〜ロリドとレイ〜
―――魔領 「死の森」
猛烈な倦怠感にロリドは目についた湖に降り立った。
(……ここはどこだ? 人間の国はまだか?)
どこまでも続く不毛の地。
変わり映えのない魔領に精神的な疲労は限界を迎えていた。それは"魔力枯渇"による影響が大きかったが、ロリドにはそれを確かめる術はなかった。
本来、食事も水も必要のない"悪魔"。
だが、元人間のロリドにとって、飲まず食わずでいる事のストレスはかなりの物であり、苛立ちと憎悪は増して行くばかりだった。
目についた湖に迷う事なく駆け寄ったが、降り立った瞬間に激しい眠気に誘われ気を失うように眠りについた。
「……だ、大丈夫ですか?」
身体を揺らされ、ハッと戦闘体制に入る。
ギュルンッ!!
即座に【具現化】した《魔手》を気配のする方向に伸ばし掴み上げる。
「くっ……う、うぅ……」
苦悶の表情を浮かべていたのは角の生えた子供。
エリアの教え通りに深く感覚を研ぎ澄ませ、その"小鬼"を探るが、気配は大した事はない。
(ふっ、ザコが。殺すか……?)
まだ倦怠感の残る身体に苛立ちながらも、《分解》を発動させようとしたが、小鬼の足元に転がっている果実が目に入る。
「誰だ? ……貴様も私の敵か?」
「うぐっ、ち、違い、ます……」
見るからにみすぼらしい布切れ一枚の小鬼。額の角は小さく、その他は人間の子供と比べても遜色はない。
(……魔物なのか?)
見た事もない生物を前にロリドは眉を顰めた。
「かっ……お、お助け下さい……。あ、『悪魔様』……」
ドサッ……
《魔手》を離し、小さく口を開く。
「それは食べられるのか?」
「ヒィッ……! は、はい! 倒れておられたので、お持ちしたのです……」
「……齧れ。毒味するのだ」
小鬼はオドオドと手を伸ばしてリンゴを手に取り、ロリドの言葉のまま一口齧った。
カシュッ……
何の異変もない事を確認し、ロリドは乱暴に小鬼からリンゴを奪うと、躊躇なく口に入れた。
口に広がる甘味と染み渡る果汁。
ロリドはニヤリと口角を吊り上げた。
それは、オドオドと自分を恐れている小鬼の表情も一役買っている。
(ククッ……これが正しい反応だ)
転生を果たし、初めて会った敵意を抱かず畏怖を抱く生物。それは、ロリドに自分が特別である事を教えてくれた。
「あ、悪魔様……! どうか、どうか、あの村の人間共を蹂躙してください!」
「……」
「僕は人間と鬼人との間に生まれた"半鬼人"……。父と母は何もしていないのに、アイツらが……」
ジワァッと涙を溜める小鬼にロリドは冷めた視線を向けながらもリンゴを齧る。
「お願いです。さぞ、有名な悪魔様なのでしょう? 敵を取ってくれるなら、なんでもします」
「……ふっ、なぜ私がそんな事をしなければならない? そもそも、ガキは嫌いだ」
「……お願いです。アイツらを……。悪魔様は"人間の魂"が大好物なのでしょう? 『食事』のついででもいいのです。どうか……どうか……」
小鬼の言葉にロリドは小さく首を傾げる。
「……悪魔が"人間の魂"を喰らう?」
「……? ま、まさか、『食事』していないのに、それほどのオーラを……? も、漏れ出るオーラはこれまで会った誰よりも強大なのに……」
「……それで? どうなるのだ?」
「……悪魔様は、魂を喰らう事で、失った魔力を補給する事が出来るのでは? 悪魔族にとって魂はどんな物よりも美味とお聞きしますが……」
顔を引き攣らせながらプルプルと震える小鬼の言葉にロリドはニヤァっと口角を吊り上げた。
魔王城での敗戦が頭には浮かぶ。
(ククククッ……。私が人間の魂を喰らう事で、"本来の力"を取り戻せば、魔王と同等かそれ以上の力があるに決まっている! オラリアのクソ共を蹂躙し、全てを喰らえば、あの忌々しい堕天使を陵辱し、澄まし顔の魔王すら……)
グシャッ!!
ロリドはリンゴをグッと握り潰しペロリと唇を舐めた。
「……案内しろ。お前の望みを叶えてやる」
「……!! あ、悪魔様!! うっ……うぅ……あ、ありがとうございます! 本当に……、本当に……」
「私はロリド。この世界を手にする王だ……」
「……はい! "ロリド様"!!」
ロリドは1匹の小鬼を拾った。
名前のないその小鬼に、「奴隷」から"レイ"という名前をつけ、レイの両親の敵がいる村へと向かった。
自分を畏れ、敬い、慕うレイの存在が"これから"のロリドにとって重要な意味を持つ事を、ロリドは知らなかった。
悪魔についての知識を持ち人型を形成するレイ。
レイの態度と教わったばかりの『超感覚』での裏付けにより、ロリドは忠実な奴隷を手に入れた気になっていた。
『破滅の転生者』
その一歩目が踏み出された事は、ロリドの先をトコトコと歩いている、悍ましい笑みを浮かべた『レイ』しか知らなかった。
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