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セリアの心中



side:【セリア】



(こんな幸せでいいのかしら……!! どうしよう……。好きすぎるんですけどッ!! 逃亡生活最高ッ!!)


 森の中、私が通りやすいように草木を踏み締めて道を作ってくれるご主人様の後ろ姿を見つめながら、高鳴る胸を必死に抑える。(※ギルベルトはう○こがないか確かめながら進んでいるだけ)


「とにかく、街道に出て服や食事をどうにかしないと……」


「そうですね。動物がいれば狩りをしてご主人様にちゃんとした食事を提供出来るのですが……。もう少し森の深くまで足を運びますか?」


「あんまり奥に入ると、確実に迷う! 俺には確信がある! お前もわかってるだろ?」


 そう言ってご主人様は私に視線を向ける。


「そうですね……」


 ご主人様は『不幸体質』だと自分で思われているが、そんな事はない。


 ご主人様が望まない事が目の前に現れるだけで、それを華麗に対処する事で、ご主人様の地位や権威は高まるばかり。結果的に見れば世間的には『幸福』への道を突き進んでいる。


 学園に入学するまでに、違法の闇ギルドの殲滅や、違法薬物の摘発、頻繁に攫われるご主人様が潰した奴隷商の数は片手では収まらない。


 いくつものトラブルに巻き込まれ、結果的にはより良い成果をあげ続けていたのだ。入学してからは学園内での成績は常にトップで、剣の腕は王国騎士団との模擬戦で団長を一蹴したほどだ。


 もし、森に迷ったとしても、歴史的な発見や困窮する部族などと出会い、華麗に救出する事になるだけだろう。


―――セリア。無事か?! もう俺のそばを離れるな、このポンコツメイド……。


 ふと、私が人攫いに連れ去られた時の記憶が顔を出す。ひどい孤独と恐怖の中で、泣いていた幼い私の頭を撫でながら、優しく抱きしめてくれた時の光景だ。


(……ご主人様)

 

 心の中で呟きながら、この状況が幸せすぎて目眩がする。先程は、かなり恥ずかしい顔を見せてしまったけど、この『旅』でご主人様に『女』として見てもらえるようになりたい。


「まずは着替えだな……。いや、逃亡資金か……」


「……はい」

(好きです。ご主人様!)


「冒険者になればいいか。薬草や魔物を取ってくればいいんだろ? 街に入るのは、少し面倒か? 憲兵に話が行ってる可能性もあるしな……」


「そうですね。街道に出て商人の護衛はどうでしょう? そうすれば荷馬車に隠れて街に入れるかもしれません」


 ご主人様はバッと私に視線を向け手を握ってくれた。


(あ、あぁ。ご主人様! ご主人様の手が!!)


「それだ! よくやったぞ、セリア! 上手く行けば飯にもありつける!」


「……いえ」

(あぁああ!! 温かいッ! ご主人様の手が私の手をッ!! 好きです! 心からお慕いしてます、ご主人様!!)


「セリアのメイド服は目立ちすぎるからどこかで着替えないとな」


「……申し訳ありません。それは出来ません」


 メイド服に初めて裾を通した時のご主人様の言葉を忘れる事は一生ない。


―――セリアはメイド服がよく似合うな。


 ご主人様の屈託のない笑顔を向けられた時、私は一生メイド服しか着ないと決意した瞬間だったのだ。


「はぁ〜……。セリア、捕まったら斬首になるんだぞ? 本当にわかってるのか?」


「……なりません。ご主人様を捕まえる事なんて誰にも出来ませんので……」(ご主人様は完璧なのです! 万が一、そのような事になったら、すぐにあの世でもどこでもお供致します!!)


「本当に俺はそんなに優秀じゃないんだよ! いつもギリギリなんだ!」


「ご主人様より優秀な人など誰1人として存在しません。セリアは誰よりも近くでご主人様を見ておりますので間違いありません」


「……無表情で信頼を語らないでくれ」


 ご主人様はそう呟くと深く息を吐いた。


「……申し訳ありません」

(ごめんなさい! 気合いを入れないと、ずっとニヤニヤして気持ち悪い顔になりそうなんです!! ご主人様にそんな顔を見せたくないのですよ!!)


 私が心の中で本音を吐露していると、頭にポンッとご主人様の手の温もりが降ってきた。


「まあ、セリアらしいがな……」


 優しい微笑みと綺麗な黒い瞳にバクバクッと心臓が慌ただしくなってくる。


「……申し訳ございません」


 本当は今すぐにでも飛びついて、私がどれだけ慕っているのかをお伝えしたいけど、私はただのメイド。本来、この気持ちは秘匿しなければならないのだ。


(でも……1度だけでもいいので、キスして欲しい)


 そのためにあの手この手で、ご主人様にアピールしている。自分からする事なんて許されるはずがない。ご主人様をその気にさせて、1度だけでも……。


 ご主人様は「ふっ」と小さく笑うと、また森を進み始めた。


「はぁ〜……、俺はゆっくりのんびり暮らしたいだけなのに、なんでいつも『こう』なるんだか……。いい加減にしろよ。ったく……、本当に、……」


 ご主人様が独り言のように『世界』を嘆いている声を聞きながら、未だ鳴り止まない心臓を落ち着けるように息を飲む。


「ご主人様。この先の水辺で一緒に水浴びをしましょう」(ですから、ふとした瞬間に私の全てを奪って下さい!)


「……バ、バカか! 街道に出るぞ!」


 少し赤く染まったご主人様の耳を見つめながら、『その時』を待ち侘びる。


 私はメイド失格のポンコツメイド。


 ご主人様からの愛が欲しくて仕方がない。







〜作者からの大切なお願い〜


「面白い!」

「次、どうなる?」

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