〜帝都へ〜
―――帝都「グランベル」 城内広間
バタンッ!!
広間の扉が開くと同時に現れた人物にリリムは大きく首を傾げた。
「リリ!! ……よかった。本当に……」
「……やはり無事でしたか、姉様。……ギルはどこです?」
帝国の居城に現れたのは、ディナとイルベール、そしてイルベールの護衛であるグリとグラの4人。
皇帝から皇女殿下の婚約打診を聞かされていたリリムは、2人の登場に、
「ディ、イル……。あんた達……何してんの?」
リリムには珍しく、全く理解出来ず苦笑した。
◇
『白髪の悪魔』が消息を絶つと同時刻。
ノース王国の王都"ノベリア"にて合流したディナとイルベール。ディナからの帝国侵攻を聞いたイルベールの決断は凄まじく早かった。
――ギルが"そっち"に行ったなら、『白髪』はもうノベリアには来ません! ギルに限って心配はありませんが、俺は無事を確認しに行きます!
叫ぶと同時に、一切無駄のない動きで、どこからどう見ても、ノース王国の正規兵にしか見えない男を路地裏に連れ込み、
――転移魔道具を出せ。貴様は帝国の諜報員だろ?
そう問いかけた。
赤い髪と青い髪の子供は両手の『双刃』を、その男の首にピタリと止め、男は冷や汗を流す。イルベールの有無を言わせぬ圧力は、おおよそ伯爵家に収まる器ではない事を実感させた。
(流石……、リリの弟にして、ギル君の兄ね……)
ディナは一連の動きに感嘆し、イルベールと同行する事が出来るかを超速で思考した。
ノベリアの守護のために敷かれた布陣と、その戦力は想像していた3倍程度の武力。隠居した英雄王率いるノース兵、同盟4国からの騎士団派遣に、調査兵団の精鋭部隊。
万が一、『白髪の悪魔』が来ても何も問題ない。
つまり、ノースに留まる理由はない。
正直、ディナの頭にはギルベルトの顔しか浮かんでおらず、ノース王国に着き『すべき事』がないとわかると、帝国に向かう算段を立てていた。
ディナにはこれ以上の好機は無かった。
(私も行っちゃおう!! 待っててね、ギル君!!)
ディナは平静を装いながらも、初恋の相手を想った。
ディナは、帝国の諜報員が自害しようとするのを止めて転移魔道具を出すように伝えるイルベールの横から颯爽と現れ、口を開いた。
――私は調査兵団、団長、ディナ・ローレンス。私から、依頼しよう。帝国の危機に私共を向かわせるのが、貴様の仕事だ。
本来のディナ・ローレンスの顔は恐ろしく美しく、鋭い目元は歴戦の経験を醸し出した。
ディナには、この男が帝国の諜報機関"シャドウ"の人間かはわからなかったが、自分の権力を盾にすれば応じざる得ない事はわかっていた。
――か、か、確認させて頂きたい……。
諜報員はニガ虫を噛み潰したような顔で小さく呟き、通信用の魔道具を使用した途端に顔を青くさせ、即座に転移魔道具を取り出したのだった。
◇
「……皇帝陛下様。ご無事で何よりでございます。突然の来訪、心より謝罪させて頂きます。私はイルベール・カーティスと申します」
イルベールは広間に映し出されている映像をチラリと確認し、『人外の者達』と何やら話しをしているギルベルトを確認すると、即座に跪き頭を下げた。
「……そ、其方が、イルベール・カーティスか……?」
「……? はい。ご無礼を働いてしまい、心より謝罪致します。何卒、ご容赦頂ければ、」
「よ、よいよい!! 頭を上げられよ!」
「……?」
(……話に聞く皇帝は、圧倒的カリスマにして威厳に満ちた、冷静沈着な男だと聞いていたが……?)
「ちょうど良い。其方に話があったのだ!」
まるで、未だ滅亡の危機に瀕しているかのような皇帝にイルベールは無表情のまま思考を進め、内心とは裏腹ににこやかな笑顔を浮かべた。
「……なんなりとお申し付け下さい」
(ギルを『脅威』と判断したか……。さぁ、どの一手を打つ? 皇帝陛下……。ふざけた事を言うのであれば……)
「……我が娘を妻に取らぬか?」
「……は、はい?」
イルベールはななめ上の提案に顔を引き攣らせた。
※※※※※
ディナは映し出されている映像を見つめ、大きく目を見開いたまま固まった。
(こ、これ以上、ライバルは要らないよ!!)
目を引くのは、さらさらの純白の髪に作り物のように整った美貌を持つ女と、黒い羽を背中に携えた黒髪金眼の女。
(くっ……! な、なんてスタイル……! ギル君! 騙されちゃダメェエ!!)※ディナ、ご乱心。
自分が唯一、ミーシャに勝てる要素を詰め込んだ者たちの出現にディナは即座に駆け出そうとしたが……、
ガシッ……
腕を掴まれ、それを制止させられる。
「……"ディ"? ありがとう。『私を』心配して駆けつけてくれたの? ……もしかしてだけど、ギルが目当てなんて事無いわよね?」
「リリ、本当に無事でよかったわ。じゃあ、私は"勇者様"の加勢に向かわなくてはッ!!」
「ギルにそんな物が必要ないのは、ディもわかってるでしょう?」
「……なぜリリはここにいるのよ? あの者達がギル君に迫ってるのが見えないの!?」
「……!! ギ、ギルしか見えてなかったわ!!」
「……どう考えても私より、あの者たちの方が近づいちゃダメでしょ!?」
「ディもダメよ! 私が行ってくるから待ってて!!」
フワリと風を感じたディナは即座にリリムの手を取り力任せに引き寄せ、耳元で小さく呟く。
「……私達、親友でしょ!? ……わ、私……、ギル君じゃなきゃ"濡れない"のよ……」
「……ギ、ギルはあげない!! ディだけ『良いこと』するなんて許さない! 私だって!!」
スゥー……
風が視認出来るほどの操作を始めたリリムはパッとディナの手を払うと、広間の窓から飛び立とうとしたが、
ガシッ!!
今度はディナがその手を握る。
「……離さないからね! リリ!」
「ちょ、離しなさいよ、ディ!!」
「なんでミーシャ嬢はよくて、私はダメなのよ!?」
「ミーシャは昔からギルを思ってたし、私の妹だから!」
「ギル君を想う気持ちは負けてないと思うけど!? 四六時中、頭から離れないんだからッ!」
「そんなの私だってそうよ! っていうか、ギルを思う気持ちで私に勝てる女なんていないわ!」
「……!! じゃあ、なんで放置してたのよ! バカ!!」
「……うっ……! ギ、ギルに助けて貰って……、幸せすぎて……」
「……そ、その気持ちはわかるわ」
2人は上空で言い合いをしながらギルベルトの元へと向かった。
一方、飛び去って行く2人を目撃したのは、皇帝が用意した豪華な部屋の清掃にベッドメイク、もちろん、食事の準備を整え、自分の主が好きな紅茶を見つけ、全ての準備を整えたメイドだ。
(リリム様と……ディナ様……? お2人が行かれるなら、セリアもご主人様の元に行かなくては……)
「《閃光》……」
ピカァア……!!
眩い光が辺りを包んだのだった。
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