『に、に、逃げる!!』
―――帝都「グランベル」 城内広間
会談を終えて7日。
以前、『白髪の悪魔』の所在は掴めず、同盟国の騎士団は解散に至ったと耳にした。
俺はというと、帝国を救った英雄として称賛され、帝国内外の王族達……、世界の王達が集められた式典で、兄様がまとめてくれた結果を皇帝陛下に伝えた所だ。
エリア達は、ひとまず魔王城に帰らせ、ジュラとガルには景色の良いところを探しておくように指示した。
ディナ姉は「私は"すべき事"を見つけた」などと意味深な発言を残して調査兵団の元に帰り、兄様は「皇帝から、婚約の打診を受けてな……」と苦笑しながら、一足先にカーティス領に帰ってしまった。
同席しているのは姉様とセリア。
姉様はニヤリと含みのある笑みを浮かべ、セリアは無表情で俺だけを見つめている。
俺は気を抜いていたんだ。
「理想郷の実現」を目前に控え、かなり機嫌が良かった。この後に起こる事なんて何も知らずに……。
◇
「……なので、ドワーフ族の者達に、私の家を建てて頂きたいのですが?」
皇帝は会談の結果に大きく目を見開き、しばらく黙り込むと、ジワァッと瞳を潤ませた。
「……なんと、聡明な者だ。この世界の調和のために……、その身を粉にし『魔王を監視する事』で、この世界を"安寧"に導いたのか……」
「……? 全ては、私の兄、イルベールの手腕により導かれた物であります」
(なんか聞いてた話と、だいぶ違うよな、皇帝……)
「で、あるか……。よい。ワシにはわかっておる……」
「……?」
(あれ? 何かデジャブ?)
「ここ数日、魔王が城を訪れてからという物……、『なぜ勇者は魔王を討たなかったのか?』とずっと疑問に思っていたのじゃ」
「……はい?」
「其方の圧倒的な武力を目の当たりにし、それは容易に叶うはずの物であった」
「い、いえ、私は、」
「なるほど。わざと生かす事で『こんな利』があったのじゃな……」
「……」
(な、何、言ってんだ? このおっさん)
皇帝は立ち上がると声を高らかに宣言した。
「……この勇者は、どこの国にも属さぬ事を選択したのじゃ! 勇者は既に、我々の"はるか先"を見据えておった! 魔王という脅威が去り、『仮初の安息の地』となる事を嫌ったのじゃ!」
ざわざわとする広間。
俺はマジで意味がわからず、ポカーンと口を開けたまま皇帝を見つめた。
「オラリアが誇る勇者から『人類が誇る勇者』に……」
皇帝は跪いている俺の元にトコトコと歩いてくるが、演説をやめる気は一切ないようだ。
「……世界が『勇者争奪』の大戦に発展する事を危惧したのであろう?」
「……」
(はっ? な、何言ってんだ、マジで!!)
「……この聡明なる勇者は、魔王を生かし、それを監視する事を決めた。いつでも対処できる魔王を生かす事で、『自分の役目は果たされていない』状況を生み出した。
つまり……、どこの国にも属さぬ状況を生み出し、世界大戦を回避……、『世界の監視者』として、この世に君臨する事を決めたのじゃ!!」
皇帝は高らかに演説していたが、唖然とする俺と目が合い、勝手にハッとした様子で言葉を続ける。
「勇者よ……。其方1人に責任を押し付ける事は出来ぬ……。『監視者』として、世界を導く、その一翼を担いたいのだ!! "ユリウス"!!」
「ちょ、ちょっと、皇帝へい、」
(なに勝手に暴走してるんだよ!? おっさん!!)
「ハッ!!」
皇帝の『影』から現れたのは紫色の髪と瞳の美男子。
「"シャドウ"から精鋭を選出し、勇者の手足となって身を粉にするのだ」
「……」
(帝国が帝国たらしめる諜報機関の『シャドウ』なのか……?)
「有り難き幸せです。勇者様……、いえ、私が真にお使えすべき『マスター』……、私は"ユリウス・グレイス"にございます」
「…………」
(い、要らねぇええ!!!!)
「各国の王達よ! 帝国からの精鋭では不信感を抱く者もいるであろう? 其方らも、勇者に献上すべき優秀な者を……、『永世中立国』を建国するであろう、勇者の礎を我らが担い、勇者の負担を少しでも軽減するのだ!!」
「……」
(や、やってられるか! クソがぁああ!!)
俺の心の中での絶叫と共に全身から冷や汗を吹き出させると、
「うっ……うぅ……。た、確かに、『勇者争奪大戦』は避けられぬと思っておったのだが、まさか『魔王を監視する』という大義を得るために生かしておいたとは……! 流石は……、流石は……」
俺を"勇者"に仕立てあげやがったオラリア王国の国王"クライン"は、涙を浮かべながら唇を噛み締めた。
「展開しておいた軍は引かねばならぬな……。絶対に其方を手放す気はなかったのだが……、ワシは耄碌していたようだ。
其方の英断により、目が覚めた! 其方が築いた『安息の地』を"戦地"に変えてしまうような愚行をしてしまうところであった!! 心から謝罪致す!!」
クラインは跪き、俺に頭を下げると、一瞬の沈黙の後に盛大な拍手が鳴り響いた。
「我がサウス王国は、勇者様の決断を支持する!」
「ノース王国も勇者様の決断を支持致します!」
「我がローデン王国も、勇者を支持する!」
〜〜〜
その場に出席した16の王国と、10の王国を束ねる世界最大の帝国。
この世界の王達は、俺を支持した。
「……」
(なんで、いつも『こう』なる!!??)
俺が国主だと……?
ふざけるな! するわけねえだろ!!
どこで間違えた?
エリアを屠っておけばよかったのか?
いやいや、それで『勇者争奪大戦』?
民を狩り出し、大戦を始める気だったのか、コイツら……。
クソみたいな『世界』で、無能の集まりの王共だな! おい!!
俺のスローライフ……。理想郷……。
コイツらの勘違いは留まる事を知らない。
そして俺の『不幸』も留まる事を知らない。
「私は、私は……!! そんな物、一切望んでおりません!!」
シィーン……
静まりかえる広間。
口を開いたのは……、やはり『俺の天敵』。
「……もしや、魔王など、取るに足らない……、『更なる脅威』がこの世界に生まれておるのか……?」
オラリア王国の国王"クライン"。
コイツ、もうぶん殴ってやろうか?
「……な、なんと……、魔王すらも従え、新たなる脅威に挑まんと……、『人魔連合国』を……? また人類を救わんと……、くぅっぅ……"真なる勇者"よ……其方は人類の希望だ……」
(『くぅっぅ』じゃねぇ! クソが!!)
皇帝もついに泣き出し、それに釣られるようにその場の王達もズズッ……と鼻を鳴らす。
コイツらも、もうぶん殴ってやろうか?
ふざけ倒しやがって……。
絶対にそんな事しないからなッ!!
俺はクルリと振り返る。
もうする事は決まっている。
俺の選択は『逃亡一択』。
隠居生活を手に入れ、世界から『消える』。
民がいなければ国にならない。
消えてしまえば民が集まる事はない。
つまり、早急にユノの『幻術』で隠してしまえば、国が興りようがない。
「セ、セリア! カーティスに帰るぞ! 姉様、後頼みます……」
「はい、ご主人様」
セリアの返事を確認し、即座に『身体強化』を発動させると、一瞬でセリアをグイッと引き寄せる。
「……えっ、ちょ、ギ、ギル!?」
慌てた様子の姉様。
「ま、待たれよ! 勇者! まだ其方への褒賞を、」
「待って下され! 勇者殿!」
「こ、これからについてのお話を!」
慌てふためく国王や皇帝達を「ふんっ……」と鼻で笑い、セリアの細い腰をズイッと引き寄せ、合図する。
「……フ、《閃光》……」
ピカァア……
真っ白の世界で一際目立つセリアの赤く染まった頬が映える。言いようのない心拍数に、先程の『不幸』など消え去ってしまったような感覚に包まれる。
「……セリア。ど、どこかに寄り道してから帰るか?」
俺の言葉に耳まで赤くなったセリア。
俺の顔もセリアに負けずに赤くなっている……ような気がする……。
「はい、ご主人様……。セリアをめちゃくちゃにして下さい……」
真っ白の世界の行方は、セリアに任せた。
赤く染まるセリアの唇に1つキスを落とした。
〜作者からの大切なお願い〜
少しでも面白いと思って下さった優しい読者様。創作と更新の励みになりますので、【ブックマーク】をポチッと……。
下の所にある、
【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】
にしてくれたら、最高です!!
また、この作品を【ブックマーク】して頂いている方、わざわざ評価して頂いてた方、本当にありがとうございます! とっても励みになっておりますので、今後ともよろしくお願い致します!
これにて2章完結です!!
ここまで読んで下さった皆様、心から感謝です!!
あと【SS】が2話あります。
もちろん、セリアとの……。
最後までよろしくです。