〜ロリドと魔王〜 ①
―――"魔領"
魔王城の裏手にあるドス黒い湖の中に一体の"悪魔"が目を覚ました。
(……ここは?)
一切の波がない湖にぷかぷかと浮かびながらしばらく放心していたが、徐々に頭は思考を開始する。
(私は……死んだのでは……?)
最期の記憶は、憤怒と憎悪だけを抱きながら自らを【分解】したという物。臭く、暗く、淀んだ地下牢で自我が崩壊し、自由を求めて自害した時の物だ。
ピチャッ……
覚醒しきっていない頭で、半ば無意識に自分の手を空に掲げ、その姿に戦慄する。
人間の物とは思えない鋭く尖った爪に、肘の辺りまで伸びた真っ黒の皮膚。
(……何が……どうなって……?)
自分の手を見つめて絶句するのは、オラリア王国の"元"第一王子、ロリド・ジャン・オラリア。
ギルベルト・カーティスの功績により、全ての悪事が暴かれたクズである。
「つ、ついに……ついにお生まれになられた!! "エリア様"の子が!!」
突然の叫び声にロリドは視線だけを叫び声を上げた者に移し、大きく目を見開く。
「……サ、"サイクロプス"か?」
湖に大きな影を伸ばす、一つ目の巨人。災厄級の魔物の姿に直感的に死を覚悟するが……、
バクンッ!!
大きく脈打った心臓と共に、身体に満ちる全能感に"どうすればいいのか"を理解する。
(死ね……!!)
無意識にサイクロプスに手を伸ばし、頭を掴むようにイメージすると、
ズズズッ……
自分の手から真っ黒に形作られた、巨大な手はイメージ通りにサイクロプスの頭を掴む。
「アガッ?!」
完璧な『不意打ち』。
自分が忠誠を誓う魔王様の子供からの行動に、サイクロプスは困惑の声をあげるが、ロリドはそんな事など無視し、
グチャッ!!
手をグッと握り、躊躇なく頭を握り潰した。
ドゴォーンッと大きな音を立てて倒れた災厄級の魔物にロリドはニヤァと口角を吊り上げる。
湖に降ってくる血の雨にロリドは感動に打ち震え、身体の内側に駆け巡ってくる"熱い物"にゴクリと息を飲む。
「……ククッ……。クハハハッ!!!!」
(やはり、俺は選ばれている……!!)
自分が特別な存在に生まれ変わった事を理解した。徐々に覚醒していく5感と肌を刺す無数の気配。その中でも一際、大きな存在感を放つ者の方にチラリと視線を向けると、そこには巨城が聳えていた。
ザパァ……
イメージ通りに作り出される黒い塊を身体から伸ばし、真っ黒の湖の上に立つと、微かに鏡のようになっている水面で自分の姿を確認する。
白髪に真っ黒い角が一本。真っ黒の目玉に銀色の瞳。肘から先と、膝から先の皮膚は真っ黒だが、他は人間とも遜色はなさそうだ。
(……『悪魔』か?)
自分が人間ではない事はとっくに理解していた。イメージ通りに作り出される黒い塊はおそらく魔力の塊。
目についた岩に手を伸ばし黒く形作った手で触れる。
(《分解》……)
ボロボロボロッ……
「ククッ。クククッ……。クハハハッ!!」
ロリドは湖の上で手で顔を覆いほくそ笑む。
【具現化】と【分解】。
次にすべき事もわかっていた。
禍々(まがまが)しいオーラを漂わせているサイクロプスの亡骸に向かって"黒い手"を伸ばし、巨大な魔石を取り出すと自分の目の前まで引き寄せる。
そっと血塗れのその魔石に触れると、魔石の中の『核』を確認。《分解》して魔石を破壊し、目の前に浮遊している核を手に取り、そっと口に入れる。
ゾクゾクッ……
(……【石化】?)
本能的に理解してしまう力の使い方。
【具現化】、【分解】、そして【強欲】。
サイクロプスの固有スキルが【石化】であり、魔石の核を喰らい、そのスキルを奪った事を実感する。
(最高だ……。やはり私こそが全てを手に入れるに相応しい!! 待っていろよ? 全てを後悔させてやるぞ、あのクソ共……)
自分に逆らったオラリア王国の面々の顔が浮かび、全てを奪う事を決意する。
そして……、
「"ギルベルト・カーティス"……」
ロリドは絶対に許す事ができない存在の名前を口にし、湧き上がる憤怒と身を焦がす憎悪に深く息を吐くが、
「ククッ……。最高の気分だ……。もう誰も私には逆らえない。"お前"はもう終わりだ」
堪らない全能感にロリドは笑みが止まらなかった。
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救いようのないバカが帰って来ました。
次、魔王登場です。