〜リリムの諦めと参戦〜
―――帝都 「グランベル」近郊
(……これは間違いなく『滅びる』わね)
リリムは目の前の竜種を相手にしながら、相手の戦力の高さにタラリと冷や汗を流す。
「リリム様! "下"は片付けておきます!!」
副団長"バリー"は500の騎馬を率いて、魔物の軍勢に突撃して行った。個体の質が高いのは見ればわかる。
(……無駄死にしに行くようなものだわ)
帝都グランゼルの城からは絶えずリリムに魔力が供給されているが、それが切れるのも時間の問題。
ただの魔物や魔人……、数多の災厄級の魔物が攻め込んで来たとしても、幾度となく跳ね返してきた『必勝の形』ではあるが、盤面はすでに詰んでいる。
「バリー! 一度、城に退きなさい!」
「……リリム様が退くべきです! 私共が体制を立て直した所で何の意味も……、ここはリリム様が、」
フワッ!!
リリムはバリーに有無を言わせず、《風操作》で後方へと運ぶ。
「団長! あなたのためなら私は死ねます!」
「リリム様の盾となり、私共は……!!」
「あなたの側で死なせて下さい! 団長様!」
「えっ、いや、ちょ、……リリム様ぁあ!!」
騎士団員達とバリーの絶叫にリリムは嫌な顔をする。
(邪魔なのよ!!)
帝国騎士団の精鋭。王国で言うところの部隊長から、騎士団長ほどの力を持っている者達。バリーに至っては、この世界でも10本の指に数えられるほどの実力者。
そんな者達はリリムの足枷でしかなく、目の前の暗黒竜はもちろん、奥に控える者達の実力は未知数だ。
(『天照』でも、確実に全滅ね……)
かつて世界を渡り歩き、『自由』を謳歌した冒険者時代。Sランクパーティー"天照"の全メンバーを集めたとしても、この盤面は覆せない。
それほどまでに絶望的で圧倒的な『力の権化』。
冷めた視線でこちらを傍観する『最狂の魔王』と、その隣の赤髪の竜種の力は、離れていても常軌を逸している。
(ふふっ、まぁギルほどじゃないけど……ねッ!)
ブォオオオオオオオ!!!!
リリムは最愛の弟を支えに、有効かもわからない《暴風》を暗黒竜に放った。
深い紫色の竜種。
真っ黒の暴虐竜よりも明るい色味ではあるが、まるで夜空のような深い紫は、より闇に溶け込む。数々の属性魔法を放ってはいるが、有効な物が見当たらない。
「ギャハハ! すごい"人間"だ! お前のような人間が生まれるとは、この世はまだまだ知らない事が多そうだ!!」
「……私が『すごい』って? ……アンタの……、底が知れる!!」
ボォゴォオオオオ!
放った大炎はズズズッと暗黒竜の『闇』が飲み込む。
「ギャハハッ!! "目覚めたばかりの暴虐"を屠って慢心したか!? アレは本来の竜種の力ではないぞ!?」
「……そんな物、喋り方でわかる!!」
暴虐竜のたどたどしい喋り方は記憶に新しい。ペラペラと喋る暗黒竜との違いはすぐに気がついた。
「んっ? アレは"あのバカ"が雰囲気出してただけだろ? 喋り方は関係ないぞ? それよりも……、強さの桁が違うだろぅ?!」
ズンッ!!
重くなった空気にリリムは即座に反応する。
ポワァア……
聖属性の魔法により結界を生み出し、暗黒竜の『重力』を無効化する。
「お前、本当にすごいなぁ! エリア様の元に来い! そうすれば殺さないでいてやるぞ?」
「……」
(あ、あの喋り方、関係なかったんだ……)
「ギャハハ! そうだ! "人間"など捨て置け! お前はもっと高みに行ける"生物"だ!」
「……ふっ、笑わせる」
「ギャハハハハ! 貴様は"人間"である限り、俺様を越える事は出来ない!」
ズズズッ……
広範囲の『重力』にリリムは目の前にある"死"を理解する。おそらく、圧縮されすぎた空間に大爆発を引き起こす類の暗黒竜からの"挑戦状"。
「私はギルの『姉様』よ……?」
リリムの頭には常にギルベルトがいる。
『切っても切れる事のない姉と弟の関係』
それを手放す事は絶対にしない。
帝国騎士団の団長として、『敗走』の時間を稼ぐ。
冒険者よりも『自由』を保証してくれた皇帝のため。
ここで退かない理由は無数にある。
だが……、
リリムにとっての『全て』は、ギルベルトが誇れる『姉』である事。
もう後先は考えない。
(竜種の1匹も屠れないなんてギルに会わせる顔がないわ……)
無闇に様々な属性魔法を試したわけではない。
全てはこの瞬間。
暗黒竜を切り崩すにはこの瞬間こそが全て。
(不完全な竜種……。さぁ、散りなさい!)
『重力』を操る一瞬の隙間、暗黒竜は『闇』……、ブラックホールを創造できない。
「《聖天の霹靂》……」
リリムが呟くと、空に巨大な十字架が現れる。
ズズッ……
『重力』に押しつぶされ、大爆発を引き起こされるのが先か、"十字架"が突き刺さるのが先か……?
防御に割り当てていた魔力を消費し、全魔力を注いだ必殺。
(あぁ……。お父様は泣かないといいけど……。イルなら大丈夫よね……? イルなら……。ミーシャ……、セリア……頼むわよ……)
身体に押し寄せる圧迫感。
リリムの頭には『家族』しかいない。
でも……、
(あぁ……。ギルに会いたい……。頬をすり寄せて、すべすべの頬に……。程よく引き締まった身体に……ふふっ。想像しただけで……)
最後にはギルベルトしかいない。
そして……、
(……お母様……今、そちらに……)
母親の最期の言葉と"再会"に頬を緩めた。
心残りは、ギルベルトの子供を見れなかった事。気持ち悪いかもしれないが、ギルベルトの子供を産めなかった事。
グザッ……
今、光の十字架が暗黒竜に触れた。
グォオオオオオオオン!!!!
巨大な咆哮に『引き分け』を確信した、その瞬間……。
ピカァアッ……!!!!
見覚えのある眩い光にリリムは否応なしに涙を滲ませた。
"死"から救われた安堵ではない。
自分の危機に『最愛の人』が駆けつけてくれた事。いつも『巻き込まれる』事を嘆いているはずの弟が『自分のため』に来てくれた事が嬉しくて仕方がなかった。
グザグザグザッグザグザグザッ!!!!
一瞬で細切れになった暗黒竜と、一瞬で『重力』から解放され、軽くなったボロボロの身体。
猛烈に襲いかかる身体の激痛などリリムには小事だった。目の前に現れた『最愛の弟』の姿に、何よりも心臓が痛くなったからだ。
〜作者からの大切なお願い〜
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