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し、知るかッ!!




―――水の都 アクアード 




 八魔将、氷剣鬼人"ザク"との戦闘を終えて、沸き立つ調査兵団、冒険者、アクアードの住人。



「恐ろしいほどに強い!! これが勇者様の力!」

「"人類の希望"はここに……」

「世界を導くお姿をこの目にできた!!」



 興奮のままに声をあげる者達。

 中には俺に跪き、祈りを捧げる者まで登場する始末。


(に、逃げてぇえええええ!!!!)


 絶叫と共に逃げようとしたが、若女将に何の挨拶もしないのは失礼すぎるので、ギリギリ踏みとどまった。


「ギル様の魔力解放に『幻術』が掻き消されたようです。うぅ……ギル様、ごめんなさい……」


「……これは"世界"が俺を嵌めようとしてるだけだからユノは一切悪くないぞ?」

(泣かないでくれ! 俺が悪かった!!)


 ユノの頭を撫でながら顔を引き攣らせる。



「「「「勇者様、勇者様ッ!!」」」」


「……」

(う、うるっせぇ!! クソがぁあ!!)



 歓声に更に引き攣った笑顔を浮かべながら、セリアに視線を向ける。


 短距離の【閃光】でふらふらながら、もう動けているセリアは無表情でコクンッと頷くと、メイド服からハンカチを取り出し、手渡してくる。


「ご主人様、これで汚れを……」


「……あ、あぁ」

(「とりあえず【閃光】で避難するぞ?」って目配せしたんだが……)


 とりあえず受け取ったハンカチで魔人の血で汚れた左手を拭うと、めちゃくちゃパンツだった。


 無表情で、仄かに頬を染めるセリア。


「……ご安心ください。セリアはトイレになどいかないので、清潔です」


「……」

(脱ぎたてかよッ! 何かちょっとあったかいと思ったわ!)


 ミーシャは座り込んでいる俺を支えるように身体を寄せてくれ、俺はユノを抱いたままミーシャの肩を貸してもらい立ち上がる。


「旦那様。"相変わらず"、すごい事に……」


「あ、あぁ……」

(俺は絶対に呪われてる!)


 

 正直、1番、関わり合いになりたくないのが『調査兵団』。まだか、まだか、とタイミングを伺っているディナ姉を無視し続けているのには理由がある。


 "魔領"の調査をしている黒ローブ。


 どうせ、「同行してくれ」などと、スローライフからは1番かけ離れた提案をされるに決まっている。



「流石はご主人様です。魔人討伐だけでなく、新たな源泉を掘り出し、アクアードを更に発展させる算段まで……」


「……」

(ぶん殴ったら、出てきただけ……)


「ギル様はそこまで考えていたんですね!? 僕もセリアちゃんみたいに、ギル様の行動の目的がわかるようになりたいです……」


「……」

(違うんだよ、ユノ。このポンコツメイドに、俺の心の内なんて一度も伝わった事ないんだよ?)


 ユノは未だ濡れた瞳で俺の首元に顔を埋める。


(か、可愛いからいっか……!!)


 横で苦笑するミーシャの後ろで、モジモジしているディナ姉と目が合う。いや、目が合ってしまった。



「ギ、ギル君……」


「……」

(そ、それ、どんな顔ッ!?)



 ディナ姉は白い頬を染め、真紅の瞳を潤ませる。もっとクールでまさに高嶺の花のような印象だったが……、その、あの……、何か、すごくいい。


 姉様の前と俺の前では少し態度が違ったのはよく覚えているが、"コレ"は"少し"とは言いがたい。


「ディナ姉……」


「ギル君……覚えてて、」


「"旦那様"? こちらは?」


 ミーシャは"旦那様"を強調して、俺にニッコリと微笑みかける。それはまさに、国王から裏側を任されているストロフ公爵家の令嬢に相応しい圧がある。


「えっ、あの、ね、姉様が冒険者時代、同じパーティーだった"ディナ・ローレンス"さんだ。今は、確か、調査兵団の団長だったと思うけど……」

(こ、こっわ! うちの嫁さん、こっわ!)


「……そう。初めてまして、"ディナ様"。"ミーシャ・カーティス"と申します」


 ミーシャは綺麗で完璧なお辞儀をすると、ディナ姉にニッコリと笑顔を浮かべた。


「……あ、これは申し訳ない。調査兵団、団長を勤めている、ディナ・ローレンスと申します。"勇者様"の奥方である、ストロフ家のご令嬢でございますね。噂に違わぬ見目麗しいお方だ」


「いいえ。私など、ディナ様に比べれば……」


 2人は笑顔で微笑み合っているが、


(な、何か2人とも目が笑ってないんだが……?)


 なぜか火花が飛んでいるように見えるのは俺だけなのだろうか?



「……あの人、『良い人』だけど……、なんだか僕とセリアちゃんとミーシャちゃんに……」


「……ん? どういう事だ?」


「敵意……じゃないかな? なんだか拗ねてるような」


 俺に抱かれたままのユノは首を傾げている。エルフの聴覚に感じるものがあったのだろうけど、正直、全く意味がわからない。


(……ま、まさか、俺が『勇者業』をサボってると思ってるのか? その原因が、ユノ達だと勘違いして……? ふざけろ! 魔領なんて絶対行かないからなッ!!)


 ディナ姉の後ろには黒ローブの集団が、ゾロゾロと集まってはコソコソと何やら話している。


 周囲の『勇者コール』は鳴り止む気配がなく、全く聞こえないが、どうせロクな事を話していない事はわかっている。



 ディナ姉はミーシャに任せて、面倒な事にならないようにコソコソと避難すると……、


「勇者様。初めてまして! 私はアクアードの冒険者ギルドを任されてる"ダン"って者です。この度は、本当にありがとうございました!」


 スキンヘッドの男が声をかけてきた。


「あ、ああ。"ギルドマスター"ですね」


「はい! いや、それにしても圧巻でしたなぁ〜! 職業柄、色んな魔法やギフトを見てきましたが、勇者様の戦闘はまるで別次元……。恥ずかしながら、ほとんど視認できませんでしたよ! アハハッ……」


「……い、いえ。そんな大層な物じゃないですよ」


「まさか!! 『未来』が見えるのは言わずもがな。高速移動や桁外れの腕力……、それに、原理のわからない剣と、高速での剣戟。ふふっ……、私の目に狂いはありません!! 勇者様は複数のギフトを所有しておられるのでしょう!? 間違いありません!!」


「……」

(おい、おいおいおぉおおおいッ!!)


「いやはや……、単独での竜種討伐。にわかには信じられませんでしたが、疑いの余地はありませんね。わずかでも疑心してしまった事を謝罪させて頂きます。本当に申し訳ありませんでした……」


 このスキンヘッドは俺の敵だ。


 俺からスローライフを奪おうとしてるに決まってる。

 

 ふざけるな! 何が複数のギフトだ!

 『身体強化』しかしてないわ!

 勝手に勘違いして、勝手に崇めやがって……、




「"ダン殿"……、お、俺を持て囃すのはやめて頂きたい!!」



 俺の心の叫びが周囲に響き渡る。


 驚愕するダンと、静まり返った歓声。



「……も、申し訳ない!! そうですよね……、『まだ魔王を討ったわけではない!』と……、勇者様は"安息の地"を勝ち取る、その日まで……」


「……え、いや、そうじゃなく、」


「う、うぅ……素晴らしい!! こ、これぞ、私達の誇り……。勇者、ギルベルト・カーティス様の心根に、このダン・フォルラン、感服致しました!!」



「「「「「うぉおおおお!!!!」」」」」


「ギルベルト様ぁ!!」 「勇者様!!」



 一際大きくなった歓声。


(……も、も、もう知らん!! ふざけやがって!)


 若女将への義理?

 オンセンへの未練?

 もう知るか!!


 俺はセリアに視線を向ける。


「収納袋は持ってるな?」


「はい、ご主人様。こちらに……」



 俺はセリアから収納袋を受け取ると、売ればバレるという理由で手放していなかった国宝"転移魔石"と、"完全回復薬フルポーション"を数個取り出し、ボロボロッと涙を流しているダンに押し付ける。



「"ヒノキ"の若女将"サクラ"に転移魔石を……。フルポーションは負傷者達に使うか、他国に売り"ここ"の修繕費にでも当ててくれ。頼んだからな?」


「……え? あ、いえ、勇者様!?」


「わかったか? 『世話になった』とサクラに伝えてくれ! ギルマスのあんたを信用して託したからな?」


「あ、ちょ、今夜は宴を、」


 俺はダンの静止を振り切り、セリアをグイッと引き寄せる。


「ご主人様……」


 無表情で真っ赤になったセリアを片手で運びながら、ディナ姉と火花を散らしているミーシャに声をかける。


「おいで! ミーシャ!」


「……! えっ? あ、うん!!」


 ディナ姉と話していたミーシャはすこし照れたように慌てて俺に駆け寄り、ギュッと腰に手を回す。


「セリア。一度、カーティス領に戻る」


「承知致しました、ご主人様」

「わぁい! 僕、ギル様のお屋敷大好き!」

「では、ディナ様……、失礼致します」


「ディナ姉! 久しぶりに会えてよかったよ」


 そう言い残し、クルリと背を向けてセリアに合図すると、


「《閃光フラッシュ》」



ピカァア……



 『世界』を置き去りにする『真っ白の世界』。


 ギュッと胸を押し当ててくるミーシャ、「わぁあ!」と無邪気に声をあげるユノ、俺に抱えられて頬を染めているセリア。


 そして……、


「な、なんて事だ!? こんな事って……」


 俺の背中には"初恋のおっぱい"。


「な、何してんの……? ディナ姉……」


 俺はピクピクと顔を引き攣らせた。





 ギルベルトが去った後のアクアード。

 湧き上がる歓声は地鳴りのよう。

 

「『安息の地』は目の前だ!! 勇者様は旅立たれた!!」


 ダンの涙ながらの絶叫に宴会は3日間ぶっ通しで行われる事になった。


 一方……、


「……だ、団ちょ。ミラ達、どうすればいいのよ? ……ゆ、勇者様……」


 『失禁少女』、調査兵団副団長"ミラ・クリスティーン"は顔を引き攣らせながらも、ポーッと頬を染め、ギルベルトから受け取った上着をギュッと握りしめていた。





〜作者からの大切なお願い〜


 少しでも面白いと思って下さった優しい読者様。創作と更新の励みになりますので、【ブックマーク】をポチッと……。


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 【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】


 にしてくれたら、最高です!!


 また、この作品を【ブックマーク】して頂いている方、わざわざ評価して頂いてた方、本当にありがとうございます! とっても励みになっておりますので、今後ともよろしくお願い致します!


 次、ロリドsideです!

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