〜ロリドの狩り〜
―――ノース王国 最果ての村「クジャ」
ノース王国と魔領の境。
最果ての村"クジャ"には索敵に特化した"ギフト持ち"【千里眼】の"ヴェン・ヘイレ"が王都から派遣されていた。
クジャは魔領からの玄関口であり、調査兵団の屯所が設置されている。小規模な村ながら、その戦力はノース王国の王都につぐ物だ。
「……な、何か来てるぞ」
得体の知れない"強者"の気配。
20kmにも及ぶ絶対感知に10kmの視界確保。
定期警戒により【千里眼】を発動させたヴェンは15km付近に"災厄級並"の気配を察知した。
カンッ! カンッ! カンッ!
訓練通りの警鐘。
精鋭が駆り出している調査兵団と魔領に点在する迷宮で、秘宝を夢みる冒険者達。
(甘く見積もって6:4か……)
世界各国から優秀な者が集められている調査兵団ではあるが、団長であるディナの不在は戦力が3割減。精鋭の遠征により3割減と考えて差し支えはない。
(4割の戦力で……災厄級……か……)
ヴェンは小さく舌打ちしながらも、ゆったりとした遅い進行速度に少し安堵する。
「ヴェン! 何者だ!?」
「何事なんです?」
調査兵団、分隊長の"ヤン"と"メジェッド"。
留守を任されている2番隊と5番隊の隊長。
「災厄級の魔人だ。まだ視認は出来ていないが、まず間違いない」
「……ふっ、よりによって団長不在かよ」
ヤンは苦笑しながら、腰元にある"青龍刀"を1つ撫で、メジェットはゴクリと息を飲んだ。
「通信用の魔導具で"女王陛下"にすぐに知らせる。確かディナ様も持っているのだろう? 遠征中に悪いが、呼び戻すべきだ……。もうしばらくは大丈夫だと……えっ?」
ヴェンは冷静に状況を分析し、取るべき行動を促したが……、
「……ここは"ノース"の端か」
すぐそばで聞こえた声にバッと視線を向ける。
そこには白髪の悪魔がいた。
グザンッ!!
その悪魔は初めて"人間"を殺した。
それは『前世』も含めてだ。
死に追いやる事は何度もあったが、直接手を下したのは初めての経験だった。しかし、驚愕のままに飛ばされた首に悪魔はニヤリと口角を吊り上げた。
※※※※※
首と胴を【具現化】した剣で切り離すと、
ポワァア……
血飛沫と共にヘソのあたりから白いモヤが出現し、ロリドはそれを手に取り、自分の口元に放り込んだ。
「あ、あぁ……。うっ……!! なんて美味なのだ!」
感じた事のない幸福感に打ち震え、ヨダレが溢れては口から垂れていく。身体の内側にじんわりと温かい物が溢れ、身体が少しだけ軽くなったように感じる。
「ククッ……。クハハハハッ!! レイ! 素晴らしい! 素晴らしいぞ!! 確かに"コレ"は何よりもご馳走だ!!」
「ふぅ、ふぅ、ふぅ……」
先程までオドオドとしていたのに、村に連れて来ただけで鼻息を荒くするレイにロリドは笑う。
「ふっ……、安心しろ。この私が"貴様のために"、この者達を全て喰らってやろう……」
「……う、うぅ……。ありがとうございます。ロリド様!!」
「よく見ておくといい。逃げ惑い、泣きじゃくり、絶望する"人間"達を……」
ロリドはレイの事なんて微塵も考えておらず、頭の中では、"人間の魂"の事しかなかった。
「き、貴様ぁ!!」
「よ、よせ! ヤン!!」
側にいた2人の内の1人の男が、変わった剣を両手に持って襲いかかってくるが、
バサッ!!
ロリドは背中に【具現化】した翼を形成し、ガッとレイを片手に持ち、共に小さな村を見下ろした。
【強欲】により、魂を喰らった男が"ギフト持ち"であった事がわかったからだ。
(……【千里眼】?)
即座に発動させ、その能力を確認。
『超感覚』による気配を探る物よりも、より鮮明な感知。感知した者の姿形まで確認する事ができ、はるか遠くまで鮮明に視界を捉える事が出来た事に驚いた。
1つだけ気になったのは、手に持っているレイの異常なまでの"弱さ"。だが、ロリドにとってそんな物はどうでもよかった。
"ご馳走"が395。
あと、395回、あの幸福感を味わう事ができる。
「ククッ……クハハハハッ!!!!」
「ロリド様。お願いします。父さんと母さんの無念を……」
「私に任せておけ!」
一本の《魔手》でレイを上空に残したまま、ロリドは村に降り立った。
「逃げろぉおおおお!!!!」
ヤンの絶叫に、調査兵団5番隊は即座にロリドを囲い込み、小金を稼ぐためだけにダンジョンに潜っていた冒険者達は駆け出した。
「……《魔牢》」
ロリドは【具現化】した魔力で逃げる冒険者達を捕らえ、
「《分解》……」
躊躇なくその生命を奪う。
「化け物だ! 逃げろ!」
「助けてくれ! 俺には帰りを待つ妻と子供が……」
「うわぁああああああ!!」
小さな村に絶叫が響き渡る。
(……コレが"人間"。あまりに弱く、脆く……美味い)
自分を取り囲んでいる者達の緊張、絶望、焦燥。その全てが『超感覚』によって肌を刺す。
「俺は選ばれた……」
取り囲んでいる調査兵団5番隊、全てを《石化》し悍ましい笑みを浮かべる。
ガキンッ!!
後ろから斬りかかって来た"先程の男"の攻撃を受け止め、クルリと振り返る。
「俺の大切な隊員を……! 貴様は絶対に……」
「ククッ、お前じゃ無理だ。私はこの世界を統べる王になる」
「舐めるなよ、魔人が!」
ガキンッ! ガキンッ! ガキンッ!
2番隊、隊長メジェットはヤンと"白髪の悪魔"が戦闘に入った事を確認し、大きくため息を吐いた。
――"俺達"で時間を稼ぐ。お前だけ離脱しろ……。
ヤンは周囲の冒険者や残りの調査兵団を上手く誘導して、悪魔を上手く抑えているが、待っている結果は誰の目から見ても明らかだった。
徐々に徐々に力を増していく悪魔を前に、
(とんでもない魔人を覚醒させてしまった)
などと絶句した。メジェットに感知系のスキルはなく、それを証明する術はなかったが、死線をくぐり抜けてきたメジェットは、明らかにこの村に現れた時よりも空気が重くなった事はわかった。
「ねぇ、早く逃げなよ」
唐突に後ろから声をかけられ、ゾッとする。一切の気配を感じさせない小さな角の生えた子供。
メジェットは即座にレイピアを抜こうとするが、
スッ……
気がつけばゼロ距離で柄を押さえられる。
「君の役目は"ノベリア"に行って、この惨状を伝える事……」
その子供の目に何かの紋章が浮かび上がると同時に、メジェットの思考は止まり、人形のように変化し、メジェットのギフト【瞬歩】によって猛スピードで、ノースの王都"ノベリア"へと駆けていった。
「ばいばぁい!」
レイはその背中を笑顔で見送り、
「《改変》……」
ポワァア……!!
メジェットの存在を、この村から消滅させた。
「これでよし!」
レイは必死に仲間達の敵を討とうと"青龍刀"を振るう『気』を操る男と、その必死な姿を嘲笑うロリドを見つめながら、屈託のない笑みを浮かべる。
(一度、絶望して死んでも、"四天王ごとき"に敗北して、エリアにお灸を据えられても、"君"は本当に変わらないなぁ〜……)
レイはフワリと宙に浮き上空に戻り、ロリドがイキイキと人間を蹂躙し、"魂"の味に打ち震えているのを眺めた。
〜作者からの大切なお願い〜
少しでも面白いと思って下さった優しい読者様。創作と更新の励みになりますので、【ブックマーク】をポチッと……。
下の所にある、
【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】
にしてくれたら、最高です!!
また、この作品を【ブックマーク】して頂いている方、わざわざ評価して頂いてた方、本当にありがとうございます! とっても励みになっておりますので、今後ともよろしくお願い致します!