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レイナと護衛と旅支度

「今日も元気ー! ありがたい!」


 オーガの一件から二週間ほど、私は自堕落な生活を送っていた。

 というのも理由がある。

 SランクどころかAランクの依頼すらまともに無いのだ。

 かといって下のランクのクエストを荒らすような真似もできない、なので自宅……おっと、もとい宿でだらだらと過ごすしかないのだ。うん、仕方ないね!


「何か楽しい事、無いかなあ」


 ここ最近冒険をしてない。冒険者なのに。

 そろそろこの街から旅立つというのも考えてみてもいいのかもしれない。

 そう私が思っていた時だった。部屋の扉がノックされたのは。

 まだご飯時じゃないんだけどなあ。


「レイナお姉さん、お客様が来ています」


「へ?」


 そんなことある? 私がここに泊まってるなんて誰にも言ってない、何で知られてるのかな。


「まいっか。はいはーい、どちら様ー?」


 私が扉を開けるとそこに居たのは。


「ヘレナさん?」

「おはようございますレイナさん」


 なんだってギルドの受付のお姉さんが私の所に?


「最近顔を出されないのでこちらから出向きました」

「というと?」

「はい、レイナ様を指名した依頼が入っております」

「わーお」


 なるほど、それで最近ギルドに顔を出さない私をわざわざ探してきてくれたってわけだ。


「それで、依頼ってどんな?」

「立ち話もなんですので、何処か落ち着けるところで」

「それならうちの食堂を使ってください、今の時間なら人も少ないので」

「じゃ、そうしよっか」


 そんなわけで私達は食堂に移動することにした。


「それで、依頼って?」

「はい、さるお方の護衛任務です」

「護衛ねえ」


 私魔法職だからタウントとか出来ないんだけどいいのかな。

 まあバリアを張って守るくらいは出来るけどね?


「この街では優秀な冒険者は数少なく、その中でも一応優秀だったラッツ達もレイナさんとの一件以降、街を離れてしまったみたいでして……」

「な、なるほど」


 それって遠まわしに私の所為で受ける相手が居なくなったって言われてる?

 そんなことない??


「そこでレイナさんに指名で依頼が届いたのです」

「なんで指名なの?」

「そこまではわかりませんが、恐らくAランクに収まらない実力からだと思われます」

「なるほど?」


 私ってそんな風に見られてるんだね。へー。


「まあ丁度暇だったし、旅にでも出ようかなあと思ってたからいいよ?」

「そうなんですね、それではよろしくお願いします」

「ところで護衛って私一人? 場所は何処まで??」

「そうでしたね。護衛は他にこの街の近衛騎士が数十名、場所は王都カザリスまでです」

「王都……ねえ」


 王都までさるお方を護衛。

 まさかと思うけど王族とかじゃないよね??


「出発は明日の朝だそうです」

「また急だねえ」


 それじゃあ今日は皆に挨拶して周ろうかな。

 短い間だけどお世話になった街、お世話になった人達がいる。


「じゃあ私、旅の前に準備してきますね」

「そうですね……王都までは長い道のりですから、準備は大事です」

「な、なるほど?」


 そっか、王都までって長い道のりなんだ……。


「それじゃあまずは、ヘレナさん、お世話になりました」

「え、ああ、はい、そうですよね、暫くお別れですもんね」


 私は早速旅の前の準備……もとい挨拶周りを始める。


「そうですそうです、お別れだからお世話になった人に挨拶して周らないと」


 そんなわけで後この宿で二人、挨拶しないといけない人がいる。


「オリヴィエさん」

「話なら聞いてたよ。宿を引き払うんだろ?」

「そうなりますね。長い間お世話になりました」


 ここでの生活は3週間程だったが、本当に色々とお世話になった。

 主にご飯とか、ご飯とか。


「ローテにも挨拶してやって、あの子あんたに懐いてるからね」

「そうですね、ローテちゃんは今どこに?」

「井戸で水を汲んでいるはずだよ」

「ありがとうございます」


 場所を教えてもらった私は早速井戸へ向かう。

 この宿の井戸は裏庭だ。


「ローテちゃん、こんにちは」

「あ、レイナお姉さん、こんにちは」


 さて、どうやって切り出そうかな。

 ちょっと言い難いよね?


「その、私、ね。今度依頼で王都まで護衛をすることになったの」

「え、それじゃあ……」

「うん、暫くはお別れかな」

「そう、ですか……」


 出会いがあれば別れもある、それが旅だと思う。

 そう言う意味ではこれは仕方のない事なんだけど、ちょっとしんみりしちゃうね。

 ゲームの時だってそうだった……って、あ。


「あ。でも私、すぐ戻って来れるから」

「そうなんですか?」

「うん、多分」


 そういえば一度行った街とかに転移出来る魔法があった。

 この世界で使ったことはないけど、もしかしたら出来るかも知れない。


「ちょっと待ってね」

「??」


 私はとりあえず、直近で行った遠出……ロッキー山脈を思い浮かべながら転移魔法を発動する。


「お、できた」


 ここは間違いなくあの山、そしてオーガキングと戦った洞窟だね。

 よしよし。


「はい転移っと」

「え? レイナお姉さん?」

「ちょっと試しに転移魔法使ってみたんだけど、うん、これならすぐ帰って来れそうだよ」

「転移魔法? それって魔法なの?」

「え? あぁ、うん」


 ローテはあんまり魔法とかに詳しくは無いのかな。割と序盤から使える魔法なんだけどなあ。


「レイナお姉さんは凄いなあ」

「そ、そうかなあ」


 割とプレイヤーなら誰でも使ってた魔法なだけにあんまり褒められても嬉しさはない。

 むしろこの世界では珍しいのかな? まさかね。


「そんなわけだから、王都に行ってもたまには顔を出すよって言っても、出立は明日だけど」

「そっか、よかったぁ」


 私の言葉を聞いて笑顔を取り戻すローテに可愛さしか感じない。

 私って妹萌えでもあるのかな。


「それじゃあ私は挨拶周り続けるから、またね、ローテ」

「うん、またねレイナお姉さん」


 私はローテと別れると、今度はギルドに向かった。

 一応お世話になったギルマスにも顔を出しておくべきだろうと思ったから。

 ギルドに入るともう既にヘレナさんがカウンターにいた。戻るの早いね。


「ヘレナさん、ギルマスに挨拶ってできる?」

「レイナさん……普通そう簡単にギルマスには会えませんよ」

「そっかあ、それは残念」


 まあそれならそれで、仕方ないよね。


「ですが、レイナさんは希少なAランク冒険者です、少しくらいなら可能ですよ」

「そ、そう?」


 何か権力を振りかざすみたいであまり好きじゃないけど、今回はせっかくなので行使させてもらおうかな。


「じゃあ会っていきます」

「はい、ではご案内しますね」


 そういうとヘレナさんはカウンターから出て来る。別に一人でも行けるけど、いきなり私一人行くと話が面倒になるかもしれない、ここは素直に従っておこう。


「ギルマス、レイナさんをお連れしました」

「おう、入れ」

「どうもー」


 ヘレナさんの案内でギルマスの部屋に入ると、私は早速挨拶することにした。


「私、この度王都への護衛依頼を引き受けましたので、お別れの挨拶に参りました」

「ふむ、随分堅苦しい話し方だな。緊張でもしてるのか?」

「あれ、そう聞こえちゃいました?」


 ちょっと真面目に挨拶しようとしたら、変に緊張しているように捉えられてしまったようだ。


「いや、それはないか。それで、そうか。あの依頼を受けたんだな」

「はい、なのでしばらくはお会いできません」

「まあお前にはこの街より、もっとふさわしい活躍の場があるはずだ。存分に暴れてこい」

「いやいやいや」


 そんな人を暴れん坊みたいに。


「冗談だ。さ、まだ準備とか色々あるだろう、さっさと済ませてこい」

「はい」


 そこで私とギルマスの話は終わった。


「さて後は……アイシェだね」


 あの子との別れが一番辛いかな。

 なんかこう、放っておけないっていうか、妹みたいに感じちゃって。


「さてと、家には着いたけど」


 どうしようか悩んでいると、ゆっくりと扉が開いた。


「レイナお姉ちゃん?」

「あ。アイシェ、こんにちは」

「こんにちは、レイナお姉ちゃん」


 まさか向こうから会いに……もとい扉を開けて来るとは。

 こちらはまだ心の準備が出来てないよ。


「それで、何か御用?」

「あ、うん、えっと……」


 私はアイシェに王都までの護衛依頼を受けた事、この街を離れる事を話した。

 後ついでに転移魔法でいつでも帰れることも話しておいた。


「そう、ですか……寂しいです」

「う、うん」


 うーん、やっぱり寂しいよね。うん。そうだ。


「……アイシェも来る? なんて……」

「いいんですか?!」

「え」


 自分で言っといてなんだけど、この話、普通乗る?


「アイシェが嫌じゃないならいいけど、多分大変だよ? 旅するんだよ?」

「嫌じゃありません! レイナお姉ちゃんのお役に立てるチャンスですし!」

「おぉぅ……」


 凄い勢いだ。ちょっと気圧された。


「じゃあお母さんの許可を貰ったら、一緒に行こうか」

「はい!」


 ここでも元気な返事が飛んでくる。余程一緒に来たいようだ。そんなに王都に行ってみたいのかな。

 まあそれならそれでいいかもしれない。旅のお供に可愛い妹分。悪くないよね。


「お母さん、私レイナお姉ちゃんの旅に付いて行きたいの」

「アイシェ、無理を言っては駄目よ。貴女はまだ13なんだから」

「あの、私は大丈夫ですよ? なんなら私がしっかり守りますから、ちゃんと娘さんをお預かりします」

「レイナさんまで……そうですか……そうですね、私も若い頃、丁度アイシェくらいの頃にあの人達とパーティを組んで旅に出たのよね……」


 そう言って遠い眼をするエイリーさん。あの人って多分旦那さんだよね。達っていうのは仲間が他にもいたんだろうね。


「レイナさん程の方が一緒なら大丈夫なんでしょうね。娘をよろしくお願いします」

「お母さん、ありがとう!」

「必ず娘さんはお返ししますから」


 そう言うと私は準備があるというアイシェに倣って自分も旅の準備をすることにした。

 とは言え旅なんてしたこと無いのでアイシェ先生に早速助けを求めてしまったけどね。

 でもその前に、ギルドに顔を出すことにした。


「あらレイナさん、戻られたんですね」

「はい、あいさつ周りも終わったので」

「そちらのお嬢さんはこの前の」

「はい、私と一緒に旅することにしました」

「アイシェです、よろしくお願いします」


 アイシェはオドオドすることもなく堂々と挨拶した。

 凄いなあ、こんな厳つい人達ばっかりの場所ならもうちょっとビビったりしててもよさそうなのに。


「冒険者登録しておきますか?」

「はい、お願いします」

「え」


 アイシェ戦えるの?


「アイシェって戦えるの?」

「多少ですけど、お父さんに剣を教えてもらっていたのでオークは倒せませんがスライムやウルフ一匹くらいなら何とかなります」

「へ、へぇ」


 驚きの新事実だ。

亡き父に教わった剣か……それが今役に立つ時が来たんだね。


「それでは冒険者登録も済みましたので、お二人をパーティとして今回の依頼を受けて頂く形でよろしいでしょうか?」

「はい、お願いします」

「はい!」


 アイシェの元気な返事の後、ヘレナさんが依頼内容をもう一度説明してくれる。


「さるお方、どんな方なんでしょう」

「さあ、どんなかなあ、横柄な人じゃないと良いなあ」


 アイシェの教育に悪いからね、善良な人であって欲しいね。


「さて、出発は翌朝、待ち合わせは南門らしいから、それまで準備しとかなきゃね」

「はい、レイナお姉ちゃんはこれから旅支度ですか?」

「うん、まあね」

「一緒に居ても良いですか?」

「いいよ。もう仲間なんだから」

「えへへ、ありがとう、レイナお姉ちゃん」


 うん可愛い。つい頭に手が伸びてしまう。


「な、なに? レイナお姉ちゃん」

「いや、可愛いなあと思って」

「そ、そんなことないよ。レイナお姉ちゃんみたいに美人じゃないし……」

「うーんこれはねえ」


 アバターだからねとか言えないし、どうしようね。


「まあとりあえず、準備しよっか」

「はい、レイナお姉ちゃん」


 そう言って私はアイシェと共に買い物をする。

 旅支度……うーん雨具とか?


「旅って何が必要なのかな」

「レイナお姉ちゃん一人旅してたんじゃないの?」

「うっ」


 確かにその通りだ、そういう設定だった。


「まあ雨具だけあれば十分だよね。あと食材」


 食材が無いと美味しいモノを旅の途中に食べられるとは限らないからね!


「さーて、買い物買い物」


 私は街中の事には疎いのでアイシェに案内してもらいながら買い物を進める。


「意外と食材揃って来たなあ」


 卵にニンジン、キャベツ、タマネギ、トマト、ジャガイモなどなど。


「調味料も欲しいなあ」

「それならあっちのお店だね」

「おぉ」


 頼りになるぞアイシェ。これはいいね。

 私一人だったらまともに旅支度にならなかったね。


「後は……あ、家だね」

「へ?」


 私のつぶやきにアイシェが「?」を浮かべる。


「そうと決まれば森にいこっか」

「え、あ、はい」


 私はアイシェを連れて森に行くとそこで木を切る。


「エアカッター」


 魔法でサクサクと木材を獲得していく私と、それを見てオロオロしているアイシェ、どうしたのかな。


「もしかして勝手に森の木斬っちゃマズかった?」

「い、いえ、そういうのは分かりませんけど、魔物とか寄ってこないかと思って」

「あー、音結構するもんね」


 そうか、それでオロオロしてたんだね。


「サーチ。大丈夫、近くに魔物は居ないよ」

「そんなことが分かるんですか?」

「うん、まあね」


 さて、木材集めはこんなものかな。


「リソース選択、木材、制作項目、建造物、ハウスっと」


 ちょっと材質に迷ったんだけど、結局は手軽な木で作った家にすることにした。

 私が選択を終えるとスキルによって家が構築されて行く。

 私とアイシェ、後知らない騎士さん達を入れることも考えてかなり大きめな家を造った。


「れ、レイナお姉ちゃん?!」

「どしたの?」

「こ、これは一体なんですか?!」

「何って、家だけど」


 マイホームはこの世界に来た時に失ったようなので、新しく家を造ったのだ。

 スキルの力があればちょちょいのちょいですよ。


「エルフはみんなこんな事が出来るんですか?」

「え、さあ」


 そこまではわからないけど、どうやらこれもこの世界の常識では無かったようだ。

 MOAに似た世界? なのかと思ってたけど違うのかなあ。


「さて、後はこれをアイテムボックスに入れといてっと」

「えぇ?!」


 家が一瞬で無くなった事にも驚くアイシェ。いいリアクションするね。


「さて、これで旅先での家も困らないし、食材もあるし完璧だね」

「そ、そうだね、レイナお姉ちゃん」


 うんうん。これで旅支度は万全だ。


「後は明日の朝を待つだけだね」

「そ、そうだね」


 未だに驚きが隠せない様子のアイシェと共に街に戻る。

 さあ、明日から新しい旅が始まるぞー!


ご読了ありがとうございます。

ブックマークや評価、コメントを頂けますと励みになります!

次回更新も不定期ですがよろしくお願いします。


6月5日誤字脱字の修正をしました。

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