表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/77

〜ディナの妄想とイルベールの備え〜




―――オラリア王国 王都



 ディナは早馬を走らせ、王宮へと向かっていた。

 オラリアの王宮にあるノース王国への転移陣が目的であり、一刻も早く『白髪の悪魔』を対処するために先を急いでいる。



――お互いすべき事を。



 頭にあるのはギルベルトの言葉と、冒険者時代のリリムの笑顔と圧倒的武力。



(大丈夫……大丈夫……)


 "親友"の窮地が気にならないはずがない。


 でも、ギルベルトに任された事を成し遂げる。自分が『女』としての幸福を望んだ事で、調査兵団を半壊させられた責任を取る。


 ディナは、アクアードでギルベルトと再会を果たし、"潤ってしまった自分"の欲求が、この事態を招いたように感じていた。



(ギル君……いや、勇者様なら何の心配もいらないけど……。それよりも問題なのは……私のだらしのない……)


 ギルベルトの力を目の当たりにしているだけあり、ディナに不安はなかったが、それよりもリリム救出に向かう時の凛々しいギルベルトの表情を思い出しては、疼いてしまう下腹部を持て余す。



(……ま、まずは『白髪の悪魔』だ! 早急に"ミラ"と合流してノース王国の兵力をまとめ上げ……、それから、ギル君に抱いてもらって、いやいや、そうじゃない!! くっ……。ギル君……!!)



 ディナにとって初めての恋……。


 こんなにも四六時中、頭から顔が離れないとは思わなかった。しきりに2人きりの状況を生み出そうにも、頑なに避けられていた事は、正直、かなりショックだったのだが……、


(本当によかった……。帝国の窮地を予見しての事だとわかって……)※違います。


 ディナは『すべき事』を果たすためにひた走る。


――「流石、ディナ姉だ! ご褒美に抱いてあげよう」


 頭の中の妄想は留まる事を知らなかった。




※※※※※※



 ギルベルトの兄であるイルベールは、「勇者に会いたい」というノース王国の宰相との会合を終え、カーティス領への帰路に着こうとした直後、もうすっかり見慣れてしまった男との再会を果たした。



「イルベール殿! な、なぜ、ノースに……!? 早くお帰りになった方がいい!!」



 血相を変えて声をかけて来たのは、オラリア王国の騎士団長"ティグウェル"。


 暇さえあればカーティス領に足を運び、「勇者様はお帰りになられましたか?」などと屋敷を訪れるギルベルト崇拝者。


 そんなティグウェルとイルベールは顔を合わせるうちに、友と呼べる間柄になっていたのだ。



「ティグウェルさん。どうしてノースに?」


「……ふっ! こ、これは私が護衛としてオラリアまで同行するしかありませんね!」


「……え? いや、話し聞いてる?」


「お任せを! イルベール殿! このティグウェル! 身を盾にしてイルベール殿をお守り致す!! その勇姿をどうか勇者様にお伝えください!! 後生です!!」


「……な、何があったのか聞いたんですが?」


「いやはや……、正直、ノース王国などどうでも良いのですが、ここに来た甲斐がありましたぞ! これも全てギルベルト様……勇者様のお導きッ!! あぁ……、勇者様はどこにおられるのか……。私は、これほどまでに勇者様を求めているのに……」



 ティグウェルの遠い目にイルベールはドン引きする。


(ティグウェルさんは少しイカれてる所があるからなぁ……)


 友と呼べる間柄といっても、ギルベルトの話しになると頭の中が"遠くに飛んでしまう"ティグウェルとは一線を引いているイルベールは苦笑を深める。



「"イル様"。『魔人』が出たんだって。ねぇ、"グラ"」

「うん。そうだよ、"イル様"。『白髪の悪魔』だって! ねぇ、"グリ"」



 イルベールの後ろからひょこっと顔を出し、見上げて来たのは『グリとグラ』。


 まだ15歳程度の男女の双子。赤い髪と青い髪に中性的な可愛らしい容姿の二人組は、かつてロリドがギルベルトに放った暗殺者であり、壊滅させられた極悪ギルド「カゲロウ」でNo.1の実力を持っていた2人だ。


 幼い頃から暗殺術を叩き込まれて来た2人は、ギルドが消滅してもなお、ギルベルト暗殺のためにカーティス領を訪れたが、


――居場所がないなら、俺が面倒をみてあげよう。


 イルベールの底なしの優しさによって調略され、今は護衛として常に行動を共にしている。



 未だにギルベルトへの崇拝をベラベラを喋っているティグウェルを軽く無視しつつ、イルベールは小さく息を吐いた。


(魔人1人にオラリアの騎士団派遣……。状況はかなり悪いと見ていいか? 俺が『動く』……? いや、あまり『美味しく』ないな……)


 ノース王国を救うメリットは乏しい。女王が即位してからの内部分裂は激化しており、放っておいてもノース王国の、これ以上の発展は得られない。


 イルベールは本来、守るべきカーティスの民達の利益になる事しか考えないし、そのための行動しかしないが……




「お兄ちゃん! 待ってよぉ!」

「早く! パンが売り切れちゃうぞ!」



ドサッ……



「お兄ちゃん、待ってよぉ!」

「大丈夫か!?」

「痛いよぉ」

「これくらい大丈夫だ! 兄ちゃんがいるだろ?」




 目の前で繰り広げられた幼い兄弟の一連のやり取りに「ふっ」と頬を緩める。


(……放ってはおけないな)


 心の中で呟きながら、懐から下級回復薬を取り出し少年達に手渡す。結局、見て見ぬフリが出来ないのがギルベルトの兄イルベールなのである。



「グリ、グラ。少しゆっくりしてから帰ろうか」


「「はい、イル様!」」


「……ティグウェルさん。"帰ってきて"」


 イルベールの声にティグウェルはハッとした様子で、"お花畑"から帰って来た。


「イルベール殿! あっ、これは申し訳ない!! すぐに後任に任せて、私が護衛に、」


「いや、必要ないですよ。俺達も少し滞在する予定なので……」


 イルベールは少年達に手を振りながら小さく呟き、『万が一』に備える事を決めた。




 帝国騎士団の団長を務める姉を持ち、勇者として崇められる弟を持つ"イルベール・カーティス"。


 彼の武力を知る者はこの世界にも3人しかいない。人前で示した事はこれまで一度としてなく、それはこれから先も変わらない。


 それはイルベールがこれまで築き上げた、「同じ目線で領民達と話せる領主の息子」を揺るがせてしまうから。武力による統治は、イルベールの1番嫌悪する所であるからだ。



(ギルが『巻き込まれていない』ってことは……、ノースが滅亡する事なんてあり得ないと思うけど……念のため……)


 不幸体質の弟を守るために研鑽に研鑽を重ねた剣技……。可愛い弟のために……、いざと言う時に領民達を守れるように、血反吐を吐くような努力の末にたどり着いた剣の境地。


 最速にして凄まじい威力を持つ『剣聖』スキル。


 《居合イアイ》。


 イルベールはギフトを持たず、魔力量も人並み。


 だが、この男、内に秘める闘力はあまりに強大。


 『ギルの兄に相応しい自分であるため』


 形は違えど、リリムと同じ志を持つイルベール。


 屈服させられた最強の暗殺者であるグリとグラ、そして、その努力を見続けて来た姉リリムを除き、イルベールの武力は秘匿されている。


 その武力を目にした者は誰1人として息をしていないからだ。



(女王にかけ合い領主達に民の避難を促して貰わないと……。いや、そこまで無能ではないか……)



 『いつも』より人の多いノベリアには子供達の笑顔と少し慌ただしい大人達。



「グリ、グラ……。少しお茶にしよう。この先に良いお店があるんだ」


「「はい、イル様!」」


「わ、私も同行させて頂きたい!! 勇者様の近況を教えてくれないか!? イルベール殿!」


「……ティ、ティグウェルさんはちゃんと仕事しなよ」



 顔を引き攣らせながらも、可愛い弟がこんなにも愛されている事に頬を緩めた。




〜作者からの大切なお願い〜


 少しでも面白いと思って下さった優しい読者様。創作と更新の励みになりますので、【ブックマーク】をポチッと……。


 下の所にある、


 【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】


 にしてくれたら、最高です!!


 また、この作品を【ブックマーク】して頂いている方、わざわざ評価して頂いてた方、本当にありがとうございます! とっても励みになっておりますので、今後ともよろしくお願い致します!


 イルベール、かっこよすぎw

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] イルベール兄様もなかなか…剣聖なんか!?(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ