〜『破滅の転生者』〜
―――ノース王国 辺境都市「ロマ」
明かりだけが煌々と瞬く街。
血生臭い街に人影はない。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
荒い呼吸音と共に、ロリドは悍ましい笑みを浮かべていた。
ノース王国、辺境都市の4つ目。
全ての命を蹂躙し、犯し、奪った。とめどない万能感に打ち震え、耐えることの出来ない飢餓感に、殺戮衝動を煽られる。
――ロリド様は最強です! あなたこそがこの世界の王なのです!!
レイの言葉に口角を吊り上げ、上手く思考できない頭に歯軋りをする。ロリドの身体に入り込んだ無数の魂と、無数に与えられた「ギフト」。
膨大な情報量に頭痛は激しさを増すのに、魂を喰らわないと満たされない飢餓感は、一種の禁断症状であり、人間だった頃の記憶を呼び起こさせた。
澄ました表情のギルベルト、嫌悪感を露わにする父。裏切った執事に暗く臭い地下牢。
「……くっ……、ギ、ギルベルト・カーティス……。"無能の国王"……、"マーク"……」
全てを奪われるきっかけを作ったギルベルト、自分を嫌悪した父、裏切った執事。転生を果たし、これほど素晴らしい力を持つはずの自分をコケにした"魔王共"。
満たされない空腹の中、憎悪だけが冴え渡る。
果敢に争う者達と逃げ惑う人達。
泣き叫ぶ女と絶望する子供達。
なす術なく死に行く者達の魂だけがロリドを満たし、頭痛を和らげてくれた。
「……ロリド様。大丈夫ですか?」
今にも泣き出してしまいそうなレイの顔と言葉にロリドはギリッと歯軋りし、
ドガッ!!
躊躇なく殴り飛ばす。
ロリドはズザッーと吹き飛んで涙を浮かべるレイを見下ろす。
「レイ……。誰を心配している? 私を憐れむ事は許さんぞ?」
「そんな……、滅相もありません! ロリド様は最強にして至高のお方。僕が憐れむなんてあり得ません!」
「では……もう喋るな。殺してしまいそうだ」
「……いえ、だ、黙りません……。ロリド様は僕の両親の敵を討ってくれた大恩人なんです! ロリド様が苦しんでいる事が僕には辛いのです……!!」
タプタプと目に涙を溜めるレイに、ロリドは小さく舌打ちし、脈打つ度に痛む頭を抱えた。
「くそ……、あ、頭が割れそうだ……」
小さくこぼした弱音。
誰にも弱音など吐かないロリドの小さな呟き。
「……ロ、ロリド様! 僕に……、僕に力を分けてはくれませんか……!? おそらく、ロリド様の"強力な力"で脳に圧力がかかっているから……」
「ふざけるなッ……!! 私の力は私の物だ! せっかく手に入れた力を貴様のようなザコに、」
ズキンッ!!
激しい頭痛に言葉を止めたロリドと駆け寄り支えるレイ。
数々のギフトを喰らったロリドにとって、力を分け与える事は可能であり、おそらくレイの提案は的を得ている。
調査兵団は世界から集められた精鋭達。
その中の1人のギフト【譲渡】。本来、魔力や感覚、情報を譲渡する事ができるギフトはロリドが手に入れることで形を変えた。
『神になった』
ロリドはそう思った。
【強欲】と組み合わせる事で、弱者に力を与え、絶対の忠誠を確保する事が出来る。
自分が神として君臨する世界が作れる。
そう考え、レイの尊敬の眼差しを思い出すが、ロリドの頭には『裏切り者の新米執事』であるマークの顔が浮かんでいる。
ロリドはもう誰も信じないと決めていたが、この激痛から抜け出すには、レイに力を《譲渡》する以外に道はないように思った。
(くっ……私はもう誰も信じない……)
『きっと崇高すぎる私についてこれる者などいない』
ロリドの傲慢さと裏切られたトラウマが、ギリギリの所でレイを拒絶するが……、
「ロリド様……。僕を『奴隷』にして下さい! 悪魔には《絶対契約》のスキルがあるはずです!」
「……」
「絶対に逆らえないように……、裏切らないように、全てをロリド様のために捧げると、僕は誓います……!」
レイはポロポロと涙を流しながら、ロリドの瞳を真っ直ぐに見つめた。
ズキンッ!!
止まらない頭痛と飢餓。
身を焦がす憎悪と憤怒。
(このまま、『壊れる』わけにはいかない)
まだ復讐を果たしていない。
それまで、自我を失うわけにはいかない。
神としての一歩を踏み出さなければならない!
ロリドはレイに手を伸ばした。
「"全てを私に捧げ、見返りは求めるな"……。その代わり"力を与えてやる"……」
「……はい! 誓います!! 僕の全てをロリド様に」
レイはロリドの手を取り、満面の笑みを浮かべた。
「《絶対契約》……」
契約内容が空中に浮かび上がり、魔法陣に2人の魔力が混じり合い溶け込んでいく。
ポワァア……
淡く輝き発光した魔法陣は、契約の締結を知らせるが、次の瞬間……、
「アハッ……。本当に……なんてバカなんだ……"君は"……」
レイはまだ濡れた瞳のまま、ニヤァと口角を吊り上げた。
「……なっ……? レイ! 貴様、何を、」
「《改変》……」
宙に浮かぶ契約内容の文字がボロボロと崩れていく。
絶句するロリドは宙に浮かぶ文字列に大きく目を見開き、頭を押さえたままレイを見つめた。
「アハッ……アハハハッ! アハハハハッ!!」
子供らしい無邪気な笑顔とは、かけ離れているレイの笑顔。それは悪魔であるロリドよりも、もっと悪魔じみた物であった。
〜作者からの大切なお願い〜
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