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平常運転の"俺"



―――アクアード 高級宿「ヒノキ」



 アクアードを訪れて10日。



ドタドタドタドタッ!!!!



 この高級宿"ヒノキ"にはあり得ないほどの慌てた足音に俺はピクッと反応し、顔を引き攣らせる。



「『勇者様』!! アクアードに"魔人"が現れたようです!! どうか、どうか、この地をお救い下さい!!」


 若女将ワカオカミの言葉に俺はニッコリと笑顔を浮かべながら、


「……すぐに向かいます……」


 などと微笑んだが、


(結局、こうなるんだな……)


 引き攣った笑顔を浮かべたまま、俺はユグドラシルの枝で作られたエルフの宝剣を手に取った。




※※※※※



「……あのお客様……。もしかして『勇者様ご一行』なのでしょうか……?」


 極東の国をモチーフにして作られている高級宿"ヒノキ"の若女将の言葉に小さく息を吐き、ニッコリと笑顔を浮かべる俺。


「……なぜですか?」


「……メイド姿の美しい従者と、とても可愛らしい幼女を連れて、"麗しい奥様"は立ち振る舞いが洗練されており、とても高貴なお方とお見受けしましたので……、それに……あの……」


 若女将は困惑した様子でチラチラと俺の顔を伺う。


(うん。めっちゃ噂になってるもんね……。勇者一向と同じ4人組で、高級宿の最上位の部屋に何日も連泊してるもんね。そりゃ、疑いたくもなるよね……)



 "本来"であれば……、



 大々的に『勇者誕生』を触れ回った、あのおっさん(国王)に殺意が湧き、冒険者ギルドでの失態に涙がちょちょぎれ、

 

(も、もしかして7日間、ほとんど宿から出ていない"自堕落な勇者"だとでも思ってるのか……? ってか、ほっとけよ! 仮に勇者だったとしても休息くらいするだろ!!)


 こんな感じで心の中で絶叫しながらも、そんな物は微塵も感じさせず、ニッコリと紳士の笑顔を浮かべているのが俺だろう。



 だが……、


 

 つい先程、『現実逃避』を済ませ、もう全てが満たされている俺はどんな事でも余裕だ。誰かが言っていた『賢者タイム』とはよく言った物だ。



(世界は美しい……)



 悟りきっている俺は、若女将に余裕の笑顔を向けたままクスッと笑う。


 もう勇者がどうとか、どうでもいいじゃないか。

 世界は幸せに満ちてるんだから、それだけで……。

 魔王だって大人しく"魔領"にいるんだろ?


 わざわざ討伐しなくたっていいじゃない。

 みんな、みんな、生きているんだから。

 


「『勇者様』なのであれば、お代を頂くわけにはいかないと思ったのですが……」


「……」

(え? マジで……? いいの?)



 一瞬で欲に目が眩んだ俺は賢者タイムを終える。


 いやいや、ダメだろ。

 魔王を討伐する気なんて微塵もないんだから。

 ……え? でも、好意を受け取らないのは失礼か?

 いや、無理無理! そんなヤツ紳士ではない。


 それに……、


 勇者だなんて絶対認めないからな!!



「……あなた様が『勇者様』なのですか?」


「ハ、ハハッ……た、た、ただの没落貴族です……」

(勇者です! タダにして下さい! 一生ここで暮らさせて下さい!!)


「……ふふっ、子供の頃から、この宿でたくさんの貴族の方を見て来ましたが、従者にあれほどまでに慕われる貴族など見たことがありません」


「……えっ?」


「あれほどまでの徹底ぶり……。聞けば、勇者様にはどんな死地にも付き従ったメイド様がおられるとか……」


「……」

(何勝手に推理始めてんだ、この女……) 


 俺はもう決めつけてかかっている若女将が怖すぎて笑顔を崩すことも、言葉を発する事もできない。



 正直、嫌な予感はしていた。


――セリアはご主人様の専属メイド。セリアは、他の者がご主人様の身の回りのお世話をする事を黙認できません。


 高級宿に宿泊していると言うのに、セリアは調理場を占領し、部屋の掃除や洗濯も勝手にこなしていた。そして、それが完璧すぎるので、仲居ナカイさん達からかなり慕われているようなのだ。


 観光地において、ただでさえ目立つメイド服を一切脱ごうともせず、様式の違う宿で、完璧に仕事をこなす『メイド』は俺の気持ちなど理解する事のないポンコツだ。



「ギ、ギルベルトとは容姿が違うでしょう?」


 俺がポツリと呟くと、若女将はハッとした様子で涙ぐみ、合点が行ったように笑みを浮かべる。


「……なるほど。なんと素晴らしい……」


「……?」


「『弱者』を気遣い、勇者としての権力を行使しないために、なにか魔法を使用しているのですね……。勇者様の心根に感服致します……」


「……」

(何でそうなった!?!?)


「流石は世界を導くお方……。権力を乱用する事もできるでしょうに……」


「……」

(俺は世界を導かないし、俺は逃亡中……、いや、スローライフ中……。勇者でもないし、権力なんてそもそもない。……だから感動するんじゃない!!)


 俺の心の叫びは、誰にも届かないのかと諦めかけたその時、セリアがひょこっと顔を出した。


「あっ。"セシリア様"。いま『勇者様』の心根に心から感服致していた所でございます」


「……そうですか。なるほど」


「ちょ、ちょっと待て! お前は何も、」

「やはりご主人様のオーラは隠し切れる物ではありませんでしたか……」


「……」

(隠し切ってるわ! ふざけんな! なんだよオーラって!!)


「ええ。噂を聞いた瞬間にビビッと来たのです。このお方が勇者様に違いないと……」


「"サクラさん"……」


「セシリア様……」


「……」

(自然に名前呼ぶほど仲良くなってんじゃねぇ!)


 こうして俺が勇者であると信じきった若女将が誕生した。


 未だに頬を赤く染めているミーシャが必死に「どうか、ご内密に……!」と俺のためを思ってくれていて泣きそうになった。


 唯一の救いは資金難が去った事。


 言いふらされて人々が殺到するのでは?などと、ビクビクしていたが、若女将は約束を守ってくれているようだ。



(これ、結果的に最高の着地点じゃないか!?)



 そんな事を考えていた時もありました。



※※※※※



「……いざって時はストロフ領かカーティス領に避難するんだぞ?」



「旦那様。気をつけてね?」

「ギル様は世界の救世主様です!」

「ご主人様、セリアは夕食の準備を進めておきます」


 3人の一切心配していない、いつも通りの信頼の眼差し。そんな3人の落ち着き方にアワアワとする若女将は、「どうかご武運を……!!」などと涙目だ。



「じゃ、じゃあ、行ってくる……。ま、任せておけ」


 カッコつけたが、引き攣る笑顔。


 3秒後には涙目になりながらも、全身に魔力を流し込み、《身体強化》を展開して、《予知プレディクション》を連続で発動させながら振り返る事なく、駆け出した。




ドゴォーンッ!!



 アクアードの城壁の外で戦闘している音が響いているのを聞きながら、


("魔人"って人型になるくらい上位の魔物だろ? そんなの無理に決まってるじゃねぇか、クソッ! 何が『勇者』だ! あぁー!! 逃げてぇええええ!!)


 俺は心の中で絶叫し涙を浮かべた。




〜作者からの大切なお願い〜


 少しでも面白いと思って下さった優しい読者様。創作と更新の励みになりますので、


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 下の所にある、


 【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】


 にしてくれたら、最高です!!


 豆腐メンタルなので、何卒!!


 また、この作品を【ブックマーク】して頂いている方、わざわざ評価して頂いてた方、本当にありがとうございます! とっても励みになっておりますので、今後ともよろしくお願い致します!


 まだ更新しまーす!

 次、新キャラ出ますのでお楽しみに!

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