レイナと神と特異体質
「レイナ、あなたバケモノ過ぎない?」
「いきなりひどいなぁ」
魔神こと魔人討伐後、私達は剣聖戦での優勝祝いもかねてしこたま騒いだ。
そりゃもう、苦手なお酒も飲んでしまった。
で、意識がなくなるまで飲んで……今である。
「魔神相手に無傷であっさり勝って。なおかつ魔人の依り代を助けるなんて、予想外過ぎてビックリよ?」
「うーん」
いうて、そこまで強くなかったしなぁ。
依り代がアイシェだからかステータスの値は高かったけど。それだけだ。
「イマイチぴんと来てないみたいね?」
「そうですね、神様、あれホントに魔神なんですか?」
だって、ねえ。ステータスはアイシェの数倍に跳ね上がってたけど、それだけだ。
私的には、対処できないレベルではなかったわけで。
「そうよ? あれが魔神が人の世界に降臨した、魔人であってるわ。私でも手を焼くバケモノなのに、なんであんなあっさり勝つのよ」
「まあ、私の体質のせいかなぁ」
まあ正直、ステータスだけで見たら勝ち目のない、必敗イベントレベルだった。
でも。
「体質ってなによ」
「神様もご存じない?」
「そうね」
「バイソンは知ってるのに」
「申し訳ないけど、召喚された一人一人の個人的体質までは網羅してないわ」
「そうでしたか」
そっか。私はてっきり、魔人を倒すために呼ばれたのかと思ったくらいだ。
なにしろ、それだけステータスだけは高かった。世界がアレ一体で滅ぶくらいには。
だから、体質的に勝ち目もありそうなステータスの私なのかと、思ったのだが。
「私の体質『過剰適合』っていうらしいですよ」
「過剰適合?」
「そうです、世界に対する、過剰なまでの適合能力らしいですね」
「それで?」
「まあ、適応能力が規格外に高いっていうだけなんですけど、副産物的に視界のすべてに数字が見えまして」
「数字ねえ」
神様が「それが何?」って顔してる。ま、そうだよね。
「まあ、端的に言えばいろんな情報が数字として表れてて、それを見るだけで相手の行動の理論値とか、世界を構成する存在の数値化ができてですね」
「つまり??」
「ゲームに例えるとわかりやすいんですけど、ゲームってどう頑張っても、バグとかチート無しでは決まった通りの効果というか、結果しか得られないわけですよ」
「ふむ?」
「スキルのダメージ値とかも、倍率、計算式、色々決まってて、それらの『数字』で結果は決まっているわけですね」
「ふむ」
ここまできてようやく、神様がなんとなく理解を示してくれている態度になった。
「で、私にはそれが過剰なまでに適合した結果、数字が見えてて、ちょっとした動きから数字の変動で結果がわかるんですよ」
「つまり、計算されつくした、未来視?」
「まあ、未来視っていうか、現在値から見た、確定している未来がわかるっていうか」
なので、さっき覚醒した五秒くらい先の未来が見える能力、これ、あんまりいらないのだ。
正直、生まれついての体質で数字による結果が見えている私からしたら、ある程度のステータス範囲までなら好みの未来に確定させるのは訳ないし。
ちょっと分岐する未来が見えて、あぁ、そういうのもあるよねーって感じの能力でしかない。
「今の話だと、現在値を見ているのよね? 未来値じゃなくて」
「未来値……というか、変動値は見えてますよ」
将来的にここまでなら数値が上がるとか、下がるとか、そういうのは見えてる。
だから理論値上、避けられる攻撃が来ているのかわかるし、次の攻撃が理論値的に避けられないなら防ぐなり弾くなりいなすなり、色々数字の変動に合わせて手を打つわけだ。
だから未来値は……ん? 待てよ?
「そういえば未来視が覚醒しました」
「あぁ、チート能力のひとつね」
「これで未来値、視えたりしませんかね」
「……できそうね?」
神様も半信半疑だが、できそうとのこと。やってみようかな?
「もし未来値が見えたら、未来に起こることさらに先の未来がわかるようになるのでは……」
「っていうか、そこまで来たらもう、視えた未来値から好きな数字を選べる能力よね」
「そうですね」
神様と私、今恐ろしいことに気づいてしまったかも。
今までは現在値から理論値や変動値を加味して疑似的な数的未来視をしてたわけだけど、未来に起こる事、そのときの値、未来値とでもいうものが見えれば、さらに先の未来を予測し、確定させるところまで持っていけそうだ。
「ステータス差があまりにも無理な範囲だと見える未来が全部死んでそうだけど、これならステータス的に理論上勝てる相手になら、必勝できますね。それに――」
「「ほんと、軒並み外れた規格外かつ次元が違うバケモノになっていくわね……」」
実際、今見えている数字と未来視をコントロールして、試しに神様の未来の発言を一言一句被せてみた。
「ちょ、気持ち悪いわねその能力」
「言い方。気持ち悪いは酷いですよ。便利ですねこれ」
ちなみに、過剰適合の体質もそうだけど、未来視も見えたくない時は見えないようにコントロールできることがわかった。
いつもこんなの見えてたら目に悪い。ブレた画面を見続けたら目が疲れるのと一緒だ。
「はぁ。で、貴女はその体質で魔人の理論値と変動値から、すべての攻撃を確定した未来として認識、その度に手を尽くして、自分の望む未来までもって行ったと」
「そうですね。ついでに言うと、今の今まで未来視の能力は私的には答え合わせの能力だったんですけど、神様とのお話からの気づきで、未来の数字も見て、確定した未来の後の未来まで数字的に理解できるようになりました」
「わけわかんないくらいバケモノね、貴女」
まあ、未来視にプラスして好んだ未来を確定させる方法がわかるわけだから。実質、ただの体質が未来を選ぶ力になったわけで。
「複合スキルみたいですね」
「ゲーム脳ね……まあいいけど。なんか『過剰適合』ってよりいい名前、欲しいわね」
「この能力の名前、ですか」
うーん、未来……数字……確定……?
「じゃあ。モノ・ト・メルロンで」
「モノ・ト・メルロンねぇ。意味は?」
「1つの確定した未来、ですかね」
「ふむ。言いえて妙ね」
まあ確かに、未来は複数あって、それを断定的に「1つの確定した未来」というのだからなんとも妙というか、傲慢な名前だ。
「モノ・ト・メルロン、悪さするんじゃないわよ」
「なんですかそれ?」
「だって未来確定能力って、ぶっちゃけ私ですら勝てる気しないわよ」
「おおぅ」
神様、それも武神さまからそこまで言われるとは。
「まあ、大丈夫です。いい未来のために使いますよ」
「まあ、貴女なら大丈夫だとは、思うけどね」
こうして、私は体質とスキルの複合技。
名付けて「モノ・ト・メルロン」を得て、夢の世界を去ったのだった。
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