4-12 和戸ミコトの不思議な事件簿
⚠文頭の一字下がりですが端末の関係か何をしても反映されていません。ご理解頂けるとありがたいです。
「ようこそ、シャーロット・ホームズの顧問探偵事務所へ」
そう言って手を差し伸べた彼女はツンと笑いながらこちらを見ていた。
「……って、ここ僕の部屋だけど?」
大学のために上京して4ヶ月、例の流行病のせいでろくに登校も出来ずに夏休みを迎えたある日、夜勤バイトから帰ってきたら部屋に知らない女の子が居た。
なにこれ怖い。
誰もが知っているシャーロック・ホームズの子孫、シャーロット・ホームズとそれに振り回されるヘタレ大学生、和戸 ミコトが織り成すドタバタラブコメ×推理小説かもしれない日常物語。
「ようこそ、シャーロット・ホームズの顧問探偵事務所へ」
そう言って手を差し伸べた彼女はツンと笑いながらこちらを見ていた。
「……って、ここ僕の部屋だけど?」
大学のために上京して4ヶ月、例の流行病のせいでろくに登校も出来ずに夏休みを迎えたある日、夜勤バイトから帰ってきたら部屋に知らない女の子が居た。
なにこれ怖い。
『あら、あんたこの前言ったでしょ?アンタと昔仲良かったあの外人さんの子が部屋探してるからシェアハウスさせてやりなさいって』
「はあ?それってシャーロックのことだろ?あの金髪の。今いるの栗毛の女の子だぞ?!」
慌てて掛けた電話に大してのんびりと返す母親。
それをソワソワと髪を弄りながら見守る自称シャーロット・ホームズ。
気まずそうな、だけどイタズラの成功した喜びのようなものを滲ませた瞳はあるひとつの記憶を呼び覚まさせたのだった。
「なあ、きみあそこのよーほーじょーの子?」
話しかけるとハチに刺されるとくだらないいじめを受けていた小3の春。いじめっ子に押されて花壇に転んだボクを助けてくれたのがシャーロックだった。
「ボクのご先祖さまもね、よーほーかでね、元こもん探偵だったんだって」
「そうなの?」
「うん、ボク、シャーロック・ホームズ」
「ボク…和戸ミコト」
ふわふわした金髪が夕日に透けて、いつか見た天使のような、家のミツバチの産毛のようななんとも言えない可愛い見た目の男の子だった。
たまたま家庭の事情で1年だけ転校してきたその子と仲良くなったボクは探偵ごっこと称して朝から晩まで町中を駆け回って、いつしかいじめっ子たちも巻き込んで少年探偵団を作ってあちこちに秘密基地を作ったんだ。
ふわふわした金髪と少し鋭い緑っぽい目、それが彼の特徴でボクの大切な思い出だったのだが、どう見ても目の前にいるシャーロットは栗毛で、目は緑とはいえ何よりも、胸元を押し上げる2つのグレープフルーツがある。
どう見ても女の子なのだ。
「髪の毛はなんでかは分からないけど、成長するにつれて茶色になったの。それと、シャーロック・ホームズはご先祖さまの名前。あの時はお母さんが無理やり男の子として通わせてたの。あの学校生徒が男子しかいなかったでしょう?それからお母様に言っといて。私は外人さんじゃなくてダブルなの」
「ダブル?」
「日本のハーフ、半分ってなんか嫌な気分になるから海外ではダブルが主流なんだって」
「へえ、そうなんだ……って、それでもあのシャーロックの証明にはならないだろう!」
「じゃあ証明してあげる。ミコト、あんた三丁目の交差点のところで工事の交通整理の夜勤バイトして、その後モーニングとしてこのマンションの近くの喫茶店モルガナでナポリタンとオレンジジュース飲んできたでしょ。あんた傘持ち歩かないの小学校の頃から変わらないのね、ダサいし風邪引くわよ?」
「え」
全部正解だ。シャーロックだ。この空から見てでもいたような人を食ったような言い方はボクの記憶にあるシャーロック・ホームズそのものだ。
腹立つけど憎めない、それがシャーロックの魅力だった。
「ほ、本当にシャーロックなのか?」
「シャーロット、シャーロット・ホームズよ」
「嗚呼、ごめん。シャーロットなのか?あのミツバチが1度針を刺したら死ぬことを知らなくて自分を刺したミツバチが死んだことに大泣きしたシャーロット?ついでに泣きながら痛くて漏らしてたあの?」
「だからそうだって……ってあえてそこ思い出さなくてもいいでしょう!」
彼女、シャーロットが顔を真っ赤にさせてどんどんと地団駄を踏む。あ、辞めろやめろ。下の階から苦情が来るだろ。
「わかった、分かったから。でもシャーロット、見てわかる通りボクは男だよ?」
「そうね、私は女よ」
「なんで自信満々に返すんだよ。男女がひとつ屋根の下って大分アレなんじゃないの?」
「大分アレって?」
「いや……それ、ボクの口から言うの?」
けろりとした様子で返すシャーロット。いつの間にかお気に入りの人をダメにするソファに座り込みながらふんぞり返っている。嗚呼そうだった。この子はいつだって尊大にふんぞり返っては変なところで常識が無いんだった。
「ふ、普通さ、男女がシェアハウスするって恋人前提というか……」
「あんた私の事好きなの?」
「男だと思ってたのに好きも何も無いだろう」
「なら問題無いじゃない」
違う。そうじゃない。
「まあ、そうやって見られても私は構わないんだけどね」
「え?」
「なんでもない。でも、ミコト。パパの腕っ節の強さを思い出してよ、アレでもあんた私に手を出せるの?」
「そもそも出さないけどもさ、そうやって見られるってこと!」
脳裏に過ぎるのは、かつてクマやイノシシと一騎打ちしただのどこかの国で傭兵として生活していたとイロイロ噂されていたシャーロットの父親。
逞しい上腕二頭筋は当時のボクの胴体ほどある気がしてよくぶら下がって遊ばせてもらっていたのだ。懐かしいな。
「とにかく!もう荷物は運んだの!仕方ないの!あんた私の事外に放りだす訳!?熱中症で死んだら責任取れるの!?」
「なんでキレ気味なんだよ!?押し掛けてきたのお前だろ!?」
バイトから帰ってきて疲れて眠いのにこのやり取りはさらに疲れる。自然とため息が漏れてしまうとここでようやくシャーロットが申し訳なさそうな顔をした。
「……仕方ない、夏休みの間に別に部屋探すんだよ」
「いいの?」
「荷物運んだんだろ?それにどうせ2週間はボク、この家空けるし」
「どういうこと?」
母親に電話をする前に沸かしていた風呂が軽快な音楽が準備を完了したことを告げる。
「風呂入ってくるからちょっとまってて」
「え、ええ。待ってるけど……そうだ、お布団引いといた方がいい?」
「やめて、女の子が男の部屋でシャワーの間に布団の用意するとかちょっとやめて」
何も聞かなかったことにして風呂場に入る。自分の体温より熱めに入れた湯船にちょっとホッとした。
「私も入ってきていい?」
「ちょっと流れ的にやめて。とりあえずこれからの話するから」
「私だってベタベタなのに」
唇を尖らせてじっとりとした目で見上げるシャーロット。悔しいけど可愛い。
「大学の友達がさ」
「友達いたんだ」
「やめろ、あの時がいじめられてただけで普通に高校とか友達いたから。なんなら少年探偵団だったやつも今でも仲良いから。それと話の腰折らないで」
「はぁい」
「まあ、そいつがさ、今あの流行病で寝込んでるんだけど、1ヶ月くらい叔母さんが連絡取れないんだって」
「それで?」
「複雑な家庭のそいつは身寄りがその叔母さんだけなんだけど、様子を見に行けないから俺に見に行って欲しいらしいんだ」
なんで?とばかりに見上げるシャーロット。なんというか猫のような見た目だ。美人だなぁ昔も今も。
「なんというかさ、直前に送られてきたメールが変だったんだ」
「……謎があるって、こと?」
きらっ、とシャーロットの目が光る。獲物を見つけた猫のような目だ。
「そう、なんというか、とても妙なメールだったんだ」
そう言って友人からコピペして送ってもらったメールを見せるとスマホを奪い取られ、キラキラとした目で見上げられた。
「私も!行く!連れてって、ワトソンくん!」
「…………だと思った」
謎に目がなく、先祖のシャーロック・ホームズを尊敬しているシャーロットに見せたら絶対に行きたがる。
知らない土地に一人で行くのが心細かったボクにはちょうどいい相棒ができたと内心ほくそ笑んだ。
あの時、あんな事件が起きると知っていたら。絶対に連れていかなかったのに。
【たい変なことが起きたんだけど聞いてくれる?いつもの事なんだけどさ
すごく美羽が可愛くてさ
けんきょだし、頭いいし
てん才かもしれない
むらはいつも通りだよ。でもしばらく前に風土病がまた流行ったから来る時は気をつけて
らくに慣れるといいなぁこの時期、畑仕事が大変でさ。
にんにくとか手に匂いが着くんだよ?
ひどいとは思うけど田中さんにんにく好きだから手伝わないって訳には行かないし
ところで最近そっちはどう?
ごろごろしてばかりだと豚になるよ?どうせ雪人のことだから
ろくでもない生活してるんでしょ?
しん学期に単位落とさないようにね】





