【SS】 念願のオンセンとか初めてとか……
―――水の都『アクアード』 逃亡2日目
念願の観光地に到着し、「オンセン」に疲労の全てが流れ去っていくのを感じながら、
(今日はこの後……)
などとゴクリと息を飲み、入念に『大事な所』を洗った。
◇
王宮からの《閃光》。
「どこでもいい」とは言ったものの、相変わらずの俺は、面倒事に引き寄せられた。降り立った先に待っていたのは、
ウオォオオオオッ!!!!
めちゃくちゃでかい大剣を持っているキングオーガが住まう孤島『鬼ヶ島』だった。
「セリア! 何して……。いや、もういい!! ユノ! 『幻術』で隠れててくれ! セリアはいざって時のためにミーシャを守っておけ!」
「はい、ご主人様」
「僕に任せて下さい! ギル様!」
「気をつけてね? 旦那様!!」
「……」
(メイドと幼女とお嫁さんからの信頼がツラい!!)
一切、心配していないような3人からの視線に涙目になりながらも、ゴブリンキング同様、災厄級の魔物のキングオーガに集中する。
一度足を踏み入れたら、誰も出る事は出来ないと言われる絶海の孤島。資源は乏しく、人では生活出来ないと言われており、それは魔物も例外ではない。
キングオーガの出現は『海賊』の出現を意味する。
行商船を襲っては、食糧や人間を食い散らかし、世界の物流が止まってしまうのだ。
『何者だ? 我らオーガが海の覇権を握るのだ!!』
「……『シーサーペント』の方が海じゃ強いんじゃないのか?」
(すぐに出ていくから、許してくれ!!)
普通に喋るキングオーガに顔を引き攣らせながら、心と言葉が逆になってしまった事に、「ふっ……」と悟り顔の俺だ。
『あの海蛇などワシの敵ではないッ!!』
ザパァーーンッ!!
キングオーガの叫びと共に現れたのは『シーサーペント』。
『私が海の覇者だ! 大きいだけの大鬼がッ!!』
災厄級の魔物の同時出現に、たらりと鼻水が出る。
(なんでいつも『こう』なる!!)
慌てて3人の様子を伺うと、王宮で貰っていた『収納袋』から立派なテーブルを広げていた。
セリアが紅茶を淹れていて、ミーシャとユノは仲良くテーブルに着いて茶会を開いている。
「緊張感ッ!!!!」
3人にとってはヤバい奴らが2匹になった事など、取るに足らない小事のようだ。信頼の度合いがエゲツなくて吐きそうだ。
「旦那様ったら、自分からキスしてくれないの! いつも私からばかりで……!」
「僕もギル様とチューしたいのに! ミーシャちゃん、わがままだよ!」
「ユノちゃんなら、少しお願いすればすぐにしてくれると思うわよ? ねぇ、セリア」
「はい、ミーシャ様。ご主人様はユノさんにメロメロなので、容易に叶うことでしょう」
「……ふふっ! じゃあ、お願いしてみる!!」
「ユノちゃん? でも、それ以上はまだ待ってね?! 『初めて』だけは譲れないから!!」
「う、うん……。わかったよ……?」
「ダ、ダメだよ? こっち見て! ユノちゃん!! セリアも何か言って!!」
「ふふっ、間をとってセリアが『初めて』を頂くのはいかがでしょう?」
「ダ、ダメェエエエ!! 『初めて』は私の!!」
ミーシャ、ユノ、セリアは俺の『初めて』について、仲良く茶会をしている。
「……」
(バッカじゃねぇええええのオオオオオ!!!!)
シュロロロロ………。
ウォオオオオンッ!!!!
2匹の災厄級とオーガの軍勢にビビり倒しながらも、《天眼予知》を発動させ、宝剣を振るおうとするが、腰にあるはずの宝剣は、収納袋の中だ……。
(ひょえええええええ!!!!)
取りに行くことは出来ない!
この魔物達を3人の所に連れていくわけにはいかない。ユノの『幻術』で魔物達は気づいていないし……。
「クソったれぇええええ!!!!」
俺は腰に忍ばせていた護身用ナイフを取り出した。
グチャッ! グザンッ! グザンッ! グシャッ!!
出来上がったのは魔物の死骸の山と、血に塗れた悍ましい鬼ヶ島。
(……眠たい……)
少し目の疲労を感じながら、『ギリギリ』の戦闘だったと泣きたくなった。
トコトコトコッ……
3人はポーっと頬を染めて俺を見つめる。
「セリア……、『閃光』。オンセンに入りたい!!」
「……はい、ご主人様……」
「ギル……、あっ、だ、旦那様! かっこよすぎだよぉ……」
「ギル様!! 僕にチューしてくれますか?」
「ユノ……。今は返り血塗れだから、また今度……。セリア! 早くしてくれッ!!」
「承知致しました。《閃光》……」
◇
そして初日は初めてのオンセンにとろけ、美酒と3人の美女との宴会で最高の幸せに包まれたまま、酔い潰れてしまったのだ。
そして、『これから』……。
「……だ、旦那様……。当たり前だけど、私も『初めて』だから……、その……、優しくしてね?」
「ミーシャ……。悪い。た、多分……、無理だ……」
俺は、ベッドのシーツで裸体を隠しているミーシャに強引にキスをして、ベッドのシーツを剥ぎ取った。
「ん……、あっ……! はぁ、はぁ……あぁ。」
そして……、
俺は尋常ではないほどのスピードで果てた……。
(死にたい……)
思い描いた『初めて』からはかけ離れていた……。
それくらい早すぎた……。
でも、
「嬉しい……。大好きだよ……」
ミーシャは泣きながら喜んでくれた。
(ミーシャが初めての相手で本当によかった)
俺がポロポロと涙を流すミーシャをとても愛おしく思っていると、
「……ぼ、ぼ、僕も! ギル様ぁあ!!」
服を脱ぎ捨てながら飛び込んで来たユノにビクッと体を震わせ、薄く微笑みながら全裸で入って来たセリアにピシッと固まった。
「まだ、ダメェエエェエエ!! こ、これから、朝までするんだからッ!!」
ミーシャの叫びに俺は心の中で絶叫した。
(なんだよ、この『理想郷』!! 最高かよッ!!!!)
そして長い夜が明け、朝日を受けながら恐怖した。
(……俺、今日死ぬのかな?)
【SS】第一弾でした!
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では、また!