行くよ! 行けばいいんだろ? ……ん?
―――カーティス伯爵邸
「つまり……、ノース王国は存亡の危機にあると言うことです」
部下からの報告を話し終えたディナ姉。
ユノは少し心配そうにディナ姉を伺い、ミーシャは真剣な表情で押し黙り、セリアは一切の感情を読み取らせない無表情。
「……」
(マ、マジかぁ〜……)
俺は心から後悔していた。
オラリア王国の北の友好国「ノース」。
「白髪の悪魔」と呼ばれる魔人が、「魔領のフタ」である"クジャ"を落とし、北側から徐々に徐々に南下しているようなのだ。
オラリアの国王は事態を重く見て、即座に王国騎士団を派遣。騎士団長、ティグウェルを筆頭にノースに向かったとの事。
アクアードからクジャへと戻っていた調査兵団の精鋭部隊率いる副団長"ミラ"は、ノース王国の魔法師団、騎士団と合流し、王都の北側の中央都市"ラグナ"にて迎撃の準備を整えている状況らしかった。
素直な感想としては、
(ここのところ、幸せすぎたもんね……)
「幸せ」が1に対して100で返ってくるのが俺。(『反動』は何だ?)と勘ぐっていただけに、自分の"不幸"を嘆いたのだ。
「そ、そんな事が……」
調査兵団の仲間達が半数以上命を奪われたそうなので、神妙な顔の一つでも貼り付けるが、
(カ、カッコつけるんじゃなかったよぉ〜!! なんだよ、その化け物! 竜種よりヤバいんじゃねぇの!?)
内心はこのありさまだ。
何度かの戦闘を経て、俺は"普通の人"よりかは強いんじゃないかと思っているが、決してそんな『化け物』を相手にできるようなヤツじゃない。
暴虐竜の時はミーシャとレム爺を救うため。
先日の「八魔将」はユノ達に「何かあったのか?」と激昂した結果でしかない。
ノースは今、女王が国を治めている。
しかし、引退したとはいえ、『英雄王』と呼ばれた"ドラン"がいるはずだ。
それにノースは魔領に現れたダンジョンへの入り口なので、中には優秀な冒険者達もいるのだろう。先日の調査兵団の精鋭もいるし、オラリアからも騎士団を派遣してる。
まさに、精鋭だらけなんだ。
「白髪の悪魔」だか、なんだか知らないが、なんとかなるだろ! 俺は断固としてノースには行かない! いや、魔領に近づきたくない!
どうせ、"俺"の事だ。
魔領に近づいた瞬間に『最狂の魔王』が現れるに決まってる。……そう、これは新たな被害を生まないために、ここで俺が大人しくしておく必要があるんだ。
これは、『戦略的待機』なんだ!
しかし……、
「……本当に救われました、"勇者様"。出立はいつ頃になるでしょうか? できれば、一刻も早く向かいたいのですが……」
何をどう勘違いしたのか、同行すると思い込んでいるディナ姉。確かに「勇者として話しを聞く」とは言ったが、「行く」だなんて一言も言ってないはずなのだが?
「……だ、大丈夫だよ! ギル様は世界の『救世主様』! 何も心配する事ないよ! その悪魔? 魔人だっけ……? とにかく! そんな"羽虫"、ギル様の前に立った時点で、屠られてるはずだから!!」
「……ユ、ユノ?」
「そうですよね!? ギル様! そんなヤツすぐに細かく切り刻んでしまいますよね?」
「……」
(ユ、ユノちゃん?)
キラッキラのグリーンの瞳から伝わってくる信頼の眼差しがツラい。「泣け」と言われれば2秒で泣ける……いや、もうじんわり来てる。
確かにティグウェルは顔見知りだし、死なれたりしたら後味は悪いが、俺は声を大にして言いたい。
『俺! 死にたくない!!』
『俺が行っても多分、大して変わらない!!』
俺が必死に行かない理由を考えていると、ディナ姉は「そうか……」と、少し驚いたように目を見開いた。
「……ディ、ディナ姉?」
「……『ここに居なければならない理由』があるのですね? だから、あんなに頑なに『魔領にはいかない』と……。よ、よかった。嫌われてるんじゃなくて……」
「……えっ、いや、……ん?」
「あ、いや! それどころではないですよね。そういう事であれば、助力をお願いするわけには行きません」
「……」
ガタッ……
「では勇者様! お互い、すべき事を……!!」
セリアみたいな事を言い出したディナ姉は笑顔を浮かべて立ち上がる。
(なんで俺の周りには俺を無条件で信じるヤツばかりなんだ……)
心の中で嘆きながらも、決意を固めた様子のディナ姉の表情が何よりも眩しい。
「……ま、待って……くれ……」
(い、行けばいいんだろ!? 行けばッ! 行くよ! 行きゃいんだろ! 何もしないからな! 行くだけだ! ふざけやがって、"世界"! クソッ!)
あまりの情けなさに耐えきれなくなり、声を絞り出したが、
ドタドタドタドタッ!!!!
尋常ではない足音が響き、咄嗟に《予知》した俺は、"見えた物"にゴクリと息を飲む。
バタンッ!!
乱暴に開かれた扉。
「ギル!! お前はここに残り、カーティス領を守ってくれ!! 私は帝都に急行する!!」
「……と、父様……"それ"は事実ですか?」
俺は"見た"物を信じられない。
言いようのない喪失感と尋常ではない焦燥感。
目の前には、『ドワーフ族を救ったカーティス家』、その当主に代々受け継いできた『神鎧』を装備した父様。
「……帝国が落ちた!!」
言葉を失い驚愕する面々を尻目に、俺の頭には姉様の笑顔しか浮かんでいなかった。
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