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セリアの決意



※※※※※【side:セリア】



 カーティス領に戻って10日が経った。


「セリア様、ギルベルト様がお屋敷におられる間、紅茶は私に注がせてください!」

「ちょっと、アイシャ!!  次はウチだよ!」

「"今夜の枕"は私の尻尾ですからね!」


 カーティス家のメイドとして働くアイシャさん達は「誰がギルベルト様のお世話をするか?」を必死の競い合っている。


 ご主人様もたくさんの獣人たちに囲まれ、ご機嫌のご様子だけど、私としては考えさせられる所がある。


(セリアが専属メイドです……)


 私以外のメイドから奉仕されている姿を見ては、頬を膨らませて口を尖らせそうになるのを堪えるのに必死だった。



 調査兵団の団長であるディナ様は「勇者様との意見交換を行いたい……」などと、仕切りに2人きりの状況を生み出そうと必死のように見えるが……、



「意見も何も……、俺は"魔領"には行かないッ!」



 ご主人様の事だ。


 きっとカーティスの屋敷にいる事でしか救うことのできない『窮地』を予見しての行動だと、私にははっきりとわかる。※そんなはずない。


(聡明なご主人様は、すでに魔王を討つ算段は整えているのですね)


 ディナ様との意見交換に応じないご主人様の後ろに控えながら、私はそのような事を考えた。






 久しぶりにミーシャ様、ユノさん、ご主人様の4人でカーティス領と帝国の境目である"カテナの丘"を訪れた。


「ユノを"あそこ"に連れて行きたい!」


 ここは、ご主人様が子供の頃から遊び場にしていた丘。下の生い茂った森をミーシャ様や私と探検しては、魔物に遭遇していた場所。


 綺麗な湖にカーティス領の街並みを一望できる景色。クルリと向きを変えれば帝国の山脈が見える。


 美しい湖に山脈は反射し、穏やかな風が優しく頬を撫でる、ご主人様のお気に入りの場所にして、ミーシャ様や私にとっても思い出の詰まった場所だ。



「ハハッ! ギル様ぁ!!」


 遠くからブンブンッと手を振るユノさんと、それに手を振りかえす達ご主人様。


 ミーシャ様とユノさんは湖で水遊びをしていて、ご主人様はそれを薄く微笑みながら眺めている。

 

「……セリア。懐かしいな、この感じ」


「はい。ご主人様」


「ユノも気に入ってくれたみたいでよかった」


「そうですね」

(……好きです、ご主人様!)


 ミーシャ様とは毎晩のように、愛を育んでいる様子のご主人様。ユノさんにはいつも軽いキスをしては頭を撫でている。


 屋敷に戻ってからは、狐人や狼人の尻尾を枕にしてはもふもふしているご主人様……。


(そろそろ、私にも『なにか』あってもいいのでは……!?)


 1度の間違いでも、なんでもいい。

 ご主人様は頑なに私に触れようとしては下さらない。


 『一生、メイドでいろ』


 あの時はこれ以上の幸せはないと感激し、感謝でいっぱいになったのに、いざミーシャ様やユノさん、"他のメイド"と触れ合ってる姿を見ると、


(なぜ、私には……?)


 などと少し口を尖らせてしまうのだ。

 欲深く、傲慢な自分が嫌になる。


 近くにいればいるほど愛おしくておかしくなってしまいそうになり、"あの日"の言葉を後悔する。


 あの時、「心から愛しています」と言えたなら……。

 そんな「もし」を考えては悶々とした。


 

 私はバケットからサンドウィッチを取り出し、お皿に綺麗に盛り付ける。香りの良い紅茶を丁寧に注ぎ、ご主人様に手渡した。


「ありがとう。それにしても変わらないな、ここは」


「はい。あの頃に戻ったようですね」


「ハハッ! あの頃は、お前も素直に怖がったり、泣いたり……、笑ったりしてたのにな?!」


 ご主人様はイタズラな笑みを浮かべてチラリと私に声をかけて下さる。


 きっとここに来たのはユノさんのためであり、私のためでもあるのかもしれないと、今やっと気がついた。


(……私は本当にメイド失格ですね)


 おそらく、私が拗ねているのが伝わってしまったのだろう。※そこまで考えてない。


 こんな面倒なメイドを側に置いて下さるなんて……。思い出の地に連れ出し気遣って下さるなんて……。


 やばい。

 気を抜くと涙が出てしまいそうだ。


 心臓がキュッと締め付けられて仕方がない。ご主人様への愛慕が涙となって瞳からとめどなく溢れてしまう。


(ご主人様……私、もう……この気持ちを抑えておく事は……)


 自分が限界である事を自覚する。


 きっとご主人様は、「ふっ、ポンコツメイドが……」なんて、優しく微笑みながら頭を撫でて下さるはず。


 その"ついで"でも良いのです。


 一度だけでもキスを落として下されば。


 私はメイドにあるまじき言葉を伝える覚悟を決めた。






〜作者からの大切なお願い〜


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