4-15 最弱ステータスの武器使い ~装備の力で最強……ではないが、とりあえず頑張ります~
一世を風靡し、世間にVRMMOというジャンルを広めた「No Rules Online」に友人から、武入 咲夜は誘われる。
初期設定を始めた咲夜は、攻略サイトで見つけ面白そう、と「ランダム」機能を使いキャラメイクする。
そこで選出されたのは、通常の選択では出現しないレア種族で──
「えぇ……ステータス振れないけど装備効果10倍……? そんなのアリ?」
これは彼が面白おかしくゲームを楽しんでいく物語。
巨木が鬱蒼と育ち、薄暗い森の中。
普段なら獣の遠吠え程度しか聞こえない様な場所に
─ガキィン!!─
モンスターさえも殺しそうな音が鳴り響き衝撃波が走る。
……いや、最初の一撃目では虫型モンスターが本当にHP0になって消え去っていた。
森に木を強引に切り裂いてできた様な空き地に、彼とボスモンスターは対峙していた。
「一体全体どうして、こんなことになったんでしょう?」
彼、PN.サクヤ─は努めて冷静そうな声音で独り言を呟く。
しかしながら内心では『いやホントにどうする? 取り敢えずこれを打破しないと……けどどうやって? あ、横からの攻撃、どうにかして止め、それともいなせば良いか?』と慌てまくりである。
そうこうしている内に敵は爪を振りかぶっていた。彼は手に持っている純白の大盾を構える。
余談だが、今の装備は全身が純白のフルプレートアーマーと大盾。見知らぬ人ならば全員が聖騎士と例えるであろう姿だ。
─ガキィン!!─
いなす、などと考えておきながら正面から受け止めた。だがダメージは入っていない。ひとえに、装備やスキルや種族等々のお陰である。
しかし、樹帝狼には攻撃判定が入る。サクヤは正面から攻撃を受け止めた。その為、一部の衝撃が自らに跳ね返ってきたのである。
そんなことは露知らずサクヤは攻撃を受け止め続ける。
もちろん、相手はボスモンスターではあるわけで、多くの魔法や物理攻撃を巧みに扱いタコ殴りにされている。
何十分も何時間も連続でだが。
ここまで来ると、初めは快楽の表情だった狼も憤怒や困惑の表情へと変化し、果てには絶望の様子さえ現れ始めている……ような気もする。
途中でHPが半分を切り攻撃の連撃が始まったが、むしろHP減少を加速させるのみだった。
あと3ドット、2ドット、1ドット……ゼロ。
それを境にボスモンスターは体を傾けながら霧散した。
◆
「はぁ……」
ある教室の一室。
授業直前までスマホを弄りながら、廊下側の隅にある席で思わずため息が漏らしていた。
そこに肩に勢いよく手を置かれ、声をかけられる。
ビクッと反応しながらも、声の方向へ振り向いた。
「よお、またどうしたんだよ咲夜?」
「……大地かよ、脅かすなよ」
「またまたー、この大地様が話しかけなきゃ誰がお前にかまってやんだよ」
「ネットさえあれば充分」
「ははっ、もうちょい色んな奴と交流しろよな。ほら心の中の天もそう言ってる」
「勝手にお前の妹が言ったことにすんなよ」
岸本大地、俺の唯一と言える友達であり幼なじみ。クラスでもお調子者で通っている、一般的にはイケメンと評されるムードメーカー的存在だ。一学年下に岸本 天という妹がおり、こちらは打って変わって高嶺の花、と噂されている。
振り払った大地の顔を見てみれば何やらニヤニヤしていた。これは……何やら碌でもないことを考えているときの顔だ。
俺が何かを問う前に、もう我慢ならないとでも体現した大地の口が動き出す。
「なあなあ、ところで。お前『No Rules Online』って知ってるか?」
「本当に唐突だな。まあ一応は。一時期ベータ版が配布されたVRMMO、だったけ。俺はハード持ってないからやってないけど」
「ほい」
そんな軽い声と共に若干重めの音を発しながら机の上に置かれたのは、明らかに学校に持ってくるには相応しくない、VRをするため頭に被るハードが。
「ナニコレ」
「いや、ハードだけど」
「……金払えねぇけど」
「ソフト付きで懸賞で当てた。俺たち兄妹はすでに持ってる。だから差し入れ。any question?」
淡々と、それでいて確実に言い聞かせるように伝えてくる。
「で、どうしろと?」
「『No Rules Online』、一緒にやらない?」
「暇じゃない」
「そこらの不良はどこ行ったのかな? お前に決定権はない」
「えぇ……酷い。あー、やり方が分からない」
「そういうと思って、パソコンで接続して初期設定は終わらしてるよ。あとはソフトを入れれば遊べるけど」
「その類のゲーム余りやらないからどうするのか分からな「言っとくけど俺はベータ版からやり込んでるし、初心者指南もできるんだけどなー?」……分かったよ」
……折れるしかないか
家に帰って、とりあえずハードの電源を試しにつけてみる。流線型のそれに青い光が過ぎり、起動したことを知らせてきた。
「……設定とかマジで終わらせてんのな」
ここまでやらせてるのに一度も見向きしないのも申し訳なく、あとのことは数分後の俺に任せることにした。
それに、もし無視でもしようものなら学校でドヤされてしまう。
ハードをバイクのヘルメットのように被りログインのため目を瞑って一言発する。
「ログイン!」
スッと意識は落ちていった。
次に目を開けばゲーム『No Rules Online』のアバターなどの初期設定を行う白い部屋にいた。
事前に攻略サイトを見て調べた知識によると、どうにもこのゲームは種族やスキル、魔法などを選んでから遊ぶことができるらしい。
なお容姿も、今は線が細く黒髪の大きな特徴のない現実の俺の姿だが、ある程度ならば変更できるらしい。ただし顔を弄くり回すと造形のプロでもなければ微小な違和感が出るようだった。
眼の前に薄いホログラムのような画面が表示され『No Rules Online へようこそ! まずは基本設定をお選びください!』という文面とともに、下へスクロールするといくつかの項目の設定があった。
──────────────────────
種族 :選択画面へ
初期武器 :選択画面へ
スキル 魔法:選択画面へ
ステータス :選択画面へ
attack:0
vitality:0
intelligence:0
resist:0
dexterity:0
agility:0
charm:0
luck:0
ステータスポイント:1000
容姿 :変更画面へ
その他
──────────────────────
……多いな、というのが第一の感想だった。
とりあえず、すべての項目を確認していく。
「へえ、種族は「人間、エルフ、巨人、獣人、ドワーフ」の5種類で……スキルとか初期武器とか、何個あるんだよ」
全画面を一度だけ開き、目を向ける。スクロールし続けてもそこが見えないほどに多すぎる文字の羅列。速攻閉じた。
変わりに「その他」の項目をタップする。
本来この項目は、一度この部屋から現実に戻りたいときログアウトするセーブ機能や、選択画面で表示されている「スキル 魔法、初期武器、ステータス」の選択したものの詳細などを知れる機能やその他諸々を統括した項目だ。
注視しながら下にスクロールしていく。
「まあどれだけあっても関係ないか、えっと……良かった、あった」
「その他」項目にある「ランダム」機能。
それこそが俺が探していた項目だった。
攻略サイトを見たときに真っ先にやろうと決めた機能だった。
なぜなら通常の選択では出現することのない種族やレアスキル、魔法を選択でき、ステータスも上限より多く設定される可能性がある、らしいのだ。
ただし一度使用すればリセットはできず、種族によっては使い物にならなかったり、スキル 魔法も完全ランダム。容姿も選択から自動で選ばれて、加えてステータスも通常で振り分けるよりもステータスポイントが少ない方が多かったりと、完全に運任せ。
しかし迷わず「ランダム」の項目を押す。
どうせ誘われたゲームだし、せっかくなら楽しみたい。
演出的なものなのか、ロード時間を稼ぐためなのかは分からないが、画面の選択する部分の文字が次々に切り替わる。
そして、停止した画面には──
──────────────────────
種族 :武具精霊
初期武器 :なし
スキル 魔法
【ノックバック】【ステップ】【クイックチェンジ】【魔力撃】【悪路走破】
ステータス
attack:──
vitality:──
intelligence:──
resist:──
dexterity:──
agility:──
charm:──
luck:──
ステータスポイント:──
※種族特性によりステータス及びステータスポイントが消失し、装備ステータスが加算されます
──────────────────────
そして容姿を映した別の画面には現実の俺とは似つかない、どちらかといえば女性に似た美しい顔立ちの銀長髪アバターが。
……マジで? と思うと同時に新たなウィンドウが表示され「良い冒険を!」と無慈悲な宣告をした。
そして、転送が開始。俺はこの白い部屋から消え去りチュートリアルの為、最初の街に飛ばされるのだった。





