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『に、に、逃げる!!』



―――帝都「グランベル」 城内広間


 会談を終えて7日。


 以前、『白髪の悪魔』の所在は掴めず、同盟国の騎士団は解散に至ったと耳にした。


 俺はというと、帝国を救った英雄として称賛され、帝国内外の王族達……、世界の王達が集められた式典で、兄様がまとめてくれた結果を皇帝陛下に伝えた所だ。


 エリア達は、ひとまず魔王城に帰らせ、ジュラとガルには景色の良いところを探しておくように指示した。


 ディナ姉は「私は"すべき事"を見つけた」などと意味深な発言を残して調査兵団の元に帰り、兄様は「皇帝から、婚約の打診を受けてな……」と苦笑しながら、一足先にカーティス領に帰ってしまった。


 同席しているのは姉様とセリア。


 姉様はニヤリと含みのある笑みを浮かべ、セリアは無表情で俺だけを見つめている。


 俺は気を抜いていたんだ。


 「理想郷の実現」を目前に控え、かなり機嫌が良かった。この後に起こる事なんて何も知らずに……。





「……なので、ドワーフ族の者達に、私の家を建てて頂きたいのですが?」


 皇帝は会談の結果に大きく目を見開き、しばらく黙り込むと、ジワァッと瞳を潤ませた。


「……なんと、聡明な者だ。この世界の調和のために……、その身を粉にし『魔王を監視する事』で、この世界を"安寧"に導いたのか……」


「……? 全ては、私の兄、イルベールの手腕により導かれた物であります」

(なんか聞いてた話と、だいぶ違うよな、皇帝……)


「で、あるか……。よい。ワシにはわかっておる……」


「……?」

(あれ? 何かデジャブ?)


「ここ数日、魔王が城を訪れてからという物……、『なぜ勇者は魔王を討たなかったのか?』とずっと疑問に思っていたのじゃ」


「……はい?」


「其方の圧倒的な武力を目の当たりにし、それは容易に叶うはずの物であった」


「い、いえ、私は、」


「なるほど。わざと生かす事で『こんな利』があったのじゃな……」


「……」

(な、何、言ってんだ? このおっさん)



 皇帝は立ち上がると声を高らかに宣言した。



「……この勇者は、どこの国にも属さぬ事を選択したのじゃ! 勇者は既に、我々の"はるか先"を見据えておった! 魔王という脅威が去り、『仮初かりそめの安息の地』となる事を嫌ったのじゃ!」



 ざわざわとする広間。

 俺はマジで意味がわからず、ポカーンと口を開けたまま皇帝を見つめた。



「オラリアが誇る勇者から『人類が誇る勇者』に……」


 皇帝は跪いている俺の元にトコトコと歩いてくるが、演説をやめる気は一切ないようだ。


「……世界が『勇者争奪』の大戦に発展する事を危惧したのであろう?」


「……」

(はっ? な、何言ってんだ、マジで!!)


「……この聡明なる勇者は、魔王を生かし、それを監視する事を決めた。いつでも対処できる魔王を生かす事で、『自分の役目は果たされていない』状況を生み出した。

 つまり……、どこの国にも属さぬ状況を生み出し、世界大戦を回避……、『世界の監視者』として、この世に君臨する事を決めたのじゃ!!」



 皇帝は高らかに演説していたが、唖然とする俺と目が合い、勝手にハッとした様子で言葉を続ける。



「勇者よ……。其方1人に責任を押し付ける事は出来ぬ……。『監視者』として、世界を導く、その一翼を担いたいのだ!! "ユリウス"!!」


「ちょ、ちょっと、皇帝へい、」

(なに勝手に暴走してるんだよ!? おっさん!!)


「ハッ!!」


 皇帝の『影』から現れたのは紫色の髪と瞳の美男子。


「"シャドウ"から精鋭を選出し、勇者の手足となって身を粉にするのだ」


「……」

(帝国が帝国たらしめる諜報機関の『シャドウ』なのか……?)


「有り難き幸せです。勇者様……、いえ、私が真にお使えすべき『マスター』……、私は"ユリウス・グレイス"にございます」


「…………」

(い、要らねぇええ!!!!)


「各国の王達よ! 帝国からの精鋭では不信感を抱く者もいるであろう? 其方らも、勇者に献上すべき優秀な者を……、『永世中立国』を建国するであろう、勇者の礎を我らが担い、勇者の負担を少しでも軽減するのだ!!」


「……」

(や、やってられるか! クソがぁああ!!)



 俺の心の中での絶叫と共に全身から冷や汗を吹き出させると、


 

「うっ……うぅ……。た、確かに、『勇者争奪大戦』は避けられぬと思っておったのだが、まさか『魔王を監視する』という大義を得るために生かしておいたとは……! 流石は……、流石は……」



 俺を"勇者"に仕立てあげやがったオラリア王国の国王"クライン"は、涙を浮かべながら唇を噛み締めた。


「展開しておいた軍は引かねばならぬな……。絶対に其方を手放す気はなかったのだが……、ワシは耄碌もうろくしていたようだ。

 其方の英断により、目が覚めた! 其方が築いた『安息の地』を"戦地"に変えてしまうような愚行をしてしまうところであった!! 心から謝罪致す!!」


 クラインは跪き、俺に頭を下げると、一瞬の沈黙の後に盛大な拍手が鳴り響いた。


「我がサウス王国は、勇者様の決断を支持する!」

「ノース王国も勇者様の決断を支持致します!」

「我がローデン王国も、勇者を支持する!」


〜〜〜


 その場に出席した16の王国と、10の王国を束ねる世界最大の帝国。


 この世界の王達は、俺を支持した。



「……」

(なんで、いつも『こう』なる!!??)



 俺が国主だと……?

 ふざけるな! するわけねえだろ!!


 どこで間違えた?

 エリアを屠っておけばよかったのか?


 いやいや、それで『勇者争奪大戦』?

 民を狩り出し、大戦を始める気だったのか、コイツら……。


 クソみたいな『世界』で、無能の集まりの王共だな! おい!!


 俺のスローライフ……。理想郷……。


 コイツらの勘違いは留まる事を知らない。

 そして俺の『不幸』も留まる事を知らない。



「私は、私は……!! そんな物、一切望んでおりません!!」



シィーン……



 静まりかえる広間。

 口を開いたのは……、やはり『俺の天敵』。



「……もしや、魔王など、取るに足らない……、『更なる脅威』がこの世界に生まれておるのか……?」



 オラリア王国の国王"クライン"。


 コイツ、もうぶん殴ってやろうか?



「……な、なんと……、魔王すらも従え、新たなる脅威に挑まんと……、『人魔連合国』を……? また人類を救わんと……、くぅっぅ……"真なる勇者"よ……其方は人類の希望だ……」


(『くぅっぅ』じゃねぇ! クソが!!)


 皇帝もついに泣き出し、それに釣られるようにその場の王達もズズッ……と鼻を鳴らす。


 コイツらも、もうぶん殴ってやろうか?


 ふざけ倒しやがって……。

 絶対にそんな事しないからなッ!!


 俺はクルリと振り返る。

 もうする事は決まっている。


 俺の選択は『逃亡一択』。

 隠居生活を手に入れ、世界から『消える』。


 民がいなければ国にならない。

 消えてしまえば民が集まる事はない。


 つまり、早急にユノの『幻術』で隠してしまえば、国が興りようがない。



「セ、セリア! カーティスに帰るぞ! 姉様、後頼みます……」


「はい、ご主人様」


 セリアの返事を確認し、即座に『身体強化』を発動させると、一瞬でセリアをグイッと引き寄せる。


「……えっ、ちょ、ギ、ギル!?」


 慌てた様子の姉様。


「ま、待たれよ! 勇者! まだ其方への褒賞を、」

「待って下され! 勇者殿!」

「こ、これからについてのお話を!」


 慌てふためく国王や皇帝達を「ふんっ……」と鼻で笑い、セリアの細い腰をズイッと引き寄せ、合図する。



「……フ、《閃光フラッシュ》……」




ピカァア……



 真っ白の世界で一際目立つセリアの赤く染まった頬が映える。言いようのない心拍数に、先程の『不幸』など消え去ってしまったような感覚に包まれる。


「……セリア。ど、どこかに寄り道してから帰るか?」


 俺の言葉に耳まで赤くなったセリア。

 俺の顔もセリアに負けずに赤くなっている……ような気がする……。


「はい、ご主人様……。セリアをめちゃくちゃにして下さい……」


 真っ白の世界の行方は、セリアに任せた。

 赤く染まるセリアの唇に1つキスを落とした。



 



〜作者からの大切なお願い〜


 少しでも面白いと思って下さった優しい読者様。創作と更新の励みになりますので、【ブックマーク】をポチッと……。


 下の所にある、


 【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】


 にしてくれたら、最高です!!


 また、この作品を【ブックマーク】して頂いている方、わざわざ評価して頂いてた方、本当にありがとうございます! とっても励みになっておりますので、今後ともよろしくお願い致します!



 これにて2章完結です!!

 ここまで読んで下さった皆様、心から感謝です!!


 あと【SS】が2話あります。

 もちろん、セリアとの……。

 最後までよろしくです。



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― 新着の感想 ―
[一言] …やっとセリアと結ばれるのか… 世界の監視者はスローライフには良さげだがなぁ…(笑)
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