魔王との邂逅
―――帝都 「グランベル」近郊
ザッ……
地上に降り立ち対峙する。
(こ、この魔人……)
一瞬でも気を抜くと死ぬ。
これまでに経験した事のないような喉の渇きと息苦しさ。目の前の魔人が『これまで』の"ヤバかったヤツら"とは根本的に違う生き物である事を理解する。
だが、そんな事はどうでもいい。
(やりやがったな……)
コイツは姉様と……セリアを……。
俺の目に1番"見たくない"物を写した。
(……殺す)
明確な殺意をもったのは初めての経験だ。
この魔人は1番、やってはいけないことをした。
俺の『家族』を"殺した"。
「姉様! セリアを連れて、帝都に避難してください!」
「……えぇ〜……。せっかくギルが来て、」
「姉様!!」
(なんで平然としてんだ! 死にかけた、いや、殺されたんだぞッ!)
姉様はぷっくりと頬を膨らませ、口を尖らせると、『少女』に言葉を投げかける。
「あんたじゃ、無理よ。いや、この世界にギルに勝てる者なんていない」
少女は「ふっ」と小さく笑い、ペロリと舌を舐めて俺を見据える。
「姉様!」
(助けて損した……)
「わ、わかった。怒らないでよ、ギル……。じゃあ、行くよ、セリア!」
「はい、リリム様。……ご主人様、食事を用意してお待ちしております」
「……あぁ」
(お前もたいがいだな、ポンコツめ……)
安定の信頼を向けてくる2人に心の中で悪態を吐きながらも、憤怒が消えたわけではない。
姉様がふわりとセリアを風で包み、帝都内へと下がって行く間も、俺は戦闘態勢を崩さず、少女の魔人の一挙手一投足に気を配った。
短く切り揃えられた赤毛混じりの黒髪に凛とした真っ赤な瞳。左の目元には黒い紋章が刻まれている。
(まだ子供の様だが……、やっていい事と悪いことを教えてやる)
対峙した圧力とは裏腹に、14歳程度の子供のような整った容姿がより異質な物を放っている。
不思議と恐怖は感じない。
ギリギリで救えた安堵と憤怒でそんな物は消えた。いつも通りの信頼を向けてくる2人の態度でも、殺意は消える事がなかった。
「……ルシフェル。下がっていろ……。邪魔すれば屠る」
「……"エリア様"……わ、わかりました。久しぶりのエリア様の戦闘をこの目に焼き付けます……」
バサッ!!
"天使"は魔物達の方へと飛び去り、残ったのは俺と少女魔人の2人だけ……。
「お前が女だろうと関係ない……。お前は1番やっちゃいけない事を『した』……」
「……さ、最ッ高だわ! "ビビッと"来ちゃった!!」
「……はっ?」
「あたしは一応、『魔王』と言うことになってる」
「……一応、『勇者』と言うことになってる」
「クフフフッ……、じゃあ……、ヤろうか、ギル!」
「……」
(『魔王』かぁああいッ!!)
バガギッ!!!!
俺は"一瞬"で飛んで来た"黒い手"を宝剣でギリギリ防ぎ、即座に反撃し、
グザンッ!!
躊躇なく"魔王"の首を斬った。
※※※※※※
ギュルルルルッ!!
斬られた首を繋ぎながら、エリアは歓喜に震えた。
(見つけた! 見つけた、見つけた! 見つけた! 見つけたッ!!)
青白い魔力が漏れ出る身体。『未来』を見る果てしなく深く澄み切った青い瞳。
――お前が女だろうと関係ない。
(うぅうう!! 軽くイッちゃった!! コレが"イク"って事なの!?)
エリアのつるぺたの胸は、壊れてしまったかのようにバクンッ、バクンッと音を立てている。
◇
物理法則を無視しながら、眩い光を放ちながら近づいてくる巨大な『何か』。降り立つ"ついで"に、ヂンを屠り、リリム・カーティスを救う姿には、感動と嫉妬で頭がおかしくなってしまいそうだった。
『ギル』の参戦に言葉を失った四天王と絶句するジュラ。即座に駆け出したルシフェルとギルの戦闘を見つめながら、この期待が確信に変わる。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
【名前】 ギルベルト・カーティス
【称号】 『※※※』『世界の裁量者』『竜王』
【加護】 『※※※※※』 『聖母"マリア"』
【種族】 人間
【状態】 焦燥 憤怒 安堵 欲情
【魔力】 『∞』
【ギフト】 『未来視』
【スキル】 『身体強化』『天眼予知』
【種族スキル】 なし
△△△△△△△△△△
(『ギルベルト・カーティス』……)
エリアは『運命の人』を見つけた。
表記されない何者かの影よりも、魔力『∞』と状態の『欲情』……。
(もぉお! 浮気しちゃダメ!)
エリアはすぐにでもルシフェル、リリム、『横たわる女』を屠ってしまいたい衝動に駆られる。
この3人の誰かに欲情しているのは確実。
リリムはおそらく「親族」……。ルシフェルは人間ではない……。つまりは『横たわる女』が邪魔者。
(消しちゃうぞぉ!)
エリアが立ち上がりペロリと唇を舐めると、
「……"あの子"の『血』。どんな味なのかなぁ?」
いつも寝てばかりのくせに、恍惚とした表情で頬を染めた魔王軍四天王、吸血王"ミモザ"の言葉が耳に届き、エリアはピクピクッと顔を引き攣らせた。
「『あの者』に触れた者は殺す……。誰だろうが許さん! あの者は我の獲物なのだ!」
(ギルはあたしのよ! 誰にも渡さないんだからッ!!)
エリアはそれだけを言い残し、高ぶる心のままに"横たわる女"とリリムの元へと駆けた。
◇
そして今、一瞬も気を抜けない状況下にある。"不規則で歪な剣"は容赦なくエリアを切り裂き、その瞬間に《超再生》を繰り返している。
何重にも重ねた魔力の鎧がいとも容易く無効化され、身体に『痛み』を与えてくる。
グジュウ……
焼けるような激痛。
『並の魔物』なら確実に再生は不可能。
それは竜種も例外ではなく、あまりにも無慈悲な攻撃に下腹部を熱くさせた。
ガキンッガキンッガキンッ!!!!
これまで、指一本も『触れられない』事があっただろうか? これまで、こんなに『死』を身近に感じる事はあっただろうか?
答えは考えるまでもない。
ビキビキッ! ビキビキッ!!
高密度の魔力を練り込まれた「剣」と自分の魔力で【具現化】した《魔手》が弾き合うたびに大気に亀裂が入り、雲が割れる。
(グフフッ……あぁ。すごい! いい!! とってもいいよ! ギルベルト・カーティス!)
冷酷な青い瞳に鋭く射抜かれる度に、背筋を虫が走ったようにザワザワと"死"の気配がこちらを見つめている。
「全部……ハァハァ、ハァハァ、全部、見せてぇえ!! 『ギルベルト様ぁあ』!!」
「……はっ?」
深く刻まれるギルベルトの眉間の皺。
(そ、そんな熱い眼差し……! もう、らめぇええ(ダメぇええ)!!)
その鋭い眼光にエリアは妊娠を覚悟し、絶頂した。
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