9話「砕け散る」
ベルリーズとウェボンがもうじき結婚するという頃、ミレナはモルティンから告げられる。
「お前とはもう終わりにする」
モルティンの自宅にて、二人で過ごしていたミレナとモルティン。
今日はちょっとした用事があって会っていた。
最近では珍しいことだ。
ここのところ二人だけででは会っていなかったから。
ミレナはモルティンに遠ざけられていることを知っていたけれど、それでも彼に会えるのはやはり嬉しかったようで、嬉しそうにしていた。
どことなく漂う嬉しげで温かな空気があった。
しかしその空気は一変する、モルティン自身の言葉によって。
「へ……?」
情けない声をこぼしてしまうミレナ。
「終わりにするって言ってんだよ! 関係を、な」
ミレナ自身まったく分かっていないわけではなかった――もうあまり愛されていない、と。
だからこそウェボンにも手を出そうとしていたわけだけれど。
でも、それでも、モルティンと結ばれるのであればそれで良いと思っていた。
彼女はまだモルティンとの夢も抱いていた。
「なぜそのようなことを」
「もうそろそろいいだろ? 付き合いは。そろそろ次へ行きたい」
だがモルティンと共に行く道は絶たれた。
その事実はミレナに確かにショックを与える。
「な、なんてこと! そんな勝手な! 何なんですのそれ!」
「うるさい女だな、不愉快だ」
「そんなこと! 言わないでくださる!? わたくしはミレナ・ムーンですわ、もっと丁重に扱っていただかなくては!」
ミレナは感情的になってしまう。
もはや抑えきれない。
溢れ出る感情がミレナの口から流れ出て止まらない。
――だが。
「うざいんだよ、そういうところが」
その棘のある感情と言葉が、モルティンのミレナへの想いをより一層薄れさせた。
「もともと遊ぶだけのつもりだったんだ。でも長く関わることになってしまった、それがそもそもの間違いだったと思う。お前をここまで勘違いさせてしまった」
モルティンはもうミレナを何とも思っていない。
「さよなら、ミレナ。もう二度と俺の前に現れないで」
その言葉を最後に、二人の関係は壊れた。
それは、ガラスのコップを棚から叩き落すようなもの。
関係という繊細なそれは粉々になって。
欠片と呼べる大きさのものすらも残さない。
そして、粉々になってしまったのは、関係だけではなかった。
――そう、ミレナの心もまた。
砕け散った。
モルティンを奪い取るためにミレナはすべてを捨ててきた。親も、家庭も、温かな世界も。すべてを失うことになってでも彼を手にしたいと思い動いてきた。彼を手に入れるため、彼女はそれまで持っていたもののほとんどすべてを捨てたのだ。
なのにこの結果。
こんなことになってしまって、ミレナが正気を保てるはずもない。
ミレナの精神は崩壊。
モルティンから別れを告げられた日の翌日、自ら死を選んだ。
森の中の崖のようなところから下の岩場へ飛び降りたミレナは即死したが、その出発地点付近の木の枝には細長い紙が引っ掛けられていて――そこには『もう生きる意味がない』とだけ書いてあった。
その後、自分勝手な行動で自由を得たモルティンは、その話によって周囲から悪く言われることが増える。
「彼、女性を急に捨てて自殺させたんですって」
「ええっ、怖い」
「酷いわねぇ」
「でもその女性も姉から奪った悪女だったとか聞きますよ?」
「こわぁい、みんなこわぁーい」
「それな。ほんと怖いわ」
それにより、モルティンも徐々に正常な心を失ってゆく。




