焦燥、安堵、ディナの心中
―――vs魔王軍 八魔将 "ザク"
(何があったんだ!?)
パッとアクアードに視線を向けるが、特段変わった様子はない。
自分の氷の玉に身体を傷つけられ、額の角を苦悶の表情で押さえている氷鬼人が"見える"が、俺はもうそんな事どうでもいい。
(……"八魔将"……魔王軍……)
ゾクゾクッ……
ユノに何かあったのだとしたら……。
ミーシャに……、セリアに……、俺の大切な物に何かあったら……、
キィイイイイイイッ!!!
氷鬼人が奇声を上げると、傷ついた身体に氷を纏い始めた。
「魔王軍、"八魔将"の"ザク"!! エリア様に、オンセンを献上するのだぁあ!! 邪魔するではない!!」
ヨダレと血を撒き散らしながら叫ぶ「ザク」。
ドガッ!!
俺は地面を蹴り出し一気に超加速しながら、宝剣から6本の刃をイメージし、
グザッ、グザッ、グザッ!!!!
手足と腹と頭に剣を突き立て地面に固定した。
「グァハッ……」
「おい……。お前、1人か……? 別働隊はいるのか?」
「……アガッ……グゥア……き、貴様……何者……」
「……さっさと答えろ!! 早く!!」
「……し、死ね……」
俺はディナ姉のように甘くはない。昂った心の内、意識せずとも《天眼予知》、いや、なんだか"よくわからない"状態になっている。
俺に不意打ちは不可能だ。
スローモーションの世界。
ゆっくりと吹き荒れ始めた吹雪。
ピキッ、
ピキピキッ……
ゆっくり、ゆっくりと展開されそうでされない『なにか』の魔法? スキル? が地面を凍らせていく。
俺は宝剣を持っていない左手に魔力を込め、
「……ぜ、《絶対零度》!!」
「雰囲気出してんじゃねぇ!!!!」
超絶ドヤ顔を浮かべたザクの顔面を思いっきりぶん殴った。
ボグゥゴウッ!!!!
顔にめり込む俺の拳と、抉れて行く地面。
ガッ、ドゴッ、バッ、ガゴッ、ググガッ!!!!
スローモーションで地面にのめり込んでいく俺。
周囲にまで広がっていく割れた地面。
モワァ……
肌を刺していた冷気が消え、生暖かい空気が頬を撫でた瞬間に、俺は跳躍して宝剣に魔力を流し込む。
ザッ、ザッ、グザッグザッグザッ!!!!
出てきた"核"のような物も一瞬で斬り刻み、「チィッ」と舌打ちをする。
(クソッ! 無事でいろよ。3人とも……)
割れた地面からはオンセンが漏れ出て、ディナ姉達や住人らしき人達が歓声を上げているのが"見える"が、俺はそんな物には興味を示さず、全身に魔力を流し込み、一気に超加速して宿へと向かおうとすると……、
ピカァアッ……
スローモーションの世界だと言うのに、高速でこちらに向かってくる眩い光が"見えた"。
「はぁ〜……」
(ビビらせやがってぇええええ!!!!)
深く深く息を吐きながら、ドサッと座り込む。
「……ギル様!! ごめんなさい!!」
地面に降り立った瞬間に、トコトコと涙を流しながら駆け寄ってくるユノと、反動で地面に座り込んでいるセリアとそれを支えるミーシャ。
「うぅ……うう……! ギル様ぁあ!!」
俺にダイブして来たユノを抱きとめながら、もう一度深く息を吐く。
(無事だったんだな……。本当によかった)
感じた事のない安堵に泣きじゃくるユノをギューッと強く抱きしめた。
※※※※※ 【side:ディナ】
(……こ、これが今のギル君)
全身から醸し出されている青白いオーラのような物は恐らくギル君から漏れ出た魔力。黒髪は逆立ち、紺碧の瞳はあまりに冷酷で果てしなく美しい。
高速で繰り広げられる戦闘は視認する事も難しい。
――ふっ、私なんて全然大した事ないわよ。
かつての仲間、一緒に冒険者として自由を謳歌した『天才』にして『最強』。神に選ばれたとしか思えないギフト【全魔術】の"リリム・カーティス"。
仲間たちはそんな"リリ"に「嫌味かよ! 大賢者!」なんてリリの謙遜を笑ったけど、
――アンタ達は、なぁんにもわかってないんだから。
頬を染めて優しく微笑んだリリの言葉を今、やっと理解した。
(……"これ"が『ギルベルト・カーティス』……)
鬼神の如く怒りに顔を染めたギル君に身体の震えが止まらない。周囲の者達も絶句して圧倒的な力を前に沈黙を貫いた。
形状が変わる剣先のない綺麗な剣……。
周囲の空気が重くなるほど……、視認する事が出来るほどの魔力量。
おおよそ"人間"の範疇を超えている移動速度と腕力。
――ディナ姉。おっぱいってすごい柔らかいね!
私の胸を一心不乱に揉みしだいていた天使のように可愛いかった子供と同一人物だとは思えなかった。
跡形もなく消え去った八魔将、最強の魔人。
氷剣鬼人の「ザク」。四天王に最も近いとされている魔王軍幹部をこうもあっさり蹂躙した。
世界から選出され、練兵に練兵を重ねた調査兵団の精鋭との連携、私の全ての力でなんとか首を落とした相手を……。
荒れ果てた大地からはオンセンが湧き、オンセン独特の匂いが周囲には充満している。
湧き上がる歓声になど目をくれず、アクアードを見つめる真剣な眼差し。
ゾクゾクッ……
(ぬ、濡れてる……?)
――ギルをたぶらかしたら、ディナでも殺すわよ?
リリの声が頭に響く。冗談めいた口調だったけど、目は一切笑っていなかった。あの時は、もう"完治"したと思って引いたけど……、
(……やっぱりそうなのね)
自分の身体は自分が1番わかっている。
『私はギル君じゃないと濡れない!!』
(悪いわね、リリ……。私だって一度でいいから"そういう事"してみたいのよ!!)
未だに魔力を抑えようとしないギル君に駆け寄よろうと一歩を踏み出すと、
ピカァアッ!
眩い光に包まれた。
現れたのはこの世の物とは思えないほど可愛らしい、尖った耳の幼女と、作り物のように美しい銀髪に青い瞳のメイド、明らかに高貴な雰囲気を醸し出す、絶世の美女。
フワッ……
急に軽くなった空気はギル君が魔力を抑えた証。
ギル君の胸に泣きながら飛び込んだ幼女を愛おしそうに抱きしめるギル君の表情に、また一つ"潤った"。
魔領の調査を一任されている、世界から優秀な人材を集められて作られた調査兵団、団長"ディナ・ローレンス"。
『孤高の剣姫』。
誰にも靡かない高嶺の花。
騎士道を重んじ、冷静沈着のはずの彼女は、幼女が羨ましくて涙目になっていた。
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