〜狙う者と堕ちた者〜
―――ノース王国 辺境都市「ロマ」
レイは込み上がる笑いを抑える事が出来なかった。
(本当に……、本当にチョロすぎる! なんてバカなんだ? なんて愚かなんだ? なんて楽しく踊ってくれるんだ……!?)
頭を抱えて跪いたロリドを見下ろしながら、憐れみ、ほくそ笑む。
「"全てを私に捧げ、見返りを求めるな"……。良い言葉のチョイスだよ。君にしては……」
契約内容の文字達はパラパラと崩れ、新たな文字列を作る。
"全てを捧げ、見返りを求めない者"。
"全てを奪い、導く者"
もちろん、全てを捧げたのはロリドであり、全てを奪い、ロリドを『奴隷』に堕としたのはレイ。
「こ、これは……何の冗談だ……? 貴様! 一体何をした!? ふざけるな! 私を、この神である私を……!! 絶対に許さないぞ!」
「『ご主人様』に向かってなんて口を聞くんだ? "言葉使いに気をつけるように"」
「貴様、ふざけ、」
モワァア……
レイはロリドの首元に"死神の大鎌"が現れた事に、更に口角を吊り上げた。
顔の見えない死を司る神。
「やぁ、"タナトス"。僕の『力』はどこにあるんだい?」
死神からの返答はなく、レイは小さく舌打ちをする。
「……なんなのだ……? 一体……、私の頭がもう既に壊れてしまって……、」
「君の頭はずぅーっと壊れてるじゃないか!」
「……なにを、」
「"人間の頃"から君は悪魔のような人だったね? 悪魔になってからは嬉々として命を弄び、恍惚とした顔で殺戮を愉しんでいた。
もう充分憂さ晴らしはしたでしょ? 今度は『本当の復讐』に力を使うんだよ……。安心して? "目的の人物"は同じだよ」
レイはニコニコと笑みを浮かべたまま言葉を紡いでいるが、ドス黒い圧力を放つ。
「……お、お前は一体……、何者なのだ?」
「『神』さ。……アハッ! 比喩じゃない。……本当に僕は神なんだよ? 君は僕が転生させてあげたんだ。"本当の力"を取り戻すために」
「……か、神……? レイが……?」
「『深淵を覗きな』よ……。もう、隠さないからさ」
レイの言葉にロリドは感覚を研ぎ澄ます。ロリドの意思で行ったのではなく、レイの言葉に身体が勝手にそれを選択したのだが……、
ブァアグォゴゴォオ!!!!
見えた物は、蠢く生き物のような黒炎の海。顕現した死神を飲み込み、どこまでも深く、どこまでも濃い、真っ黒の大海が広がっている。
「あ、あぁ……う、嘘だ、なんで……?」
「エリアなんて比べ物にならないでしょ? 本当はまだまだなんだけど、君のおかげで5割は戻った……」
「……」
「まだ頭痛はするのかい? "ロリド・ジャン・オラリア"……いや、"神の使徒 ロリド"……」
「……い、いえ……。もう……、大丈夫です……」
圧倒的な力の前にロリドは初めて心から屈した。それが『契約』による物なのか、心からの屈服なのかはわからないが、どこか心地よい。
目の前にいるのは『本物の神』。
(私は本物の神に選ばれた。『神の使徒』……、やはり、私は特別な存在だったのだ……!!)
ただそれだけで、ロリドは救われ、歓喜した。誰よりも自分を理解してくれる『神様』が目の前にいる事は、孤独から解放されたような気がしていたのだ。
「君は愚かで、憐れで、本当に救いようのないクズだよ……。でも、なんて愛らしくて可愛らしい。君は僕の"最初の手駒"だ」
「……うっ……うぅ」
「泣く事なんてないよ。君は僕の事だけ……、いや、"ギルベルト・カーティス"への憎悪と、僕への忠誠だけを持っていればいい」
「……あ、あの『下賤のクズ』を?」
「ああ……。『次は』……、『次こそは』、殺す。確実に、絶対に……!!」
レイの言葉と共に街の明かりは消え闇に包まれた。レイは、「おっと、いけない、いけない」などと呟きながら、魔力を抑えたが、ロリドは困惑しながらゴクリと息を飲む。
「あ、"あなた様"は……」
「僕は神……『アンラ・マンユ』」
「……"邪神"……様……?」
この世界に存在する『絶対』。
その絶対の悪として語られる存在が、アンラ・マンユであり、実在しているなんて誰1人として考えない。
(絶対の支配者……)
ロリドは感動に打ち震える。
目の前に『絶対』の存在が実存している事に……。
「さぁ、準備しよう。……悪神竜『アジダハ』を迎えに行こう。ロリド……君は悪魔達の王になる。しっかりと管理するんだよ?」
「……!! はい、"アンラ・マンユ様"!!」
「ふっ……『アン』でいい」
「アン様の使徒として、私は! 私はッ!」
「……3年だ。3年で力をすべて取り戻し、"アイツ"が覚醒する前に屠る」
「……?」
「ギルベルト・カーティス……。『神殺し(ゴッドスレイヤー)』の殲滅作戦の開始だ……」
「……!!??」
ロリドの間抜けな顔にレイはクスッと笑みを溢す。
レイこと、邪神アンラ・マンユ。
絶対悪の彼は『2度目』の決戦のために、ロリドを転生させた。誰よりもバカで、誰よりもギルベルトへの憎悪を持つ悪魔として。
不釣り合いな力を与え、手駒とした。誰よりもロリドの孤独を理解し、それを利用した。
(……"前回"のようにはいかない。『人間だ』と舐める事はもうしない。待っていろ、"ギルベルト・カーティス"……いや、創造神"アフラ・マズダ"の『善なる光の寵児』……)
全てはギルベルトへの復讐を果たすため。
"アン"は大きく息を吐く。
"未来からやって来て"違う肉体となったとしても、ギルベルトに与えられた、"魂に刻まれた傷"がズキンッと痛み、その胸に手を当てながら、「ふっ」と小さく笑った。
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