始まり ~一條嶺菜~
こんにちはヒロミネです。
この度は当作品を見てくださりありがとうございます。
当作品は以前短編小説として投稿したものの改稿、連載版となります。
ストーリー展開をかなり変える予定なので、ある種の別作品として楽しんで頂ければ幸いです。
なお、更新は不定期となります。申し訳ありません。
エルフの暇を最優先に更新いたしますのでこちらは毎週更新できるとは限らない為です。
それでは、ハイエルフは万能じゃない? をお楽しみくださると幸いです。
※2024/8/2現在。週間更新中です。
週に一度、決まった期日までに投稿しております。
人は生きていると様々な問いに出会い、試される。
例えば1+1=と聞かれれば2と答えて田んぼの田と言われる意地悪問題。
例えばパンはパンでも食べられないパンは? と問われればフライパンと答えて「それパン付けばなんでもいいんじゃん!」という理不尽問題。
例えば無人島に行くなら何か一つだけ何を持っていく? という意味のない仮定の問い。
様々な問いがある。
その中でもとりわけ、もっとも難しく、また、とてもどうでもいい問い。
「生まれ変わったら何になりたい?」
そんな問いかけ。
「鳥になって空を自由に飛びたい」「魚になって海を自由に泳ぎ回りたい」「猫になって日向でのんびり暮らしたい」「犬になって駆けまわりたい」色々あるだろう。
特に鳥なんかは無難かつ夢があるような回答でとても良いとされる。
であれば、もっとも夢がないとされる答えは何か。
「人間」
である。
しかしどうだろう、これは果たして夢のない答えと言えるだろうか。
異世界転移や転生物が流行るこの時代。誰もが今の現状をやり直したい、何かを変えたいと望んでいるはず。
生まれ変わることを望んでいる。
そんな時代のこの問いかけには、どう答えるのが一番『夢』があるのか。
そのような問いからこの物語を始めてみよう。
話は変わって2025年。世界初のフルダイブタイプのVRMMO、マスターオブアークオンライン、通称MOAが大流行した年から二年。
とある一人の日本人女性の視点で、この物語は始まる。
「はー、メンテ終わったー!」
私こと一條嶺菜はふうっと溜息を吐く。
私はひとりごちりながら、自らの周り……白い天井に開け放たれた窓、白い床、物々しい機器を、自らの置かれている自分以外は誰もいない病室を見回す。
「はあー。今日も今日とてゲーム三昧。いいご身分だよね私ってさ」
自分で言っていてちょっと可笑しくなる。いい『身分』というにはあんまりな体の自分を顧みてだ。
「また細くなったかな……ははは」
ベッドの上の自分の体を、しかし首から上しか動かない体を見て笑う。
事故って両親を亡くし、一人生き残るも体が動かなくて命だけ機械に繋がれてる。まあよくはないけどたまにある話。
私はそのたまにいる、ちょっと可哀そうに見える人間というだけ。
「はあ、おかげでネトゲ廃人まっしぐら。これがホントの廃人プレイ、なんてね」
誰が聞いている訳でもない空間で、だからこそ自嘲気味に、あるいは自虐的に笑えない冗談を言う。こんなのにも慣れたものだ。
「……ふう、なんか現実見てると悲しくなるのでゲームでもしましょうか」
自らの置かれた現実を前に、流石の私も多少物悲しくなり、大型アップデートを済ませたMOAに戻ろうとゲームを起動する。
ログインを済ませると、そこはいつもゲームを終了してまた、始めているマイハウスではなかった。
「レイナ様、おはようございます」
「はあ、おはようございます?」
よく知らない空間に、知らない女性が立っていて、声を掛けて来る。
「本日はMOAにログイン頂きましたプレイヤーの皆様に、プレイ時間に応じた装備を進呈させて頂いております」
「お、おぉ……?」
何と言うか、『プレイ時間に応じた』のあたりに強い抵抗を覚えて変な声で返してしまった。
「レイナ様のプレイ時間はさん……」
「待って言わないでごめんなさい許してださい!!」
私はプレイ時間の読み上げを全力で止める。分かってる。自分でも意味のないことなのは。でも現実を耳にするにはちょっと心臓に悪いのだ、主にプレイ時間は。
「そうですか。それではこちらの中から好きな物をお選びください」
「この中って、あ、これね」
三つある装備の内から一つ選べってことかな。
でも宝箱に入ってて中身は見えない、試しに鑑定スキルを使ってみたいけどここはどうやらスキルなどは使えないエリアのようだ。
「じゃ、これでいいや」
「真ん中ですね」
「迷ったらストレートにいかないとね」
迷ったら直球勝負が私の基本スタンスだった。
「それではもう一品お選びください」
「へ?」
これは想定外。色んな意味で。
「どうぞお選びください」
「じゃ、じゃあ左のを」
私が遠慮がちにそう言うと、女性から驚きの言葉が出て来る。
「左ですね、それではもう一品お選びください」
「全部じゃん!!」
これには流石にツッコんだ。
っていうか何、この事務的な手続き。これなら最初から全部でいいじゃん。わけがわからない。
「もう一品……」
「わかったから、右のも貰います!」
「右ですね。それでは開封をどうぞ」
「はいはい……さて中身はっと?」
中身を見てみる。
まず最初に見たのは真ん中。なんかこう、腰回りにつけるような装備のようだ。そういえば叔父さんが好きで良く話したり見せたりしてきたガン〇ムのクア〇タとかいうのがソードビットとか言うのを付けてたけどそれが似てる気がする。
「こちらは遠隔攻撃、防御に使えるソードビットです。物理攻撃ですが物理と魔法両方の攻撃力を参照できます」
「へえ……え、つよ」
属性は物理の扱いだけどダメージは物魔で上がるってことだよね。魔法属性が効かない相手に便利な装備だ。
「つ、次は何かな」
なんかちょっと心配になって来た。主に装備のぶっ壊れ具合が。
次は左を見てみる。
「髪留め?」
シンプルな見た目で草と蔦をモチーフにしたものだった。
「こちらはスキル付きの装備、永劫回帰の髪飾りです。通常は魔力とMPを1.5倍にするものですが固有スキル使用後一定時間のみ通常の3倍になります」
「は、あははははははは……」
こんなの乾いた笑いしか出ない。ぶっ壊れてるにも程がる。
通常の3倍ってどこの赤い彗星だろうか。
「最後のは……何かなぁ……」
というかここまで魔職向けな装備しかないけどいいのだろうか。私はハイエルフで魔職だから良いけど、これ他のプレイヤーは貰ってもがっかりする人いるんじゃないかな。
あ、でもソードビットくらいなら便利なのかな。
「そちらは降隕の杖です。メテオフォールという魔法が使えるようになります」
「こわっ」
何その物騒な魔法は。名前からストレートに来てる感じするけど、物騒すぎやしないかな。
「以上になります、ちなみに選べる装備の数はプレイ時間を参照しております」
「あ、そういう……っていうかこの三つ全部ぶっ壊れてる装備だけど大丈夫かな……」
なんだかアプデ後のゲームバランスが酷く心配になってきた。
隕石降り注ぐ世界感。恐ろしい。
「最後に、プレイヤーの皆様に取っているアンケートがございます」
「お? はいはい」
こういうのは実際ゲームに反映されているかは別として大事な要素って気がするからちゃんとしないとね。
「MOAとリアル、どちらが楽しいですか?」
「え、MOAだけど」
「ではMOAで大切なものは何でしょう?」
「……お金と装備?」
「では、リアルで大切な物はなんですか?」
「MOAだけど」
「生まれ変わったら何になりたいですか?」
「急にゲーム関係ないね。いや、さっきの質問もだけど……うーん」
私はちらっと、自分のアバターを見て、答えてみる。
「ハイエルフ?」
「ご協力ありがとうございます」
「あ、はーい」
なんかわからないけど、アンケートは終わったらしい。
うーん、これ、ゲームのバランス調整に関係ある?
「それでは、MOAの世界をお楽しみください」
それだけ言われると、私は一旦意識を失い、目が覚めるとそこは……どこ?
「こんな場所でログアウトした記憶ないんだけど、新イベントなのかなあ」
過去にこういった特別エリアにいきなりログインさせられるイベントも無いではなかったのでその可能性が一番高い。でもそれにしては周りにプレイヤーが見当たらない。アプデ明けは人が結構いるんだけどなぁ。
とりあえずさっき貰った装備でも装備しようかな。
ソードビットはなんかデザイン的に私の装備とのバランスが悪いから、とりあえず杖と髪飾りだけでいいかな? それとも一度試験運用を兼ねてビットも装備を……。
「誰か助けて!!」
「へ?」
何か今、助けを求める声が聞こえたような。
他のプレイヤーかな、それかイベント? とりあえず向かってみる。
「ってオーク?」
見知らぬ少女がオークに襲われている現場に到着した私、さて、どうするか……って助ける以外ないよね。
「ソードビット!!」
とりあえずお試しで装備してみておいたソードビットを早速使ってオークを攻撃する。
ソードビットは複数飛んで行ったけど、最初の一本が首を落としたので他はそのまま帰って来た。
……って、首? 落ちて……え?
「うっ」
帰って来たソードビットの一本から漂う血生臭さに吐き気を催す。
「これは酷いアップデート」
正直最悪だ。質が悪いにも程がある。
「あ、あの、ありがとうございました!」
「へ? あ、あぁ……いえ、どういたしまして」
そう言えばこの子を助ける為にオークを倒したんだったね。
「あれ、ネーム……」
「はい?」
彼女を見るとプレイヤーネームもNPC表記も無い。
どういうことだろう、これもそういうアップデートなんだろうか。
「あぁいや、貴方の名前は?」
「私はアイシェです。お姉さんは?」
「私はレイナ、よろしくね」
うーん、どうもおかしい。
助けた少女を見てみるが普通NPCならネームの前にNPCと表記されるし、ここまでリアルに話せない気がする。
仮にプレイヤーならやっぱりネームが見えないのがやっぱりおかしい。こんなアップデート情報は事前に見た記憶はない。
「どうかしたのお姉ちゃん?」
「え、いや。何でもないよ」
自らが助けた12、3歳の少女に要らぬ心配を掛けまいととりあえず何でもないことにしておく。
(本当はなんでもありまくりなんだけど)
「さて、どうしようかな……道も分からない森の中かあ」
転移でマイホームに戻るのはまだ試してないしやってみようかな。
目の前の少女には置いて行くようで悪いけどこちらも非常事態感がある。
「転移、マイホーム」
「?」
転移しようとした私を少女が――アイシェが不思議そうに見上げて来る。
「転移出来ない……? これって、うーん?」
試しにログアウトを試みるもウインドウが開かない。
……あ、これはもしや……異世界転生という奴では?
って、そんなわけないよねぇ、いくら流行ってるからって、ねぇ?
「お姉ちゃん、本当に大丈夫?」
「うーん大丈夫じゃないかも」
見知らぬ場所に訳の分からない状況、あと死んでも消えないオークと頭。
全然大丈夫じゃないね、これ。
ご読了ありがとうございます。
本日中にもう何度か更新させていただきます。
よろしくお願いいたします。