アイシェと大老と適正訓練
「レイナさん、この方たちがお弟子さんですか?」
「そだよ」
私はレイナさんの転移魔法によって、エルフの国に来た。
そしてそこで、レイナさん以外の王族を育て上げるための訓練に参加することになったのだけれど。
「あの、年配の方ばかりですが」
「それいったら私が一番年配ってことにならない?」
「あ、いえ、その……すみません」
「なんで謝るかなぁ」
レイナさんに昔聞いた話だと、ハイエルフであるレイナさんは少なくとも3万年生きているようだった。
3万年といえばこの世界が始まった頃ともされているので、一番の長寿なのは間違いない。
「それで、この方たちと剣の訓練を?」
「そだよ」
「なるほど……」
エルフは魔法が得意と聞いている。あるいは弓とも。
そういう意味で言えばレイナさんは例外的な物かと思っていたんだけれど、違ったようだ。
剣の訓練であれば、私も役に立てるだろう。
「それでは、始めましょうか」
「うんうん。じゃ、大老達は順番に前に出て」
「「はい!」」
さて、彼らのレベルはどのくらいなのだろう。
実は私より高かったりするんだろうか。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ、人間のお嬢さん」
まあ確かに、私は若いけれど、お嬢さん……か。
エルフから見るとそうなのでしょうか。
レイナさんから見た私は……どうなのだろう。
「手加減なしで、お願いします」
「はい」
とは言ったものの、私は手加減した方がいいのだろうか。
レイナさんに何も聞いてないな。
「レイナさん」
「ん?」
「私はどこまでやっていいですか?」
「あー。殺さない程度なら?」
「殺しても蘇生魔法があるのでは?」
「あ、いや」
ん? なんだろう、何か変なことを言っただろうか。
「アイシェ、ちょっと」
「はい」
手を引かれて、大老さん達から離される。
「私の手の内はあんまり教えてないんだ」
「そうなのですか?」
「うん。基本何でも話しちゃうのはアイシェくらいかな」
「そうなんですか……」
それは信頼されているということだろうか。だとしたら嬉しいことだ。
「ではあまり、高位の魔法の話はしないでおきますね」
「お願いね」
転移魔法とかも、話さない方がいいのだろうか。
さっき思いっきり彼らの前に転移した気がするけど……うん、レイナさんだから何も考えてないんだろう。
「さて、始めましょうか」
「よろしくお願いします」
今度こそ、スタートだ。
「行きます!」
大老さんの一人目が、私に切りかかってくる。
大上段の構え、上から下に一閃。
「遅い」
「なっ」
構えが悪いとか、型が悪いとか、そもそも剣本当に使えているのかとか、色々ある。
遅いし、体は剣に流されてるし、色々ちぐはぐだ。
これがレイナさんの弟子とは、なんとも微妙な気分だ。
私の小さなころは、こんなだっただろうか?
そんなことを考えながら、バランスを崩した大老さんから剣を跳ね上げる。
「あっ」
「ん-」
これ、本当に私が出る必要、あったのでしょうか。
「レイナさん、これはいったい」
「うん、ダメだね?」
「え、あぁ、はい」
レイナさんも、これを見てダメなのはわかっているようだ。
「前から思ってたけど、レベルは高いけど、剣下手くそだなぁと」
「そうなのですか」
それで剣の訓練を? なんでだろう。
「あの、レイナさん」
「ん?」
「エルフは魔法と弓が得意と、聞いたことがあるのですが?」
「……あ」
あぁ、この人、絶対忘れてた。
「そっかぁ……弓かぁ」
「……私も少しなら、お手伝いできますが」
「え、ホント?」
「まあ、少しですが」
「助かるよ!」
うん……レイナさん、自分が魔法剣士だから、剣しか教えられなかったんだろうなぁ。
私とサロスは剣士だから、全然いいけれど、彼らはエルフで、おそらく弓兵か魔術師だ。
どちらにしても剣は向いてないはずだ。
「レイナさん、全員が剣士なわけではないんですよ」
「うっ……ごめん」
この後聞いた話だと、レイナさんはあと一歩(?)及ばない彼らの為に私を呼んだそうな。
レイナさんはよい師だけど、それは得意分野だけなんだなぁと、初めて知った。
まさか剣士でない人に剣を教えているとは思わなかった……。せめて魔法なら、まだ可能性はあったんだろうけれど。
「さて、レイナさん」
「ん?」
「弓は専門外なので、ちょっとしか教えられません」
「うん」
「ですが魔法はレイナさんの得意分野ですよね?」
「う、うん」
「そちらはお願いします」
「はい……」
レイナさんが背中を丸めて小さくなる。可愛い師匠だ。
こうして私はその日、拙いながらも剣士としての弓術について教え。
その後レイナさんが教える魔法講座を一緒に受けて、ちょっと得した気分になってレイナさんに転移魔法で家に送ってもらった。
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