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4-13 絶対喪失記憶ンジャーになりたくないんですが!?

 有名なヒーローから世界を滅ぼしかけそうなんだと、カミングアウト。

大学生 浜守・味は新作ドリンクを購入し帰る途中、絶対喪失記憶ンジャーのレッド、ギナザイと街角と衝突。その縁からなぜか力を受け継ぐことになってしまう。

 死にかけだったレッドの自白と世界を救ってほしいという懇願、そして前報酬に貰える女の子の誘惑に勝てなかった浜守は、庶民根性で戦隊に参加する羽目に。しかし、報酬の黄泉津系女子は変人だし。戦隊の仲間は半数ぐらい人間じゃないしで、てんやわんやと嘆く浜守に、【絶対喪失】の代償が重くのしかかる。


 戦隊のスパイ、敵組織との密通、暗躍する本当の敵。そして黄泉津系女子との恋愛。多様な世界で無垢な庶民が乗り切れないようなイベントをどうにか突破せよ!


 浜守・味の絶対救世への戦いが今始まる!


 『絶対喪失記憶ンジャー』


 それは有史以来、悪の組織と戦い続け、平和をもたらしてきた日本の象徴である。


 「俺たちの戦隊、気づかないうちに世界滅亡させかけて、ちょーヤバい」


 しかし、その象徴は悪の手先だといわれるのは一般市民にはキツイもので。


 「……久々に再開して早々ドリンクを吹き飛ばされた身で言うのもなんですが」


 「おう、なんでもこいや」


 とある日本都市の一軒家、その居間にて震えた声を発する青年のシャツに茶色の模様が広がっている。

 ルンルン気分で買って飲もうとしていたチョコドリンクが、玄関先で彼に衝突し炸裂した成果だ。


 青年、浜守・味の気分的に。


「久しぶりですがギザナイさん。終末とかより今、全力で罵倒していいですか?」


 目の前に座る男、ギザナイに対して殺意にも似た感情を持て余していた。


「時間がないし、落ち着け。とりあえず【記術】で再現するから許してくれ。んーほい」


 両耳付近に輪っか作った髪形の彼は、頭に手を当て軽く唸った後に、先ほど散った新作ドリンクが手元に生み出される。


「さらっとしましたね。これが記憶ンジャーの力か……」


「ちなみに今ので終末時計がものすっごくちょっとだけ進んだ」


「スケールと進みようが分かりづらくない?」


「大丈夫、よく戻ったりするから」


「そのネタも勘弁しませんか ……まあなんです、正気ですか?」


 現状、浜守青年の感想はそれとしか言いようがない。


「安心しろ正気だ」


「そ、そうですか……とりあえずSNSで今の情報拡散しますか」


「世界滅亡・レッドがトレンドになって、いろんな意味で安心できなくなるからやめろ」


 そして、スマホを取り出した浜守の腕を必死に止めてるのが。絶対喪失記憶ンジャーのレッド。名を、ギナザイという。

 外見は、赤いマフラーに古めかしい民族服。耳の付近で結んだ髪の毛。そして生気の失せた真っ白い顔。


 これが日本成立以来戦いを続けているらしい、英雄の筆頭である。



「とりあえず戸棚のお菓子取ってきますから……なんか消えそうな顔してますし食べて元気に」


「ならないよ。今は意地で保ってるだけで。現実はほら消滅しそうでな。腕を見てみろ」


「は?」


 そういうギザナイが見せたものは、透明であった。


 腕から肩。胸に至るまで、存在が希薄であるかのように透けている。彼の背後にある壁までもが視認できるほどに。

 

 電波すら皮膚吸収できないような体になっていた。


「まあ逼迫してね。簡単だろ」

「結論が簡単じゃないんですよ……はあ、超有名な戦士たちが世界の破壊者とか信じられないんですけど」


 絶対喪失記憶ンジャーは、日本のみならず全世界に認知されたヒーローたちであり。日本が誇る人間国宝である。


 歩くだけで広告塔、走るだけで世界記録、戦いだせば救世主。歌は皆目をそらす、庶民にも親しみのある人たちだ。


 子供のころから教科書で登場し日本史、世界史、現代史を又にかけ登場する化け物ともいえるであろう。


 そんな彼らが世界滅亡とは、大きくでたなと一笑に伏したいのが、浜守青年の正直な心境であった。


「じゃあ、記憶ンジャーの活動がどう終末に影響するか教えてもらっていいですか」


「それなら簡単だ。 ほら敵対組織に撃つ技があるよな。あれだ」


「え、あの超かっけえビームが!?」


「……身を乗り出すんじゃないよ。ビビるだろ」


「なんでその気の弱さでレッドやってたんすか……」


 彼が言っているのは、【絶対喪失ビーム】である。彼ら戦隊が放つ技でレッドを中心に、ブルー・イエロー・ピンク・ブラック。喪失戦士たちが陣形を組んで放つ技である。


「人が襲われてるところに俺たち現れるんで、人質の声援あるだろ?」


 敵に数名が捕まって声を悲鳴を上げるのと。避難誘導に間に合わない人間が『頑張れ』と、声を上げていることが多い。


「あの瞬間に、声援の数を参照。そこから星の資源を消費して必殺技を出してるんだ」


「気軽な世界の危機」


 スキップしてたら犬に吠えられるぐらいに、よくある状況だ。


 軽く話を聞いていて、ふと思い出す。


「巨大化とか、どうなるんです?」


 敵組織に所属する魔法戦士たちは倒されるとき、なぜか巨大化する傾向がある。それに対抗するために、記憶ンジャーも巨大化するのだが。


 この傾向だと恐らく。


「あれは特に顕著だな。まずアカシックレコードに接続する」


 案の定、禄でもない。


「単語のスケールがでかすぎる……」


「接続した後に、自身に関連した資源を消費して巨大化する」


「資源……ガソリンみたいな感じですかね」


「どっちかというと坂道で馬力効かせる感じ」


 それもわからない、という言葉をぐっと抑えた浜守は懸命だった。


 とりあえずは脳の中で理解しにくい事象であることは確かだ。己に連なる資源となると、身近なことだろうか。


「まあそれが、滅亡の原因でな」


「え?」


「喪失戦隊は基本的に、資源を消費して戦えるだけの素質があるやつ。なおかつ様々な素質持ちが所属している」


「おもったより多様性なんですね」


 言われてみれば記憶ンジャー、記術や透過をして奇襲。そこから初見殺しな搦め手を使いド派手な技を相手に直撃させていた。思い返せば常人の領域から抜け出している。


「ブルーは大妖怪、イエローは地縛霊。ピンク……ハーレム野郎で若干18歳高身長イケメンだ」


「ピンクだけ妬みがすごい」


「ちゃんとモテる現代っ子は誰が見てもカッコイイんだよ……」


 ハーレムを形成している野郎とは。まあ浜守青年的には女子との関係性は特に羨ましくない。ない。ほんとだよ。


 とりあえずは情報が出揃った……現実離れしすぎた説明のせいで実感がゼロであるが。


「ギナザイさん、それが妄言でないと否定できます?」


「まあ否定はしない」


「資源の消失って言っても、実感がないですよ。特に変わってないし」


「いや現実。消えているものはある」


 頭に手をやり、一考するそぶりを見せた折。


「初めはな、戦う度に土地が減った。次に穀物、生物。最近までは、化石資源」


「教科書だと時代ごとに名前変わってましたねえ」

 

「それらを俺たちがギリギリまで消費してしまった」


 現実として、世界中ではこれを見越して、早急な対策を打っている最中だ。


「まだ、それはよかった、ただ次は知識が消費されていた」

 

「論文とかレポート書いたりしたら消費されますね。今も数個あるので消費しなきゃ……」

 

「それは教育の一環だからさっさとやれ」

 

「はい」

 

「とりあえずこっから大事だ……イザナギってわかるか?」

 

「いやだれ。この数年。食べ物レビューしかしてないですよ」



 歴史や文学でも聞いたことのない名前だ。一体それは誰なのか。


「いいか、イザナギという神がいた。滅茶苦茶有名だったがその知識をみんな忘れた。星の資源として消費されたからだ。覚えているのは親類と当人のみ」


「認識しない間に消えるんですね」


「今はまだこれで済んでるが、だんだんと、その範囲を拡げている。そして、段々と物を使うことを忘れさせようとしている」


「……人類全体が忘れてるって言ってましたね」


「ああ、まだ神話のジャンルが消えつつあるだけだが。車、携帯、発電所、兵器。これらすべての使い方を一斉に忘れる日がくる」


 そうなると、人類の知能は下がる。


「すべてのものが実質使用不可になり。どんなものでも誤った使い方をして簡単に人が死ぬ世界になる。そして現代文明で慣れ切った無知な現代人は終わる……これが終末までの計画の一部だ」


「これで一部なんです……?」


「ああ、首謀者の真意がわからない。凄い長期計画で世界滅亡の手筈を整え、喉元に迫ってるのは確かだ」


 だけど、ギナザイにはここから先がない。何せ死にかけだ。


「先は、お前だけしか暴けない。俺はこれを探っているところで。安全圏でやられた。確実に敵は身内にいる」


「……ほんとに?マジで?正気?」


「現実的な話として、こんな絶対喪失とかついた戦隊を世間が素直に受け入れられてる状況が、もう正気じゃない」


「そりゃそう……いや待ってそれより僕ですか? 棒を降ったことしかない僕がやるんですか!?」


 戦闘の基礎はわからないし。武器はどうにもならない。経験も褒美のないデスゲームなど、参加したくないのが道理である。


「こっからはお前に託す。お前だけの戦隊を築いて諸悪の根源を倒せ」


「無理無理無理だって、無心で食べるの大好きな青年にそんなそんな」


「前報酬として、嫁的にかわいい黄泉津系女子が補助として加わる」


「受けます」


「やっぱ人類はちょろいな……」


 とりあえず、と軽く閉口させ。首を掻き彼は立ち上がる。彼の顔すらもう霞んでいく。


「よし席を立って俺の前にくるんだ」


 その言に従い、浜守は言われた通りにする。それを見届けると。彼は自身の腰に手を当てる。


 一見なんて事のない動作だが、それは構えたとわかった。なぜなら。


「記憶セットアップ!喪失準備スキャン!赤き痕跡、着想。絶対換装開始……じゃあな、俺の跡目になって世界を救ってこい」


「……あの今から何を。レッドになる呪文まで唱えて」


「んーそうだな……闘魂注入って知ってるか?」


「凄い、人型が弾け散る未来しか見えない……!え、ちょホントにやめ……やめてぇ……!」


 凄まじい力の奔流が身体に流れると同時に、浜守の絶対救世の戦いが始まった。

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[一言] 世界を滅亡に導く正義の味方? 破茶滅茶なストーリーをコレでもかと繰り出して、どーやってオチがつくのか? ちょー気になるんですけど。
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