4-23 魔法が使えない俺は異世界で最強を目指すができるのか!?
【この作品にはあらすじはありません】
異世界転移。
それは、世の男子が一度は憧れるもののうちの一つだ。
中世ヨーロッパ風の世界に飛ばされ、神様からとんでもないスキルやらチートをもらい、超絶可愛いヒロインや頼もしい仲間たちを手に入れて。
チートな魔法をぶっぱで俺TUEEEを夢見る人もいるだろう。
俺だってもちろん最初はそうだと思っていた。せっかく転移したのだから、自分だって魔法を使って理想の異世界生活を送りたい、と。チーレム生活してみたい、と。
だが、”ある一言”でその夢は崩れ落ちてしまった。
■■■
俺——佐久間 徹は元々眠りは深い方だ。寝ている間に地震が来ても相当大きいものでなければ目覚めないし、物音がしてもちょっとやそっとじゃ起きない。だが、今回は人の気配を感じた。起こしに来てくれた母さんか?今日は土曜日のはずだから二度寝する、というために眠りから覚めようと目をゆっくり開けたのだが。
「ーーーーーー。」
「ーーーーーー。」
目が合ったのは見知らぬ女の子。
よし、これは幻覚だ。寝起き直後だから脳がボケてるんだ。この人が誰か全く見覚えはないし、まずもって寝ている自分のそばにいてくれるほど仲の良い女子なんていたことない。
早速二度寝に取り掛かろうと再びまぶたを閉じると。
「ちょ、ちょっとせっかく目覚めたんだから二度寝するのはやめてもらえる!?!?」
これは明らかに知らない声だ。いったい誰なのだろうと確認するために、まだまだおもいまぶたをやっとの思いでしっかり開く。
目に映ったのは、それはそれは超が付くほどの美少女。長い茶色の髪と透き通った蒼い瞳。年齢は俺と同じぐらいかな?
「んじゃ、先に下の部屋に行ってるから眠気が飛んだら来てね」
そういうと彼女はドアを開けて出ていった。
俺はベッドから起き上がって周囲を見渡す。俺の部屋と同じぐらいの広さで、床や壁、天井などは木でできている。一つだけある窓からは木が生い茂っているのが見えた。
ここはどこだろう。確実に知らない場所だ。もしかして寝ている間に異世界転移したとか?
いやいや、さすがにそれはないか。物語じゃあるまいし。だとしたら夢か。こんなリアルな夢は初めてだ。
いろんなことを考えながら、さっきの少女に言われたように下の階へと降りる。どうせ夢でももう一度ぐらいあの顔を拝んでみたいし。
リビングらしき部屋に入ると、少し奥にテーブルが置いてあった。そこにはあの少女が座っている。そしてその隣には、なんかイケてる感じの男性もいた。
「よう、ようやくお目覚めか。お前さん、気分はどうだい?」
俺が開いている椅子に腰を掛けると、その男性は声をかけてきた。年齢は俺より結構上で、パッと見いわゆるいけおじって感じだ。
「ええと、その、一応元気ではあるんですが・・・・・・」
夢の中とは言え、知らない人にフレンドリーに話しかけられたら挙動不審になる。
いや知ってる人でもなることあるんだけれども。
そんな様子を見ておれの考えを読んだのか、彼は続けた。
「おっと、そういやまだ誰か言ってなかったな。悪い悪い。俺は。ハーラント・シュトイヤー。そして隣に座ってるのはリナ・ロンバルディ。俺の知り合いの娘さんだ」
「そ、そうですか。初めまして、俺は佐久間。佐久間 徹です」
「おう、サクマっていうのか。よろしくな!敬語は堅苦しいから使わなくていいぞ。んでだ、今お前が一番気になってるのは、俺らが誰なのか、そしてここは一体どこなのか、だろ?」
すごいなこの人。また俺の考えてること当てやがった。
「簡潔にいうと、だ。おそらくお前はこことは違う異次元の世界からやってきたみたいだぜ」
おいちょっと待て、今何て言った。
「あー、見事に困惑してるな。俺だって驚いてる。異世界転移なんて物語ぐらいだ。しかもそいつが確実かどうか怪しい」
どうやら彼も相当驚いてるらしい。その横で少女もこくこくと頷いている。
「森の中にいたら偶然お前さんを見つけてさ。服装とかが見慣れないもんだからちょっと興味本位で調べてみたら”この世界の人間じゃない”って考えないと説明がつかなくてな・・・・・・」
俺を調べるとかなんとか言っていた気がするが、今はそんなところではない。
どうしよう。夢なら早く夢と言ってくれ・・・・・・
「ええと、それでどうして俺が異世界から来た人間だと思ったんだ?」
「それはだな、一言で言うとお前さんの魔力量が”異常に”多かったんだ」
ハーラントさん曰く、俺はこの世界の人間ではトップレベルに魔力とやらの量が多いらしい。現在では手で数えるぐらいしかいないという。
すげえな、ほんとに異世界物のラノベとかアニメみたいな感じで転移特典とかあるのか。
ってことは魔法を使って胸躍る冒険とかしちゃったり、美少女に囲まれちゃったりもできちゃうのか・・・・・・!?!?と興奮していると。
「ちょっと待って、それだけだと彼が異世界から来たってことはわからなくない?」
今まで黙って聞いていたリナさんがそんなことを聞く。
言われてみればそうだ。話によれば、俺のようにかなり稀なだけでいるにはいるらしい。
「ああ、確かに言う通りだ。ここまで魔力量が多いのは、何かの突然変異だったりするかもしれない。そう考えもしたさ」
だが、と声のトーンを少し下げて彼は続ける。
「この世界の人間には魔力を実際の魔法へと変換する機能がある。魔力をそいつに通して、魔法現象を起こすんだ」
どうやら、その機能を使わなければ魔力を魔法へと変えることはできないらしい。でもそれがさっきまでの話とどんな関係が?
「この機能は人間ならどんなやつも持っているはずだ。どんなにそいつ魔法適正がなかろうが、練習さえすれば火の一つぐらいは起こせるようになる。でもお前さんにはその機能がなかった・・・・・・」
なるほど。ん、待てよ?ついさっき————
「その機能がもしなかったら、魔法が使えないって言いましたよね?ということは」
そして俺は、衝撃の事実を知ることになる。
「ああ、そうだ。その機能が無ければ魔法は使えない。そして、お前さんにはその機能がない」
つまり。
「お前さんはこの先、一切魔法は使えない。どんなに努力しようとしても、だ」
どうしよう。さっき浮かれてた自分がバカみたいだ。せっかく物語みたいに冒険者にでもなってウハウハ生活しようと思ったのに…
「まあそう落ち込むな。まだ全部が駄目だと決まったわけじゃないと思うぜ?」
うっそマジで?
「確かにお前さんは魔法が使えないが、さっきお前さんには魔力が大量にあると言ったろう?その尋常ではない魔力量を上手く使うのさ…」
そう言ってハーラントは続けたのは、次のようなことだった。
魔力というものは魔法の燃料になるだけでなく、体内で意図的に活性化みたいなことをさせようとすることで、筋力だけでなく自然治癒力や感覚などといったあらゆる身体能力を向上させられる、という性質があるという。
この世界にいる魔法使いなどの人は戦闘をする際、無意識にその身体能力向上をさせている。
しかし、一般の場合その効果は微量だという。どうやら一般の魔法よりきわめて非効率らしい。なので、ほぼすべての人は意識的にそれを使ったりはしない。そんな燃費が悪いようなことをするなら他の魔法の発動に魔力を当てるし、身体能力を向上させたいならそういった魔法がすでにあるのだ。
「問題はそいつをマスターするにはちょいと難しいってとこだな。まずもって燃費が悪い。いくらお前さんでも慣れないうちは魔力切れを起こす。あとは基礎的な体力も今のお前さんの筋肉量を見る限りは足りないだろうな。そいつを使えばすぐ疲れちまう」
「でも、それをできるようにすればいいんだろ?」
「ああ、そうだ。習得できるかどうかはあまり心配しなくてもいい。なにせこの俺が教えるんだからな」
「すげえ頼もしいな。ところで、できるようになるまではどれぐらい時間がかかるんだ?」
「ん~そうだな。入学の時期まであと10か月ぐらいだから、それまでにはある程度までは仕上がると思うぜ」
なるほど理解。一年弱の期間で頑張らなきゃいけないってことか・・・・・・
ちょっと待て。今入学とか言わなかった?
「俺学校とか行かなくちゃいけないの!?冒険者的なことやってみたいんだけど・・・・・・」
「ええ、そうよ。冒険者はもちろん武力も必要だけど、知力も結構必要とされているの。だから学校で必要な知識とかを教わる必要があるのよ」
冒険者だけでなく他の仕事をする場合も学校に行っておいた方がいいの、とリナが教えてくれる。
「ちょうどここにいるリナも、お前さんも行くであろう学校に入学するためにこの俺のところに来てるからな。戦闘関連は俺が教える。知識面も俺が教えてもいいが、リナの方が教え方がうまいからな。どうだ、頼めるか?」
「ええ、大丈夫よ。余裕で受かる程度にはみっちり叩き込んでやるわ!」
――なんかすごいハードな展開になってきそうだけど、大丈夫かな。
だが、こんなところで止まってはいられない。
この世界に来て初めての目標ができた俺は、明日から始まる新生活に心を燃やすのであった。





