移!!!!」

「え」


 ハラルド神の間抜けな声が聞こえる。でも気にしない。こんなの一旦帰るしかない。

 だって見えた未来で、これ以外の択、全滅だし。


「なんとか、生きてるね」

「あ、はい、レイナさん、えっと、よかったんですか?」

「いいの、あのおバカには後でキツく言っとくから」

「で、でも……」

「い・い・の!」


 ホント、あの神様、ちょっとどうかしてる。

 私はともかく、アイシェ達まで死にかねない。おふざけも大概にして欲しい。


「さて、私の家戻るよ」

「は、はい」


 あの攻撃、避ける場所を間違えたら空間ごと殺されてたので、一回神域から下界に転移したのだ。

 なので、もう一回神域に戻る必要は、ある。


「で、アシエ……いえ、ハラルド神?」

「あーら、おかえりなさい」

「おかえりなさいじゃないですよ!!」

「なによ、めっちゃ怒るじゃない」


 そりゃ怒るでしょ、あんなもの使われたら。


「なんですか、あの未来」

「神域ごと消し飛んでたでしょう」

「えぇ、視えてなければ即死でしたよ?」

「そうねぇ」

「そうねぇって」

「でも、視えてるの知ってるし」

「まあ、そうですけど」

「確定もできるでしょう?」

「まあ」

「ならいいじゃない」

「頭おかしいよこの神様……」

「神、さま?」

「あ」


 ここにきて、私はこのおバカな神様を神と言ってしまっていることに気づいた。


「もう、レイナったら。そうよ、神ですが、なにか」

「え、え」

「か、み?」

「かみたま」

「かにたま?」

「美味しそうになっちゃったわね?」


 レナとレイの言葉にハラルド神がツッコむ。いま、そこじゃない。


「っと、そうね、そこじゃないわね。私は何を隠そう、ハラルド神よ」

「戦の神の、ですか?」

「そうよ?」

「そ、それで、あの強さなんですね……」

「あら、あっさり認めるわね」

「まあ、レイナさんを見てるので」

「どういう意味かな、それは」


 なんで私を見て、納得なのかな。


「いえ、レイナさんを見て、日ごろから神掛かっていると感じているので」

「その師匠と対等以上に戦えるとなれば、戦の神でも嘘は無いかと」

「おおぅ」

「信心深くて何よりだわ?」

「そういうのじゃないと思います……」


 まあ、信じてくれたら説明省けて、いいんだけどね。


「で、あの兵器は?」

「あぁ、神の槍? 仕舞ったわよ」

「そう、ですか」

「ええ」


 にっこり笑うハラルド神、よくあんなものぶっぱなした後に笑えるなぁ。


「あれ、神の杖とは違うんです?」

「まあ、魔力で高密度化したミスリルを衛星軌道上から電磁投射する兵器だから、全く別物よね」

「なんてことしてるんですか……」


 もう完全に、ファンタジーとSFの融合だ。

 魔力で変質する、ファンタジー素材なミスリルさんと、衛星軌道からの電磁投射……おそらく超電磁砲とかいう合わせ技。そりゃあ神域だって消し飛ぶ。


「神を名乗るなら、このくらいしないとね?」

「はぁ……死ぬかと思いましたよ?」

「もー。わかったわよ。何度も聞いたわ? お詫びにこれあげる」

「なんですか、これ」


 私達は全員、子供たちの分まで何か、アメのようなものをもらった。


「ふしぎなあめよ」

「……そのネーミング、まさか」

「そう、レベルが上がるアメよ」

「……」


 そんなもの、おいそれと渡していいの?


「限界も超える不思議な飴だから、遠慮なく食べなさい。ちなみにイチゴ味よ」

「限界超えるような飴、こんなにホイホイ渡していいんですか」

「まあね、遊んでくれた褒美よ」

「……まあ、そういうことなら」


 なんか企んでそうだけど、まあいいや。

 とまあ、そんなわけで。こうしてハラルド神とのお遊びの戦闘は終わったのだった。

 ……飴食べて元気だそ。


ご読了ありがとうございました!

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次回更新は次回日曜日の21:00までを予定しております。

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この神様何やってくれちゃってるんですか~(笑)
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