『勇魔会談』
―――帝都「グランベル」 巨城の一室
セリアが作ったとされる豪華な料理が立ち並ぶテーブルは、まさに地獄絵図だ。
魔王エリアを筆頭とする5人の魔人と、カーティス家の"身内"……、リリム、イルベール、ディナ、そしてギルベルトが一つのテーブルを囲っているのだ。
グリとグラはイルベールの後ろに立ち、セリアはギルベルトの後ろに控えている。
「ハハッ……この少女が魔王……とはな……」
顔を引き攣らせるのはイルベール。
「兄様、俺が隠居生活を送るために知恵をお貸しください……」
疲弊し切った弟の姿に、イルベールは更に顔を引き攣らせた。
兄が帝都に来ている事を知ったギルベルトの思考放棄は、【閃光】よりも早かった。
(……も、もう、兄様に任せればいい!)
目の前で繰り広げられる修羅場。
『あんたギルベルトの何なのさ』論争の勃発。
「あたし、お嫁さん!」と発言したエリア。リリムの鬼の形相は、ギルベルトにとって、この世界の何よりも恐ろしかった。
早々に、心がバッキバキに折れたギルベルトは、絶大の信頼を置くイルベールを頼る事を決意したのだ。
つまり……、全力で丸投げしたのである。
「はい、ギル様。あーん……」
ちゃっかりとギルベルトの隣に座るのは吸血王であるミモザ。
「ウチはぁ、ギル様の下僕にして貰うのぉ」と言い放った彼女の視線は常にギルベルトの首筋に向いており、吸血の許しが出るタイミングを今か、今かと待ち侘びている。
「ミモザ! それは"親友"のあたしの役目なんだぞ!!」
ギルベルトの膝の上に跨がり、至近距離でニコニコと嬉しそうな笑みを浮かべるのは魔王、エリア。
つい先程、
――う、嘘つけ!! そ、そもそも、『契約』なんてよくわからん物を出来るか! 俺はお前の事を何も知らないんだからなッ!
リリムの形相に冷や汗をかいたギルベルトの言葉に、エリアはペタリと座り込み号泣。
見かねたジュラの「ギル様、せめて友にしてやっては頂けませんか?」の発言を受け、「……親友から愛を育むんだね!! 素敵!」などと、ギルベルトの了承もなく泣き止んだエリア。
対照的に涙を浮かべたギルベルトはセリアの胸に顔を埋めて泣きついた。
「セリア。兄様のとこに連れてって……」
「……承知致しました。ご主人様」
ギルベルトには見えないセリアの表情はとても美しい笑みを浮かべており、その場の誰もが押し黙り、ゴクリと息を飲んだ。
そして、滝のように冷や汗を流す皇帝に簡略的な挨拶を終え、この状況は生み出されたのだが……、
「ふざけるじゃないわよ! あんた達!」
「うるさい! リリム・カーティス! あたしはギルベルト様の親友となり、ゆっくり愛を育んで、」
「ギルに命を助けて貰ったんだから、さっさと魔王城に帰りなさいよ!」
「あたしは『運命の人』を見つけたんだ! もう絶対、離れない!!」
「エリ、"姐さん"も! 少し落ち着けよ! ギル様の話しをしっかりと聞こうぜ?」
「うるさい! ジュラ! ギルベルト様に少し認めて貰ったからって、いい気になって!!」
「はぁ? ギル様の了承以上に、この場で大切な事なんてねぇんだよ! ギル様の決定に異論があるのか? ……表でろ、エリ! ぶっ殺してやる!」
「ジュラ……、お前まで激昂してどうする? 申し訳ありません、ギル様」
「おい、そこの"白黒"!! ギルに話しかけるな! 私は認めないからな!」
「……ギル様の姉だからと調子に乗るなよ、リリム・カーティス」
「はい。ギル様……あーん……」
ガタッ!!
話し合いなど出来ない状況にギルベルトの怒りは頂点に達した。
「いい加減にしろ、エリア! 姉様も! 俺は兄様とゆっくり話したいんだ! もう発言は挙手制にする! 意見がある者は手を上げて、指名を受けてからにしろ」
シィーン……バッバッバッ!!
一瞬の沈黙の後に手を挙げたのは、ルシフェルとイルベールの護衛であるグリとグラを除いた全員。
「……ん? ……はい、セリア!!」
「ご主人様、皆様、お食事、またはお飲み物の追加はいかがでしょうか?」
「……俺は、このパスタのヤツ、追加で。他におかわり欲しい人は?」(そ、それ、今か……?)
ババッ!!
(全員かよ!!)
ギルベルトは心の中でツッコミながら、ルシフェルの恥じらいながらの挙手に萌えた。
「承知致しました」
セリアは手際よく作業に取りかかったのを見つめながら、ギルベルトはイルベールに視線を向け、コクリと頷き席に着いた。
イルベールは弟からの丸投げに「ハハッ……」と苦笑しながらも、スッと立ち上がり口を開いた。
「では、意見や要望がある者は挙手を……」
イルベールがいい終わる前に、一切の曇りのない瞳でバッと手を上げた男が1人。
「じゃあ、ギル」
「とにかく、俺は平穏に暮らしたいのです。『不幸体質』への対策を見つけたのですよ、兄様! ひっそりとした景色のいい場所に、豪邸を建て、ユノの『幻術』で秘匿し、ジュラとガルに守らせます!」
バッバッバッバッバッ!!!!
ギルベルトの発言し終えると、尋常ではないスピードで一斉に挙げられた手。ギルベルトはそんな物には一切見向きもせずに、コクリとイルベールに頷いた。
(お願いします! 兄様! 上手くまとめて下さい!! 兄様にしか出来ないのです! このイカれた者達をまとめるなんて!!)
イルベールはギルベルトの懇願の眼差しにふぅ〜っと小さく息を吐くと、「ふっ」と誇らしそうに微笑み、次々と意見や要望を聞き、取りまとめ始めた。
〜〜〜〜〜
「では、ギルの邸宅は"魔領"と"人間領"の境に建て、世界には『魔王の監視を行っている』という大義名分を置く。
魔王エリアと、その配下の魔物達は人間領に入る事を禁じ、その統括をジュラ、ガル、ミモザの3名が行い、エリアには"魔領内……、ギルの邸宅から100メートルの位置に住居を持つ事"を許す代わりに、ギルの家族はもちろん、"人間に危害を加える事"を禁じる。
なお、エリアの『契約』は姉様と交わし、ギルにとって、絶大な効果を発揮する"人質"となって貰うことにする。
とりあえず、これで異論はないな?」
イルベールの交渉術と適切な判断力により、導かれた結論にギルベルトは歓喜する。
エリアの件はギリギリの範囲内で手を打ち、たまに機嫌をとれば済むだろうと、これを了承。『俺の邸宅に入る際も許可が必要』という条件も付け加え、ほくそ笑んだ。
世界からの隔絶により、これ以上の『不幸』は起こらない。ギルベルトは(完璧な結末を手に入れた!!)と頬を緩めた。
この時のギルベルトは本当に『幸福』だった。
しかし……、
後に『勇魔会談』と呼ばれる歴史に残る話し合いは、世界に激震を与える事となり、自分にとって、まさに地獄そのものの結果を生む事となるなど、ギルベルトはまだ知らなかった。
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