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4-14 竜操令嬢アルメリア〜小悪党令嬢とドラゴンレース〜

【この作品にはあらすじはありません】

 翔ける、翔ける、翔ける。

 叩きつけるような暴風を浴びながら、白い小さなドラゴンは宙を翔ける。

 眼前に迫る岩山を体を傾け岩肌を舐めるようなスレスレの回避。数秒後には岩山がはるか後ろ、距離にして1ハロンの向こう側に過ぎ去っていった。


 正に神速。

 しかしその白いドラゴンに跨ったゴーグル姿の少女は、ヘルメットに収まりきらなかった自慢の縦ロールを揺らしながらも、その風をかき消すぐらいやかましく吠えた。


「動きに無駄が多いですわ!! そんな飛行じゃスピードが落ちましてよ!!」


『うるさい縦ロール!! 君が重いから動きが鈍るんだよ!! 絞るって言ったじゃないかこの嘘つきロール!!』


「やっっっっかましいですわねこのおノロマ駄ドラゴン!! 5キロも絞ったんですから文句を言われる筋合いはありませんわ!!」


『5キロで威張るなこのお肉巻きロール!!』


「お黙りなさいこのおチビ助駄ドラゴン!!」


 ぎゃあぎゃあと少女とドラゴンは互いに吠え、トカゲ、デブ、おバカ、くたばれ等と口汚く罵り合う。

 だが、事実として1ハロンを瞬時に駆け抜ける程度のスピードではお話にならない。


 だからこそ無駄を省け。必要最小限の動きで飛べ。そして死力を尽くして駆け抜けろ。

 それが出来なければ素人である自分達は──死ぬ。


 はやりそうになる気持ちを抑えつけ、少女は握った手網にありったけの魔力込める。

 瞬間、身体が引きちぎれそうな衝撃と加速。

 叩きつけられる暴風が少女を振り落とす──事は無い。

 薄く張られた透明の膜がミシミシと悲鳴を上げながらも少女を保護。

 それにより振り落とされはしなかったが……再度ドラゴンが吠える。


『おい! スピードを落とせ!! バリアが壊れてお前が落ちたら終わりなんだぞ! お前のせいで死ぬなんて真っ平ごめんだぞ!』


「生憎と!! 自分の限界を見誤るヘボではありませんの!! ──それともまさか、おチビ助はこの風を乗りこなす自信がありませんこと?」


『ハァー?!』


 少女の意図しかない見え透いた安い煽り。

 だが、買うには十分。


『舐めるなよ人間!! 空で僕が負けるかよ!!』


「よろしい!! ならばつべこべ言わずにとっとと駆けなさい!!」


 売り言葉に買い言葉。

 少女の魔力によって加速したドラゴンは流星のごときスピードで風を切り裂き空を飛ぶ。

 そして少女はそのドラゴンを乗りこなし器用に手綱を引き、足を鞭代わりにドラゴンの体を叩き、どう飛ぶか的確に指示を出す。


 互いに口汚く罵りながらも、息のあった飛行を見せる少女とドラゴンの姿がそこにあった。

 まるでお互いの心が通じあってるかのような飛行だが──本人達にそれを言うとまたやかましい言葉が返ってくるだろう。けれど今この場にその言葉をなげかける観衆は居なかった。


 だが観衆の代わりに現れたのは少女達の前を行く他の竜影。

 少女と同じくドラゴンに乗った男は、ピタリと後ろに張り付いた少女を見てぎょっとした表情。

 だがそれも一瞬、男は嘲るように吐き捨てる。


「素人のおちこぼれにしちゃよくやった。だが──素人が勝てる程このレースは甘くねぇんだよ!!」


 身を(ひるがえ)し、真っ向から少女を迎え撃つ。

 神速の風の中で放たれた男が駆るドラゴンの爪撃。当たればタダでは済まない。


 ただ、それはつまり──当たらなければどうという事はないのだ。


 攻撃の動作を確認した瞬間、少女が手綱を引くのと白いドラゴンが動いたのは全く同じタイミング。

 白いドラゴンは今度もギリギリ──コンマ数ミリのスレスレの回避。


「なっ!?」


 神がかった回避に驚愕する男の虚を突き、白いドラゴンは更なる加速。


「お〜っほっほっほっほ!! おノロマさん、ごきげんよ〜ですわ〜!!」


 少女の高らかな笑い声だけを残し、一瞬にして前に居た男を抜き去った。


「ク、クソ……あいつらぁ素人のはずだろ……!?」


 そんな恨み言を吐く男を置き去りに、少女は口の端を吊り上げて嗤う。

 小悪党。そんな言葉が似合う程にあくどい笑みを浮かべる少女に白いドラゴンは呆れたような声を漏らす。


『お前って、ほんっとーに性格悪いよな。死んだら地獄に落ちるぞ』


「ふん、その時は地獄の閻魔様に取り入って差し上げますわよ」


『誰だよ地獄の閻魔って』


「全く、おチビは教養がありませんわね……閻魔様とは、初代聖女様が語られた御伽噺──上っ!!」


『おうっ!!』


 全身が総毛立つ程に嫌な予感と共に少女が手綱を引くと同時にドラゴンは更に上へ舞い上がる。

 阿吽の呼吸。心が通じあったような動き。ここに観客がいれば拍手喝采が巻き起こるのだろうが────現実に巻き起こったのは、渦を巻く巨大な熱量。


 渦巻く炎が空気を揺らしながら大地に到達し──轟音。大地を揺らす。


 焼けるどころかドロドロに溶けた大地を見やり、少女とドラゴンはあのまま急上昇しなければ自分達もあの炎の渦に溶かされていたと肝を冷やす。

 

 圧倒的な暴。それを成したのは────後ろより迫り来る赤きドラゴン。

 白いドラゴンのおおよそ四倍近くある巨躯は翼を広げ、荒々しくも機敏な動きで追ってくる。

 その目に宿るのは強烈な殺気。


 ここに来るまで散々おちょくり倒したからか、怒り心頭といった様子。

 近づかれたらあの巨躯にねじ伏せられる。なんて事は考えるまでもない。


「追いつかれましたわね。

 ……で、何か言うことは?」


 肝と同時に冷えた頭で少女はぽつりと、冷静に問いかける。


『……お前はほんとーに性格は悪いし、体は重いけど、悪知恵だけは尊敬するぐらいに回るよな。

 ……ここまで、怖いくらいお前が立てた作戦通りだ』


 同じく頭が冷えた白いドラゴンは少女にそう返す。

 そう、“ここまでは”少女が立てた作戦の通り。

 だからこそ少女とドラゴンは傍から見るとうわぁと言いたくなるぐらいあくどい笑みを浮かべる。


「一言も二言も多いですわねぇ……まぁ、褒め言葉として受け取って差し上げましょう。何せ私は聖女様のごとく寛大な心の持ち主ですゆえに。

 ……ですが問題はここから……ちゃんとやらなきゃ、二人仲良く殺されるだけですわ」


 正直な所、自分達には速さも足りない。経験もない。仲もこれっぽっちも良くない。

 ないない尽くし。とっとと諦めた方が幾許かマシ────だが、少女もドラゴンも、その目に諦めの感情はない。


「さぁ、二人仲良く合い挽きミンチか相乗りか──選びなさいハム!!」


『お前とハンバーグになんてなってたまるか!! 僕を乗りこなしてみろ──アルメリア!!』


「ええ! よくってよ!!」


 少女、アルメリア・ル・マクスウェル

 ドラゴン、ハムノヨテー号


 後に伝説と呼ばれる一人と一匹の逆襲ここから始まる。

 それを語るにはまず、このレースが始まる二ヶ月前にあった事──











「ですから! 多少の! 多少の嫌がらせはしました! その一点だけは認めましょう!! 私ウソは大嫌いですゆえに!! ですが! よもや! よもや階段から突き落とすなど、そのような蛮行だけはしておりません!! 弁護士を呼びなさい!! 情状酌量の余地はあると思いましてよ!?」


「お前さん、簀巻きにされた状態でよくそんなことを言えるよなぁ」


 小悪党令嬢、アルメリア・ル・マクスウェルの始まりから書き記そう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 縦ロールちゃんのパワーが全てを上回ってますねぇ。白い竜との掛け合いが続く限り、無敵感がビリビリと感じられます。レースは終わるのか?このままずっと続くんじゃないか? 彼らコンビは何処に向かうの…
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