4話「初めての対面」
母とミレナの言葉の応酬。
見ているだけではらはらしてしまう。
あそこに参加していたらきっと胃が痛くて辛かっただろうな……、なんて考えて、馬鹿なことを考えているな、と思う。
本当のことを言うというのは、時に己の身をも痛めるものだ。
「謝りなさい、彼女に」
「……嫌ですわ」
「悪いことをしたのよ!」
「わたくしは少し喋ったり一緒に行動したりしただけで悪いことは何もしていませんわ」
ピリピリした空気が流れる。
「そういうところが問題なのよ? 分かっている?」
「知りませんわ! 何を言われようとも、わたくしは悪いことはしていません! それだけは絶対ですわ!」
「あくまで反省しないというのね」
「ええ! だってわたくしはただ愛されてしまっただけですもの!」
ミレナの言葉に、母は眉間をぴくりと動かす。
「そう、ならば貴女はもう娘ではないわ」
やがて、母が冷ややかな声を発した。
「そんなことを言う、平気で姉を傷つける、そんな貴女を娘として見守ってゆくことはできない」
「お母様……!?」
「だから勘当するわ」
「そんな! どうして!」
「反省しないのなら受け入れられない、と言っているの」
「わたくしが悪いと仰るの!?」
「そうよ、そう言っているの。でもミレナは認めないでしょう、だから縁を切ると言っているのよ」
「そんな……お姉さまの味方ばかりして……酷いっ……う、ううっ」
泣き始めるミレナ。
しかし母は動じない。
「泣いても無駄よ。泣いて味方になってもらえるのは男の前でだけ、親の前じゃ意味なんてないわ」
そうして、ミレナは親に縁切りされた。
頼れる人がいなくなってしまった彼女はモルティンのところへ行ったようだった。
◆
婚約破棄されてから数ヶ月、私は、親の紹介で一人の青年と顔を合わせてみることとなる。
「初めまして、ウェボンと申します」
「今日はありがとうございます、初めまして……私はベルリーズ・ムーンと申します」
ウェボンと名乗る彼は少し大人しそうな人だった。
でも目つきは優しそう。
ふわりとした綿菓子のような金色の髪もどことなく愛らしさを漂わせている。
「ベルリーズさん、ですね」
「はい」
「ええと……僕はドレス屋の息子です」
「お聞きしました。凄いですね、国一番のドレス屋だとか」
「い、いやいや、そんな……ただ親が会社をしているだけで、僕が凄いとかではありませんよ」
「そうですか? でも、それだけでも凄いと思いますよ」
「そんなこと……けど……少し照れてしまいます、嬉しいです」
彼は恥ずかしげに笑った。
控えめで可愛らしい人だと思った。
「ベルリーズさんは髪がとても綺麗ですね」
「ぇ!?」
いきなりの褒めに変な声が出てしまった。
「あ……すみません、急に」
彼は少し申し訳なさそうな顔をする。
「すみません、変な声が出て……」
「こちらもおかしなことを言ってすみません」
「いえ、ウェボンさんは何も悪くありません。むしろありがとうございます。褒めていただけて嬉しいです」
――初めての対面はそこそこ良い感じで終わった。
「ぜひまた会いましょう! ベルリーズさん!」
「はい! またお話したいです」
最後、そう言って別れられたので、悪い感じではないと思う。
モルティンとの縁は切れてしまったけれど、それですべてが終わったわけではないのだと――改めてそう思った。
未来なんて無限にある。
だから一人と終わったからすべてが終わってしまったわけではない。
信じよう、良き未来を。




