8話「彼の両親は良い人で」
あの後、ミレナとモルティンが上手くいっていないという話を聞いた。
何でもモルティンが他の女性に心を向けるようになっていったようで。ミレナは徐々に相手にされないようになり、放置されたり無視されたりといったことも増えていったようだ。で、段々、二人の心の距離は離れていったそうだ。
そういう事情もあってか、ミレナは何度かウェボンに接近してきた。
誘惑して私からまた男を奪おうとしていたのだ。
だがウェボンはきちんとした人なので誘惑には乗らない。
曖昧なことをするようなこともなく。
その都度きちんと拒否してくれていたので私は安心していた。
そしてやがて結婚の日が近づく。
今日はウェボンの両親に会っている。
彼の両親はとても良い感じの人だ。
ウェボンの親、というだけのことはある。
良き心の持ち主だ。
「ベルリーズさん、もうすぐ結婚ですな」
「ああ、可愛らしいベルリーズさん。ふふ、花嫁衣装を拝見するのが楽しみだわ」
こうして会って話すのはもう何度目かになるが、二人はいつも余所者の私に対してでも思いやりを持って接してくれる。
「こんな私ではありますが……よろしくお願いいたしします」
結婚相手の親に虐められる、なんて話もよく聞くが、私は何とかそれは避けられそうだ。ここままでいけば、だが。ウェボンの両親であれば恐らく虐めてはこないだろう。
取り敢えず失礼のないようにしよう。
「ベルリーズさんがうちに来てくれるなんて嬉しいわ、ありがとう」
「……そっ、そんな」
「ふふ、嬉しいのよ。とても素敵なお嬢さんで」
「そんなことないです……」
「もう! そんな風に言わないでちょうだい? 本気で言っているのよ? 私。嬉しい、って」
「感謝します」
「ふふ、これからよろしくね」
ウェボンの母親は両手を胸の前で合わせて祈るようなポーズを取りながら「一緒にお出掛けとかお買い物とかしたいわ~」とやや冗談めかしつつ言っていた。
ま、なんにせよ、嫌われないのが一番だ。
結婚相手の親に嫌われていてはどうしようもない。
――その後ウェボンと二人に戻って。
「大丈夫だった? ごめんね、妙に距離が近い親で」
「いえ! そんなこと! 嬉しいです、受け入れていただけて」
「そう言ってもらえると救われるよ」
「そんなこと。とても良い人たちではないですか」
「優しいね」
「……何か言われたことが?」
「ああ、うん、実は前に異性の知り合いから『馴れ馴れしい親とか無理』って言われてさ」
どうやらウェボンはその言葉を少し気にしていたようである。
でも、私としては、彼の両親のような気さくな人の方が好き。なぜならその方が喋りやすいからだ。ほどよい柔らかさを作ってくれるから、過剰に緊張して疲れることもないし。
「恋人、とかですか?」
「ううん、そうじゃないんだけど。その子、一回、無理矢理ついてきたんだよ……家にさ」
「ええっ」
「勝手についてきておいて親を見て幻滅するとか……何なんだよ、って思ったな」
「それはそうですよね」
世は広い。
そういう無礼な者も存在しているのだろう。
ただ、勝手に知り合いの家まで来るなんて「何をしに来たのだろう?」と思ってしまうけれど。
「その後何かありました?」
「ああ、まぁ、ちょっと距離ができたかな」
「では狙っていたのでは」
「えっ」
「でもご両親が理想と違っていて、それで、離れたのでは」
ウェボンは少し考え事をするように視線を持ち上げて。
「そういう感じかな?」
発して、苦笑い。
「もしかしたらそうかもしれないね。急に距離おかれたし。まぁ僕としてはその方がありがたかったけど」




