後編 花火から始まる・・
「よし、じゃあ景気付けに一発面白い事しよっか?」
「・・はい?」
固く握った手を離さないで、流星を見ていた僕達だが、突然に稍はそんな提案を出して来た。
企画書にも書いていない事で、びっくりした。
「なんだよ?面白い事って」
問い掛けると稍は何かを企んだような(いや、実際企んでいるが)笑みを浮かべる。
「ふふ、それはね!」
嬉しそうに歩きだす。最初に座ってたベンチまで、しかし。
僕の腕が伸びきった所で止まった。
「・・・」
しばらく無言で僕の手を引っ張ってきたが、僕は動かない。やがて痺れを切らしたように振り向く。ちょっと怒っていた。
「なんで、歩いてくれないの??」
「いや、歩きたくないし。てゆうか、手。離したら良いじゃん??」
「・・なんでそういう意地悪するかな??」
睨み顔、恐いです・・
「いいから行くよ!」
「・・・わかった」
ため息をつき、稍について行く。ベンチに置きっぱなしの鞄が目的だったらしい。
器用に片手で鞄を開ける。
中に入っていたのは・・
「・・嘘だろ??」
花火だった。
「どかんと一発かましてやろうよ」
「どかんと一発、って。これ手持ちしかないよ??」
稍のこの学校のスクールバックにぎゅうぎゅうになるほど詰められて、ざっと1000は越える程の大量の花火だが、その中は、打ち上げや噴射、ねずみやロケット・・そういった類の花火は無く、全部スタンダードな手持ち花火で固められていた。
「いや、手持ちが1番盛り上げるじゃん、歩とやるの楽しみだったし。だから小学校の時のお年玉叩いて買い込んだよ」
「だから、って。どう考えても買い込んみすぎでしょ。本当にすごい量だけど、何円分だよ?この花火」
「軽く2万円くらい?」
「馬鹿じゃねえのっ!?!?」
本気で怒鳴った。
何考えてんだこいつ・・
金遣いの荒い小学生かよ?友達として不安になるわ!
2万円って・・しかも花火に・・
お年玉、こんなことに使うなよ・・
なんかすごい罪悪感・・後で半額返そう。
「・・さっきの告白事件の時より怒ってない?」
おずおずと稍が尋ねる。
「いや、怒るというか、説教。そう、説教を後でします。放課後先生の所に来なさい」
「いつだよ、放課後!?」
なんか分からないけどゴメンー、と軽い調子で謝ってくる稍を無視しつつ、彼女のバックを漁る。いや、本気なら女性のバックを漁るのはマナー違反だけど、中身は花火だけなのだ。
プライバシーも何もあったもんじゃない。
「本気に手持ちしかないよ、どれくらい終わらせればいいの?この子達」
「え?全部終わらせるけど?」
「無理だよ!!?」
本気にやったら翌日までかかりそうだ。
「大丈夫!気合いでなんとかなるよ!
じゃあ早速1発目・・って火忘れた!?」
どうやら花火を持ってくるのに精一杯でライターを持ってくることを完璧に忘れてたようだ。
・・相変わらず可愛いなぁ
よほどショックなのか少し暴走気味にライターを捜し出す。鞄を雑に漁りすぎて花火が何本か折れる音が聞こえた。その後に今度はボディチェック。パジャマのポケットに手を突っ込んだ後、下着の中に隠れてないか捜すためにパシャマを脱ぎだそうと・・・
「って待った、待った!!ストップ!!ライターならあるから!あるから!!」
唖然とパジャマ捜査を見学してた歩は、グリーンの下着が見えた頃に慌てて止めに入った。
ジャージの中にある狼の柄が入っているターボライターを取り出し、急いで渡した。
そのターボライターを見た瞬間、稍の動きが止まる。
・・・
・・あれ、なんかしたかな?
若干涙目だったさっきとは打って変わって、今は無表情。
怒ってるわけでも、喜んでるわけでもなく、無表情。
「・・なんで、歩はライターを持っているの?」
ずい、と無表情のまま近づいてくる。
いや、恐い!恐いから!
「・・タバコ、吸ってたりしないよね?」
それを言われた瞬間に気付いた。疑われてる!?無表情が怖くて慌てて必死に弁解に勤める。
「違う!違うから!これには少し事情が」
「どんな事情??」
キスしそうな位置まで顔を寄せてくる。
「あぁもう、これだよ!これやろうとしてたんだ!」
乱暴にジャージのポケットからそれを出した。
ポケットに入れてたのでパッケージはくしゃくしゃだが、すぐにその正体が分かった。
「へ?花火??」
顔を赤くして、視線を逸らす。
・・うぁ、めっちゃ恥ずかしい。
コンビニで売っていた100円の線香花火。
2人でやろうと決めてたものだが、稍の花火のスケールが大きすぎて、急にみすぼらしくなり、恥ずかしくて出せなかった物だ。
ライターは兄貴から借りた。
稍は大爆笑。
「え、え?何?面白ろ!歩も同じ事考えてたんだ!」
冷やかされると余計恥ずかしくなる。もう触れないで欲しい・・
稍は笑いながら線香花火を引ったくる。
「よし、せっかくだしこいつからやろうぜ!
最初に線香花火やってから、ラストに手持ち花火!どう?」
「普通、逆じゃね?ラストの要素デカすぎだし」
「えぇ〜、最後にド派手なほうがいいに」
「手持ちってド派手か??ってか3本いっぺんに火つけてんじゃねぇ!」
「てゆうか歩、手持ち花火は手持ち花火、線香花火は線香花火って分別してるけど、両方とも同じ手持ちってゆう分類の花火だよ?」
「知ってるわ!!大体、お前も線香花火って言ってるじゃねぇか!
あぁ!止めろそれ!線香花火はそうやって遊ぶ物じゃない!」
あろうことか、彼女3本同時に火をつけ、振り回しながら遊んでいる。
当然のことながら即効で火玉が落ちた。
「だからやめろって言っただろ!線香は数少ないんだから、手持ちからやろうぜ」
今夜で何度目かのため息をついたが、何故か僕は笑っていた。
なんだかんだ言いながら2人でいるのが楽しいんだなぁ。やっぱ稍が1番大好きだわ。友達的な意味で。
あ、そういえばさっきから気になっている事があった。
「いつのまに僕達、手を離したんだっけ?」
稍は指定されて自分の手を見つめる、何秒かして握ってたはずの手が離れてる事に気付いた。
「えっ!?いつから?」
「多分、だいぶ前から」
ライター探してる辺りかな?手が寒くなって気付いたのはもう少し後だったけど。
「繋ぐ??」
稍は笑顔で手を差し出す。
「ん・・」
僕は返事をすると彼女と手を重ねる。
冷たい手だった。
パジャマしか着てないなら当然であるけど・・けど・・
(もう一つ気付いたけどこいつ、僕のパーカーなんで脱いでんだよ)
ベンチに視線を移動させると、ぽつん、と淋しそうにパーカーが佇んでいた。
「よし、じゃあ再び手でも握った所で、花火やるぞー!」
よく考えたら、手を繋いだらどうやって火を付けんだ??




