レイナとオーガと力比べ
「あら、おかえりなさい。レイナさん」
「ヘレナさん、Aランクの依頼ってありますか?」
「あら、随分お急ぎみたいですけど……さっきの少女はどうなりましたか?」
私が挨拶も無しに依頼を受けようとしたから急いでいると勘違いさせてしまった。
アイシェのことも心配してくれてるし……いい人だなあ。
「……はい」
私は少々急ぎ過ぎていたようだ。
呪いの一件があって、少々気分が悪かったのかもしれない。
憂さ晴らしでは無いけど、ちょっと暴れたい気分ではあった。私って本当に子供だなぁと思ってしまう。
「アイシェのことは何処まで知ってます?」
「母親が病弱で危険な状態だとまでは」
「そうですか。大丈夫ですよ、治してきましたから」
「そんなあっさりと……魔物討伐もそうですが、何でもできるんですね」
「何でもは出来ませんよ」
本当に、何でもはできない、出来る事だけ、手の届く範囲が人よりちょっと広いだけなんだから。
「ちょっと落ち込み気味のようですね。それではそんなレイナさんにはこの依頼などどうでしょう」
そう言って出された紙を見る。
オーガキングの討伐?
ゲームだと確か45レベル相当の敵だ。
この世界基準だとかなり危険な魔物な気がする。
「近くの山で通りかかった商人などを襲っているようなのです」
「なるほど……」
これなら暴れ甲斐ありそうだね。まあ45レベル相当が相手なんて余裕過ぎるんだけど。
「じゃあこれに決めた」
「ありがとうございます、他に受けてくれる冒険者が居なかったので助かります」
「え」
なんでそういうこと後だしで言うかな。
これでクリアしたらまた目立ってしまうのでは……?
「ま、いっか」
まあ、困ってる人達がいるなら助けたいし、いいよね。
もういっそ目立っても気にならないくらい目立ってしまえばいいのかも?
って、それはないか。
「さて、行くとしますか」
「あ、待って下さいレイナさん」
「ん?」
私が早速山とやらに向かおうと思うと、ヘレナさんから待ったが掛かる。
「山の場所……わかってますか?」
「…………」
そういえば山とだけ聞いて、何処の山とか聞いて無いね?
「わかりません!」
「そんな胸を張って言われても困ります……ロッキー山脈という大きな山脈があります、そこの中腹で目撃情報がありました」
「な、なるほど」
今更だけど、私にそのロッキー山脈って見つけられるのだろうか。
マップの機能が生きてたら見つけられそうだけど……。
「ちょっと待ってくださいね」
「はい?」
私はヘレナさんにバレないように背を向ける。
「マップ」
私が声に出すとマップが開かれる。
縮小拡大を試す。うん、問題ない。
近場にロッキー山というのを見つけたのでこれだろう。
「場所はわかりました、ありがとうございます」
「いえいえ、それではご健闘をお祈りしております」
「はーい」
ふう、危ない危ない。これでロッキー山脈ってなんですか? なんて聞こうものなら「何処から来たのか」とか「そんな常識も知らないのか」とか、色々疑われてしまう所だった。
「さて、徒歩で行くのもいいけど……」
山登りなんてめんど……疲れそうなので、ここは召喚獣を使う事にした。
とは言え街中で出すには目立ち過ぎる子なので、町の外で出すけどね。
「さあて、出発だ!」
私はいざという時の為に食糧をアイテムボックスに買い溜めてから冒険に向かった。
「この辺でいいかな」
町を出ると私は人目の少ない森に移動して召喚をしようと試みる。
「出てきて、シロちゃん」
私がそう呼びかけると、地面に魔法陣が発生し、そこから巨大な白金のドラゴンが出現した。
この子が私の召喚獣の一匹、シロちゃんである。
もちろん名前の由来はその白金、美しいプラチナ色の鱗から来ている。
今回は騎乗用に呼んだけど、実際はレベル75相当の強さを持つ強力な召喚獣だ。
「シロちゃん、ロッキー山脈の中腹までお願いね」
『心得た、主よ』
「え」
今の何。もしかして……シロちゃん?
「シロちゃん、喋れるの?」
『以前はこのようなことはなかったが、もちろん、話せるとも』
「そ、そっかあ」
ここもゲームじゃなくて現実になった影響かな? うーん、ま、いっか。
「よろしく、シロちゃん」
『あぁ、任せて欲しい』
今のよろしくは改めてよろしくって意味だったんだけど……シロちゃんはそうは取らなかったみたい。
ちょっと天然なのかな。
「それじゃいこっか」
そんなわけで、私はシロちゃんの背中に乗ると、ロッキー山脈を目指した。
「おぉーリアルに空を飛ぶって気持ちー!」
『乗り心地はいかがか、主よ』
「うんーとってもいいと思うなー!」
シロちゃんはドラゴンだから基本的にはその体表は鱗だけど、背中から頭に掛けて、毛が生えているところがあるので、私はそこに乗っている。ふわふわで乗り心地抜群だ。
『それはよかった、ところで主、山へは何をしに?』
「オーガキング討伐だよー!」
空を高速移動しているので声が届き難いのを気にして、私はさっきから大声で話している。
ちょっと疲れるね?
『それで戦力兼移動手段として我を呼んだのか』
「あいや、移動だけで良いよ?」
シロちゃんが暴れたら山でまた変な噂でも流れかねない。
今度は白金のドラゴンがーなんてなったらそれこそ面倒だ。
『そうか、しかし主よ、必要とあらばいつでも呼んでくれ』
「うん、ありがとね、シロちゃん」
そんなこんな話している間にも私達はロッキー山脈の中腹に着いた。
「ここまでありがとねー」
『また帰りは我に乗るか?』
「うーん、考えとく」
もしかしたら帰る時に目立つかもしれないし、よく考えたら来る間も誰かに見られてたかも知れない……ま、まあ今更気にしてもしょうがないよね。
「さーて、それじゃあひと暴れしますか」
私はマップとサーチの併用でオーガキングを見つけ出し、そこに足早に向かう。
「っていうかオーガキングだけじゃないのかあ」
反応を見るにオーガキングと別に、オーガジェネラル、オーガ複数が居る。
この世界の人からしたらこんなのどうしようもないんじゃないのかな……。
「私が転生した理由がこの辺にあったりしてね」
世界を救う為! とか大きな理由だったらどうしよう。楽しいかな。面倒かな。
「はい到着っと」
『うごおおおおおおおおお!!』
「おぉう」
中腹にあった洞窟に到着するなり、とんでもない大きな声が聞こえた。
「オーガジェネラルだね」
オーガの将にしてリーダー。オーガキングの配下。
レベルにして約35と言ったところだ。
「さて、どうやって倒そうかな」
倒し方はいくらでもある。でも出来るだけグロくないのがいい。
なので凍らせて砕くことにした。
「アイシクルプリズン!!」
ジェネラルとその配下のオーガたちを一気に氷漬けにすることに成功した私、うん。いいねえ。
「さてこれを……ロックバレット!」
岩の弾丸で氷になったオーガたちを粉砕する。
うん、よしよし。
「後はオーガキングだね」
残っている反応はキングのみ。さて、取りに行きますか。
「おぉ、デカい」
なんかこんな事前にも言った気がするけど、兎に角デカい。
赤い体表はキングの怒りを表しているかのように湯気まで出ていて真っ赤っかだ。
『ぐおおおおおおおお!!!!』
「おおぉ」
これまたキングが大声で叫ぶや否や、取り出した太刀で斬りかかって来る。
私はこれをとっさに掴んだ。
おっと、これはアレだね?
「ふっ、真剣白刃取りという奴だね」
『ぐうぅ! ぐおおおおおお!!』
「うーん、声の大きさでは勝てる気しないね」
でも力では勝ってる。
いくら魔職とは言えレベル100だ。45程度に負けはしない。
「えいっ」
『おおおおっ?!』
私が太刀をへし折るとキングが急にたじろいだ。
うんまあ、この対格差で獲物をへし折られたらそうなるかもね。
「さてと、力比べは終わりかな? じゃあ今度は魔法を使っちゃうよー。アイシクルプリズン!」
またしても私は氷の牢獄に相手を閉じ込め、粉砕する道を選ぶ。
だってあんまりグロくないからね。
「いやでも、これはこれである種のグロな気もしてきた」
結局戦って命を奪う異常、そういうのは避けられないのかな。
「さて、帰りますか」
ひと暴れしてスッキリしたので私は早速帰路につくことにした。
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