勇者になりたかった俺と勇者になった親友。
殴り書きです。
数年ぶりに筆を執るので至らない点あるかと思いますが、どうぞご容赦ください。
勇者。それは世界を脅かす魔王を打ち倒すモノ。
誰しもがその御伽噺を聞き、憧れるものだろう。
かくいう俺もその一人だ。しかし、魔王なんて存在するわけがなく、ただの夢幻で終わるはずだった。
いい年してこんな夢を持つ俺は、周りから白い目で見られていたし。
実際のところかなうわけがないと、自分でも思っていた。
けれど。
そんな折にあんな事が起きるなんて。思いもしなかったんだ。
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「あー、暇だなぁ」
「どうせ二の次には異世界召喚されないかなー、だろ?」
「...やっぱわかっちゃう?」
「いつもお前の話を聞いてやってるのは誰か考えてみろよ」
そんなことを話しながら道を歩く。
そんな雑談をしているのは、俺の親友だ。
昔から、それこそ生まれてから家族ぐるみでずっと親交のある、もはや家族といっても過言ではないやつだ。
「いつになったらその、勇者になりたいだなんて夢諦めるんだ?」
「んー、死んでも諦められなさそう!」
「...そんな明るく言ったてなぁ、魔王なんていないし、そもそも世界はそんなファンタジーでもないんだぞ」
「そんなこと言ったてなぁ、かなわなくても夢くらいみてもいいだろ?」
「いや、ダメだとは言わないけどさぁ。」
「ならこれ以上何も言うな! もしかしたら異世界に勇者として呼ばれるかもしれないだろ!」
「...ま、お前がいいならいいけどさ、将来のことも考えないとダメだろ?」
_____わかっている。勇者になりたいだなんて、今どきの子供でも考えなさそうな事が、実現できないだろうということは。
俺だってガキじゃない。この胸を焦がす想いが、一生叶わない夢、なんてことは。
だが。わかっていても。この想いは消せないユメだ。俺は、叶わない夢を持つ愚か者としてこれからも生きていくのだろう。
「たしかになー。最近親からもいい加減将来のことも考えな! って言われてるし」
もし働くにしても、人を助けられるような仕事がしたい。
警察官でも、消防士でも。
なにかひとの役に立つような__そんな仕事をしたい
妥協だとしても、勇者になりたいだなんて思ったからには、人助けをしたい。
「お前のことだし、警官とかにでもなりたいなー、とか思ってんだろ?」
「まあそうだな! 勇者にはなれなくても人助けならできるし!」
「そう思ってんならボランティアばっか参加してないで、ちゃんと勉強でもしたらどうだ?」
「オッシャルトオリデス」
「片言になってるぞ~、ったく、勉強苦手なのも一生変わらなさそうだな、お前は」
「返す言葉もない...勉強苦手だからよー、集中が続かないんだわ」
「はぁ、今度の休みは勉強会決定だな、少しでもお前の学力を伸ばしてやる」
「いつもすまん! よろしく頼むわ!」
「調子のいいやつだな、ほんと...」
こんなやり取りをしながら、いつも通りの日々を送っていた。
青春の一ページ。他愛のない日常。
だが__そんな日常は、もう来ることはなかった
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「きゃあぁぁぁぁ!」
いつものように二人で喋りながら帰っていると、前のほうから悲鳴が聞こえた。
「一体何が...?」
身を乗り出して悲鳴の上がった方を見る。
「あれは...」
視線の先に映ったのは__
男だった。もちろん魔物だとか、化け物だったりが存在するわけではないので、そんなのは当たり前だ。
ただ、一つ上げるとすれば。
異常だった。
奇声を上げ、何かを振り回していた。
棒だ。けれど、ただの棒ではない。
振り回している時に光が反射した。
「ッツ... 」
自分の背筋が凍ったのが分かった。
あの男が握っているのは、刃物。
それも、かなり大きい。サバイバルナイフだろうか、なんであんなものを
と、驚きのあまり、一周回って冷静に思考を巡らせていると。
その男が血走った目でこちらを見ていた。
(まずい! 目が合った! こっちに来る...!)
「おい! 逃げるぞ!」
となりで呆けている親友の手を掴んで走り出す。
それと同時にあの男がこちらに走り寄って来ていた。
走る。恐怖と困惑を必死に抑えながら。
手を取ってるこいつは、まだ事態を呑み込めていないらしい。
「な、何が起こってんの?」
「見ればわかるだろ! 通り魔だ! さっさと逃げるぞ!」
そんなやり取りをしているともう近くまで男が来ていた。
距離を取ろうと慌てて走り出す。
そんな時。視界の端に親子が見えた。
お母さんと出かけていたのだろう。小さい女の子と、その子をかばうように覆いかぶさっているお母さんの姿が。
逡巡
あの親子を見捨てて逃げるのか。
手を取って一緒に逃げるか。
だが、そんなことを考えていたのがまずかったのか。
眼前に男がいた。
体が固まった。
ここで死ぬのかと思った。そして俺たちの次には、あの親子も殺されるのか。と
俺は、人助けがしたい。勇者になりたいなんて言い張っているくせに、いざとなったら動けない。言葉だけだったと、思いあがっていただけなのだと。
そんな時に、手を振り払って、あいつは男に向かって走って行った。
普段から人助けをしたいと、勇者になりたいと話している俺よりもあいつには行動力が。何より俺よりも勇気があった。
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そのあとの事は、思い出したくもない。
あいつは別に運動ができるだとか、格闘技だとを収めていたわけでもない。
奇跡なんて起きなくて、あいつは刺されて息を引き取った。
ただあいつが動いたことは無意味ではなくて。
男からナイフを奪ったことで、あいつ以外に死傷者はいなかった。
そしてあいつは、新聞やニュースなどで、自身の命を犠牲に人々を救った勇者となった。
そして俺は_____
なにもできなかった、臆病者になった。