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兄弟水入らず



―――カーティス伯爵邸 イルベールの自室



 迷惑をかけている自覚のあるギルベルトはイルベールに日頃の感謝と謝罪を伝えるためにイルベールの元を訪れていた。


 追いかけ回してくるディナと、飛んできた義父"ロミオ"。


 夕食時にさんざん持て囃され、(これは長くなりそうだ)と避難して来たのが、1番の理由だったが、イルベールはそんなギルベルトを察して、優しく微笑み匿ってくれた。



「兄様。こうして2人で晩酌するなど初めてですね?」


「そうだな。……ハハッ、ギルはいつも大変そうだから仕方ない」


 イタズラな笑みを浮かべるイルベールにギルベルトは少し口を尖らせる。


「……の、望んでいるわけではありませんよ」


「ああ。わかっている」


 イルベールはギルベルトの頭をポンッと撫で、弟の帰宅に緩みっぱなしの頬を更に緩めた。


(ふっ、これでは姉様の事をとやかく言えないな……)


 極度なブラコンのリリムに対し、「ギルはもう幼子ではありませんよ!」などと言っていたのに、いざ、ギルベルトを前にすると頬が緩んでしまう。


「兄様……、改めて申し訳ありません。父様にお聞きしましたが、俺が好き勝手に行動して、その皺寄せは全て兄様に……」


 苦笑しながら軽く頭を下げるギルベルト。


 ギルベルトの行動は、結果的に世界を平和に導く事ばかりである。


 国王からの熱視線はもちろん、数多くの貴族がギルベルトとの接触を熱望しており、それはオラリア王国だけに留まらない。


 伯爵家であるカーティス家。


 自国の王家や公爵家からの招集や他国の王族をないがしろにする事は許されない。


 『領主である父は領地にて民の安寧を。

  社交界での立ち回りは自分が……』


 今や勇者として世界に名が広まった弟ギルベルト。

 欲深い権力者達を諌め、上手く調和を図っているのはイルベールの功績が大きかった。


 様々な雑務に度重なる会合。

 毎日、忙しない日々を駆け回っている。


 だが、イルベールはギルベルトを愛して止まなかった。何よりも、世界中から求められているギルベルトが誇らしくて堪らなかった。


 自由奔放な姉。

 予期せず『巻き込まれて』しまう弟。


 その間に挟まれ、カーティス家の次期当主としての責務を果たそうと努力を怠らないイルベールはギルベルトに感謝していたのだ。



「ふっ、謝罪などする必要はない。ギルの行動は確実に守るべき民の幸せに繋がっている」


「で、ですが、頭の固い貴族達もいるでしょう?」


「ははっ、問題ない。ギルは何も心配する事はないぞ? ギルのおかげでたくさんの権力者との会合の場が出来ているんだから……」


「……兄様」


「話しの通じない"上の者達"の諌め方も随分と身についた。ギルのおかげでたくさんの人脈ができた賜物たまものだ。……趣味嗜好を精査し、その人脈を駆使して望む物を提供するだけ……。それはカーティス家の発展に繋がり、それらはギル、お前の功績だぞ?」



 イルベールの言葉にギルベルトは苦笑する。


 言葉にすればひどく簡単な物に聞こえるが、いざそれを実行に移すためには、並々ならぬ努力と臨機応変に最善を選択する判断力が必要であるとわかっている。


 人脈を築きすぎてもバランスが崩れてしまう。

 その絶妙な"調整力"は『逃げ癖』のある自分には絶対に身につかない物だと理解できるからである。



「心から尊厳しますよ、兄様……」


「ふっ、"勇者様"の威を借りて、俺は俺にできる事をこなすさ! このカーティス領の発展と民の幸福を守るためにな?」


「……ハハッ、カーティスの民は幸せ者ですね!」


「この地の基盤を築いた祖父様、そして変革をもたらした父様、発展させるのは俺さ。無茶苦茶な姉と、"可哀想で可愛い弟"の支えを受けてな?」


 イルベールはまたギルベルトの頭を撫でた。


 ギルベルトが『巻き込まれ体質』に絶望しなかったのは、力を与えてくれた姉リリム……、何よりも、"奴隷制度の撤廃"に奔走していた父と若くして亡くなった母に代わり、優しく寄り添ってくれる兄イルベールの存在が大きかった。


「……お、俺は魔王討伐なんてしませんからね? それから、しばらくは屋敷に置いて下さい! もちろん、俺が帰った事は秘匿してくださいよ?」


 少し照れたギルベルトは、全てを理解し包み込んでくれる存在であるイルベールに絶大な信頼を置き、とても素直に甘える。……甘えられる。



「ふっ、任せておけ。いつまでもゆっくりとすればいい……」


「ありがとうございます、兄様」


「どうせ、すぐに『巻き込まれる』だろうしな。ハハッ」


「ふ、不吉な事を言うのはやめて下さい!」


「アハハッ」



 夜は深くなっていく。


 昔話に華を咲かせ、他愛もない話しで笑い合う。


 すっかり酔い潰れてしまったギルベルトにイルベールは「ふっ」と優しく微笑み、毛布をかけた。


 屋敷の窓からカーティス領を見渡し、緩んだ頬のまま大きく伸びをする。


(……しばらくゆっくりさせてあげてくれよ?)


 イルベールは心の中で"世界"に声をかけ、最愛の弟の安息を切に願い、



(さて、ノース王国に行かなくては……)



 ギルベルトとの時間を優先したツケは大きい。



「では、行ってくる」



 まだ眠っているギルベルトの頭を撫で、イルベールは屋敷を後にした。




〜作者からの大切なお願い〜


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 イルベール、素敵!

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― 新着の感想 ―
[一言] 兄様、本当に苦労してそう… でも素敵な兄様ですね!
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