降伏宣言
―――帝都「グランベル」近郊
(な、何言ってんだ、コイツ……)
お嫁さん?
こんなイカれたヤツを妻に?
あり得ないだろ。
「……ハァハァハァ、お願いなの。あたしをギルベルト様のお嫁さんに……!! なんでも言うこと聞くよ? "悪魔"は絶対に契約は絶対に守るんだよ!?」
「……」
(コイツ、悪魔だったのか)
「守られたいの! あたしより強い雄に! そんなのギルベルト様だけだよぉ……」
「……マ、マジで何言ってんだ?」
(……魔王を何から守るんだよ)
「なんでもする! ギルベルト様が望む事ならなんでも! その代わり……、あたしをお嫁さんに……」
真っ赤な顔に荒い呼吸はどこか卑猥で、形の良い胸に、整った容姿は冷静に見ると悪くはないが……、
なんか、色々と怖すぎる。
(『次』はコレか……。何が狙いだよ……"世界"!)
一切、予想していなかった"不幸"。
このイカれた魔王に好かれるなんて一切嬉しくない。
「『契約』ってのは……?」
「あたしの……、悪魔の種族スキルに《絶対契約》があるの。ギルベルト様は、どんな条件でもいいよ? その代わり……」
うるうる真っ赤な表情にゾクゾクッと悪寒が走る。
「……お、お前を"嫁"にするなんて無理だ」
(こんなヤバいヤツを側におけるか! ミーシャやユノに会わせられるわけないだろ!)
すると、俺の言葉に魔王はみるみる涙を溜め、
「……ふぇっ? ……う、うぇっ、うぅぅ〜……」
ポロポロと泣き始めた。
え? なにこれ……?
俺が悪いの? なんか俺が悪いみたいになってない?
ってかなに、この状況……。
剣で串刺しにして、魔王を泣かせてるって……。
グジュッ……
とりあえず、剣を抜いて拘束を外す。
もちろん、警戒は解く事はないが、警戒なんてもう必要ないのが"見えてる"。
「い、嫌だ、嫌だ! やっと見つけたの! あたしの『運命の人』! 絶対、欲しいの! 全部欲しいの! ギルベルト様はあたしのなの……!!」
シュゥウ……
傷が治る事など気にする事もなく、子供のように大粒の涙を流しながら泣きじゃくる魔王……いや、少女。
(え、えぇぇ〜……)
ドン引きする俺を他所に、少女は叫ぶ。
「一緒にご飯たべたりしたいの! 『かわいいね』って言って欲しいの! う、うぅ……、て、……手……手だって繋いでみたいの!」
「……そ、それが"お嫁さん"?」
(えっ? う、嘘だろ? このイカれ女のギャップ、どうなってんだよ!!)
もう情報が多すぎてこっちが泣きそうだ。
イカれてて、シャイで、乙女。
……狂いすぎだろ。
「……そ、そうなの! うっ……プレゼントを贈り合ったり、……うぅ……、あ、頭だって"よしよし"されてみたいの!」
「……」
(か、かわいいじゃねぇか……)
正直、それくらいでこの場を収めれるなら、頭を撫でるくらいわけない。そもそも、紳士の俺としては、泣きじゃくる半裸の美少女は見るに耐えない。
今すぐにでも逃げたいが、確実に取り扱い注意だ。
まずは魔王軍を撤退させる?
いや、それじゃ根本の解決にはならない。
かと言って"お嫁さん"にしてやる気はない。
(……絶対服従の奴隷に……?)
チラリと脳裏を掠めたのは、『最狂の魔王』を"奴隷"に堕とす選択肢。もちろん、非人道的な命令をする気はないが、父様が廃止した物を俺がするのもおかしなように感じる。
何にせよ、とりあえずこの状況を終わらせる必要がある。後の事はその時に考えればいい。
「……とりあえず、軍を魔領に帰らせろ。もちろん、人間に手出しをさせる事も許さない……。俺と契約したいなら、誠意を見せてくれ」
(ついでにお前も帰れ! イカれ女!)
エリアは涙まみれの顔にパーッと笑顔を浮かべる。
「ギ、ギルベルト様ぁあ……!!」
不覚にも、本当に不覚にも、少しドキッとしたのは秘密だ。
バサッ!
漆黒の羽を広げ、空に舞うエリアは声を高らかに宣言する。
「我は、勇者『ギルベルト・カーティス様』に敗北した!! 勇者様の温情により、命を救われた我が配下達……。我は勇者様に忠誠を誓い、……"妻"になる事に決めた」
シィーンッ……
エリアの言葉に全ての魔物達は沈黙し、次々とドサッと座り込み、俺はエリアを見上げたまま鼻水を垂らした。
「忘れるな! ギルベルト様の温情を……。我の"旦那様"の種族である『人間』に手を出すことは、我が手も足も出なかったギルベルト様と……その妻である我を相手にする事だと言うことを……!! クフッ……フフフッ……」
ポワァア……
座り込み絶句したままの、魔物達の下に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
「さらばだ……!! 我は……、いや……」
恍惚とした表情で微笑むエリアと、白目の俺。
(な、何言ってくれてんの、このクソ魔王……)
もう何も考えたくないし、考えれない。
「あ、あたし……、幸せになる!!」
ススゥー……パァーッ!!
エリアの言葉と共に魔王軍は一瞬で姿を消したが、全てではないようだ。
(なんで……、なんで『こう』なったぁああ!!!!)
常時、《予知》に切り替えていた俺の前に4人の者がこちらに向かってくるのが"見えた"が、俺は白目のままだった。
〜作者からの大切なお願い〜
少しでも面白いと思って下さった優しい読者様。創作と更新の励みになりますので、【ブックマーク】をポチッと……。
下の所にある、
【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】
にしてくれたら、最高です!!
また、この作品を【ブックマーク】して頂いている方、わざわざ評価して頂いてた方、本当にありがとうございます! とっても励みになっておりますので、今後ともよろしくお願い致します!




