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4-22 「私、勇者のお嫁さんになる!」と言って王都に向かった幼馴染が帰ってきた

「私、勇者のお嫁さんになる!」と言って王都に向かった幼馴染が10年ぶりに帰ってきた。


…のだがなんだか様子がおかしい。ん?僕が勇者???ん???幼馴染が姫様????

何が何だか分からないが、気づいたら幼馴染に勇者として扱われているし、何やら裏で陰謀も駆け巡ってるし…。ちょっと待って、僕は別に小さな村の1村人であって勇者じゃ...。え?姫様は勇者様がご謙遜しているっていってる????そんな、ほんとに村人なのに...

この夢を見るのは何年振りだろうか。なぜ僕がこれを夢だとわかるのか。それはこの悪夢をもう何回も見ているからだ。



夕暮れ前の帰り道。二人で森から帰るこの道、この道を帰っているこの時間が僕はすごく好きだった。まだ小さかった二人の影が伸びて少しだけ大きくなった気分、強くなった気分になれるこの時間が。大好きな幼馴染と一緒にいることが出来るこの時間が。



「私ね、大きくなったら○○のお嫁さんになるんだ!」

何の前触れもなく、唐突にそう言い出すフィーアの言葉に動揺してしまう僕。


「な、な、なら!!bo…お、俺はもっと強くなる!!強くなって××を守れるくらいになる!」

そんな僕に対して彼女は優しく、諭すように

「○○はその優しいままでいて。私がもっと強くなって○○を守ってあげるから」

そんなことを言う。そんなことを言われ、言い返す勇気があの頃の僕にある訳もなく、僕はうつむきながらだんまりを決め込んだ。



「あー、○○顔が赤くなってる!!」

うつむいた僕の顔を覗き込みながら、そんなことを言うが、そういう彼女の顔もリンゴのように赤い。



「××だって、顔赤いよ!!」

「そ、そ、そんなことないしっ!!○○の気のせいじゃない??ほ、ほ、ほら夕日、夕日のせいだよっ!!!」





大好きだった幼馴染のフィーア。もうお互いの呼び方も忘れるくらい会っていないが、それでも夢で見るくらいにこの時間が僕は大好きだった。



そして場面は切り替わる。急に空が暗くなったと思えば、



「私は勇者の…」

その言葉が聞こえてきて、笑顔だったフィーアの顔が変わる。口が大きくなり目が大きくなり輪郭がゆがむ。いつしか空の色との境界線が混ざり合い、全身が膨れあがり、そして破裂し次第にバケモノへと変わru…



「うわぁっっっ!!!!!!!!!」


自分の叫び声で目が覚める。はぁはぁと荒い息をして飛び起き、あれが自分の夢であったことを悟り安堵する。




こんな悪夢を見た原因は分かり切っている。この村に10年ぶりに返ってきたフィーアだ。

その二つ名が世界中に轟き、その活躍を耳にしない日はない。勇者パーティの真の立役者、彼女が居なかったらとっくに勇者パーティは壊滅してるなんて言われる、そんな鮮血の聖女フィーア様がこの村に突然帰ってきて僕に「王都に一緒に来て欲しい」なんて言って来たのだから。


今から10年前。

僕とフィーアの幸せだった日常は突然壊れた。

「私、勇者のお嫁さんになる!」

何の前触れもないまま彼女はこの村を飛び出していったのだ。














居なくなってからも彼女の噂はよく耳にした。



「バーちゃん、勇者様たちが東のフージャ村の大飢饉を救ったらしいよー。あんたも頑張りなさいね」

噂話の好きなガスおばさんからの勇者情報。


「おい、バーンズ、勇者御一行が四天王の一人を倒したらしいぞ。あいつも一緒に冒険してんのかなぁ」


「おいバーンズ、」

「おいバー!」

「おい!!!」

「なぁ!!!!!」





そうなんだ、と相づちを打ちながら僕はあの日の「私、勇者のお嫁さんになる!!」と言った顔を忘れられず、そしていつしか毎日のように彼女の悪夢を見るようになったのだった。

















これは私の中にある一番古い記憶、そして一番大切にしたい記憶である。

これは夢、


あれは、よく晴れた日のことだった。私はその日母と喧嘩をし、家を飛び出した。一人でどこに行く当てもなく、私は森へと向かっていた。



それは軽い思いつき、ちょっとした嫌がらせのつもりだった。


「そうだ、森の奥に行ってみよう」


普段は禁止されている森の奥、未知の場所への好奇心が私を危険へと駆り立てたのだ。





「ここどこぉーーーー?」

声の限り叫んでも帰ってくるのは静寂ばかり。




「だれかぁーーー!」

その声は誰にも届くことなく森の中に吸い込まれていく。



「助けてよ…」


どさっと地面に座り込む。そこには、未知への探求心だ!と息巻いていたはずの私はおらず、この異様な静けさを前にして心の折れた私だけが取り残されていた。


いつの間にか滲む視界。


それでも歩かねばならない。そう決意して右手で顔を拭う。







「よしっ!行くぞ!!!」


ひとり大きな声で叫ぶ。その時だった。目のまえでガサガサと大きな音が鳴り、何か黒い大きなものが姿を現す。


「ひっっ!」

声にならない悲鳴を上げながら木の影に隠れると、現れたのは大きな狼だった。

真っ黒くそして大きな全身。真正面から見えるギザギザとした大きな歯に口から滴るよだれのような液体には少し赤い色が混じっていた。よく見ればひくひくとにおいを嗅いでいるであろう鼻先は赤く濡れていた。


あ、私この狼に今から殺されるんだ…。やけに冷静になった頭でそう考えながらも、私の心と体は正直であり、目の前のバケモノに対して私はただ恐怖し動けなくなっていた。



たすけてたすけてたすけてたすけてけてたすけてたすけてたすけてたすけて!!!!!!



「うおおおおおおお!!!!!!!」


その時だった。彼が助けに来てくれたのは。大きな声で叫びながら、ハアハアと息をきらす彼を見て、彼がどれだけ必死に私を探してきてくれたのか分かった。



「かっ、帰れっっっ!!!!!!」

私を背にかばいながら、彼はオオカミのほうをにらみつけそういった。しかしその言葉の威勢のよさとは裏腹にその声にいつもの力強さはない。よく見てみれば彼の両足はガタガタと震えていた。


「………」

「………」


奇妙な間、互いが見つめあうだけの間が流れ、根負けしたのは…



「だ…大丈夫か??」

オオカミのほうだった。私と同程度の大きさの小さな背中、その小さな背中が今はとても頼もしかった。


「こ、怖かったぁ…。て、てか立てない…」

争いごとの苦手な彼が、私を助けるために大声でオオカミに立ち向かい怯ませる。一方喧嘩だけは負けないなんて思っていた私はどうだ。母の忠告を無視して森の奥に入った挙句、オオカミに食べられそうになっているではないか。私にもっと力があれば彼のことも守れて問題なかったのに…。





それから数日後。

「我々は勇者一行である。一晩この村に泊めさせてはいただけないだろうか」

強くなると決意した私の目のまえに現れる彼ら。



黒色の見るからに高価であろう全身鎧を身にまとった大男と黒いローブとそれに見合わないサイズの大きな杖を持つ小柄な女。杖の柄には彼女のこぶしよりも大きな宝石が6つも付いており、いかにも只者ではない雰囲気が漂う二人組がこの村へと訪れたのだ。



「わ、私を弟子にしてください!!!!!!」













「うわぁ…10年ぶりかぁ!緊張するなぁ!!!」

「姫様、そんなにはしゃがないでくださいませ。私はただ姫様が勇者様と結婚すると決められた時から







「ただいま!!」


それは突然のことだった。聞き覚えのある声に見たことのない美女がこちらに笑顔で近寄ってくると、


「私、勇者と結婚するわ!!!ってことで私と一緒に王都に来て!!」

と言って僕の腕をつかんだのだから。









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表紙絵
― 新着の感想 ―
[一言] 幼馴染に攫われる彼が。普通の村人が、のはずの彼が。鮮血の聖女の二つ名まで持った幼馴染は村人をさらってどうするのか? 真面目な冒険物語? イヤイヤコレはラブコメなのか? 目を離せない展開です。…
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