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どうせ死ぬなら!




―――帝都 「グランベル」近郊



 帝都「グランベル」に降り立った俺に待っていたのは、イカれた景色だった。



 光に包まれた巨大な『十字架』が今、まさに黒紫の竜種へと着弾したところ。


(『暗黒竜』か? ふっ……さ、さすが姉様!!)


 感嘆したのは一瞬。


 血塗れになりながら地面に押さえられている姉様を視界に捉えた瞬間、俺の中で「何か」が弾けた。



ブチッ!!



 鮮明に聞こえた内側で鳴った音。

 宝剣を握る手の感覚はなかった。




グザグザグザッグザグザグザッ!!!!



 一瞬で肉片と化した竜種を確認しても、収まることのない憎悪に頭が狂いそうになった。




※※※※※



(と、とりあえず、セリアが行動できるまで時間稼ぎをして、即時離脱!!)


 セリアの【閃光】で帝都に向かいながら、俺の頭を支配していた選択肢は1択だった。


「ご主人様。リリム様なら大丈夫でございます」


「あぁ……」


 セリアは無表情で口を開いたが、その自信がどこから来るのが教えて欲しい物だ。



 『巻き込まれ』なかったディナ姉の件。


 正直……、『逆に』不安だ。


 少し冷静になった俺の頭。父様の焦り方に思わず帝国へと急行したが、姉様が負けるイメージが一切沸かない。


 どうせ、ケロッとしているはず……。


 それよりも、俺が『巻き込まれなかった』ディナ姉……、「ノース王国の方が窮地に立たされているのではないか?」という疑問が頭から消えない。



(あぁああ!! もぉお! クソッ!! いい加減にしろよ、"世界"!!)



 心の中で嘆いた所で何の意味もない。


 スローライフを望む事はそんなにいけない事なのか? 専属メイドを無茶苦茶に抱く事はいけない事なのか? 妻とエルフとメイドを一度に抱く事はそんなに許されない事なのか……? ※ギルベルトは混乱してます。



(まぁ、とにかく姉様の安全の確認したら、すぐに『ノース』に行けばいいか……)



 中途半端に情報を得てしまった俺。


 "世界"が何を望んでいるのかがわからないが、この状況そのものが『不幸』以外の何物でもない。



「ご主人様なら、何も問題ありません。何も間違えません。全てはご主人様の望むままにございます」


「ふっ……」

(もし、本当にそうだとしたら、今頃、お前の『泣き顔』が見れてるに決まってんだろ!!)


「ご主人様は世界を導くお方……。セリアは何も心配しておりません」


「……ポンコツメイドめ……」



 いつもと変わらない様子のセリア。


 俺は"俺"の選択を信用できない。


 でも、絶望以外の何物でもない状況下で、いつもと全く変わらない紺碧の瞳を浮かべるセリアは少し信用できる。



 コイツはいつもそうだ。

 いつも、いつも、いつも、バカみたいに俺を信じて疑わない。



「ご主人様。そろそろ『グランベル』でございます」


「……あぁ」

(姉様! お願いします! もう終わらせといて下さい!!)



 収納袋から完全回復薬フルポーションを8本取り出し、7本をセリアに手渡す。



「セリア……。これは命令だ」


「……」


「俺に"万が一"があっても、絶対に死ぬな。《閃光》の反動がなくなり次第、すぐに離脱しろ」


「……はい、承知致しました」


「……」

(俺の目を見ろ! 嘘つきメイドがッ!)



 いくら姉様を信じていても、身体は震える。(もう既に……)なんて、不安にかられる。


 セリアの俺への信頼が異常である事をまざまざと見せつけられる。



トクンッ、トクンッ、トクンッ……



 心の中はぐちゃぐちゃだ。


 姉様の『最悪』を見たくないから、無理矢理にでも信じようとしているのかもしれない。


 もし、父様の言葉通り、帝国が落ちていたら?


 普通に考えて、俺が生きて帰れる保証はどこにもないだろう。今までだって『ギリギリ』だったんだ。もし、報告通り、帝国が『死地』なら俺は死ぬのかもしれない。



(……………………えっ? 俺、死ぬ? いや、死ぬじゃん!! い、いやいや、ちょっと待て! 俺、どう考えても死ぬじゃん!)



 いま、"本当の意味"で冷静になれた俺は視界が滲む。



(ちょまぁあああッ(ちょっと待ってぇええ)!!)



 頭には残して来たミーシャとユノの顔。思えば、雰囲気に流されて、かなりカッコをつけていたかもしれない。


 姉様がヤバいと聞かされ、激情に任せてカッコつけてたかもしれない。そもそも、姉様が敵わない相手に"俺ごとき"が勝てるはずがない……。



「……セリア」


「……? はい、ご主人様」



チュッ……



 軽く触れた唇。



(……や、やった。やってしまった……。いいんだ、俺はもう死ぬ! これくらい許されるに決まってる!)



 顔の熱は尋常ではない。

 それ以上に、セリアの真っ赤な顔が堪らない。



チュッ……クチュッ……クチュッ……



「んっ……、あっ……はぁっ……」



 聞こえるのは舌が絡む音とセリアの甘い声。拙い様子で、必死に俺の舌を追いかけるセリアのぎこちないキスに"生きている事"を実感する。



ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ……



 トロンとした紺碧の瞳を潤ませるセリア。その頬は妖艶に赤らんで荒い呼吸音だけが2人を包む。



「ご、ご主人様ぁ……。うっ……うぅ……」



 ついには泣き出してしまったセリアの頭をポンッと撫でながら、



「な、泣くな! ほら、着くぞ!!」



 唇に残る感触に、(もう死んでもいいや!)などとバカげた事を考えながら、『死地』に降り立った。




※※※※※




 そんな『幸福』を全て消し去った光景。


 竜種を亡き者にしても未だに収まらない憤怒を抱えたまま、自分が今すべき事を行動に移す。

 


「姉様!!」



 動けないセリアを抱えて、血塗れになった姉様に慌てて駆け寄り、収納袋から取り出しておいた完全回復薬フルポーションを握りつぶす。



ポワァア……



 血が宙に浮き、みるみる傷が癒えていくと……、



「ギ、ギルぅう……。姉さん、幸せすぎて死んじゃうよぉおおおおお!!」



 真っ赤な顔をしたかと思ったら、両手で顔を覆い、耳まで赤く染めた姉様の姿は、明らかに弟に向けられた物ではない。



「リリム様。もう何も心配入りませんね?」


「ええ。セリアもありがとう! ギルを連れて来てくれるなんて、私を殺すつもりなんでしょ?!」


「いえ。リリム様を救うためのご主人様の指示ですよ?」


「……ギ、ギルぅうううう!!!!」



 この人はどこまでもブレない。


 なんかよくわからないが、まだ魔物もかなりの数が残っているようなのに、一瞬で帝国騎士団の団長としての仕事を放棄したように見える。



(よ、よし。すぐに"ノース"に向かおう……)



 即座に撤退を決意しながらも、完璧に『いつも通り』の姉様に深く深く安堵した。




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