1章完結話 『に、に、逃げろ!』
―――王宮
「ギルベルト・カーティス……。此度の災厄級のゴブリンキング討伐及び、天災級の竜種討伐、大義であった!!」
「ありがたきお言葉でございます、国王陛下……」
「私が差出せる物、其方が望む物、その全てを褒賞として与えよう。爵位でも、領地でも、なんでも良い!! ……王位……。そうじゃな……、王太子として、王宮に住まわんか!?」
国王陛下は瞳を輝かせながら、とんでもないことを口走っている。俺は「ふふっ」と軽く微笑んで見せるが、
(か、帰りてぇえええ!!!!)
心の中ではこの有り様だ。
※※※※※
ミーシャとの婚約話には死ぬほど驚いたが、両家での話はついているようだし、公爵家との婚約はカーティス家に多大な利を生むのは明白だ。
だが、そんな事はどうでもよくて、俺はこんなに美しいミーシャが自分の妻になるなんて夢のような出来事に、(……次の『反動』はなんだ!?)と恐怖した。
面倒な予感しかしない俺は、「帰りたくない」と駄々をこねまくり、1ヶ月ほどエルフの里で過ごしたが、毎晩のように開かれる宴と『救世主』として崇められる毎日に、精神的疲労は半端ではなかった。
一気に住みづらくなったエルフの里に涙目で、仕方なくカーティス領に帰る事にした。
どうしてもユノと離れたくなかった俺は、里長のチアに「ユノを連れ出しても良いか」を確認してからユノに声をかけた。
「……ユノ。俺の家に来ない?」
「……もちろんです! 僕は、僕は……、ギル様とずぅーっと一緒にいたいです!!」
号泣しながら飛びついてきたユノの可愛さに悶絶し、俺が里を出ることに狂乱するエルフ達を尻目に屋敷に戻った。
父様と兄様は優しく出迎えてくれたし、アイシャ達(獣人達)は屋敷のメイドとして雇い入れてくれているようだった。
ストロフ家の当主であるロミオおじさんも屋敷を訪れており、正式にミーシャとの婚約が決定した。
念願の『初めて』にドキドキ、バックバクの俺であったが、それは叶わなかった。
―――ギルベルト様!! 早く王宮に向かいましょう!
すっかりキャラが変わり、俺の呼び方がぶっ飛んでいる王国騎士団の団長ティグウェル様の来訪が原因だ。
聞けば、カーティス領でずっと俺の帰りを待っていたらしく、俺の安息と『初めて』はしばしのお預けとなったのだ。
※※※※※
そして俺は窮地に立たされている。
「どうだ? 王宮にて私の仕事に同行し、オラリアの王になってはくれぬか?」
「……」
(に、逃げてぇええ!!)
国王陛下からの提案は『斬首』よりも恐ろしい事であったのだ。
「其方の事だ。民を想い立派な王になってくれるに違いない!!」
「……王族の『血』を絶やすわけには行きません。聞けば、『呪い』は終息をみたはず……。私のような者には務まりません」
エゲツない暴挙を行なっていた王妃と血の繋がっていなかったロリドの末路はかなり悲惨な物だったと聞いたが、別にどうでもいい。
俺はのんびり、穏やかに過ごしたいだけなのだ。『可愛い妻』と『無邪気な幼女』、それから『専属メイド』と……。
チラリと振り返ると、ユノは無邪気に手を振り、ミーシャは穏やかに微笑み、セリアは無表情で俺を見つめている。
国王陛下は「ふむ……。王位すらいらぬか……」と小さく呟くと、ハッとした様子で大きく目を見開いた。
「な、なるほど……。も、もしや……、次は魔王を討とうと考えておるのだな……!!」
「……」
(な、なに言ってんだ? このおっさん……)
「世界の窮地を救うため、オラリア王国にとどまらずにまた旅に出ると言うのであるのだろ! 『勇者』よ!!」
「……」
(コイツ無茶苦茶じゃねぇか!!)
穏やかに微笑んだまま絶句する俺を他所に、ダッダッダッとこちらに向かって走ってくる音が聞こえた。
「そうだったのですね! 勇者様!! これは……、ぜ、ぜひ、私も勇者様に同行させて頂きたくッ!!」
王国騎士団、団長のティグウェルはキラッキラの瞳で俺の足元に跪いた。
「……おぉ。まさか、魔王を……」
「さすがは世界を救った英雄様だ……」
「あの暴虐の限りを尽くす魔王討伐など……」
コソコソと感嘆の声をあげる大臣や大貴族の面々。
(逃げてぇえええええ!!!! 無理に決まってんだろ! 魔王って、片手を払うだけで山を消しとばしたヤツだろ!? 3体の竜種がペットなんだろ!? そんなヤツ相手にできるわけねぇだろ!!)
冷や汗がこめかみを伝うが、俺は薄く微笑んだまま、もう顔を動かす事ができない。
ここで声を上げた所で、逆効果にしかならない気がするが、言わないわけにはいかない。
「……わ、私は安息の地にてゆっくりと休みたいのです!!」
シーンッ……
(誰か何か言ってくれ!!)
静まり返った王宮の広間に、パチッ、パチッ、と拍手がポツポツと響き、俺は不可解な音にキョロキョロと辺りを見回すと……、
「「「「うぉおおお!!」」」」
「なんと勇敢なる騎士なのだ!! 魔王を討伐し、世界を『安息の地』に導くと言う事なのか!!」
「素晴らしい!! ギルベルト・カーティスこそが、オラリア王国の誇る勇者様だ!!」
「この勇者様こそが、この世界の脅威から『安息』を勝ち取って下さるのだ!!」
割れんばかりの大歓声に俺はある決意をした。
(そっちがその気ならこっちにだって考えがある!! ユノの『幻術』の威力を見せてやるからな!!)
「ギルベルトよ……。其方という男は……」
瞳を潤ませて感動している国王陛下の言葉を無視して、コツッコツッと広間を闊歩する。
「……ミーシャ。ユノ。こっちに来てくれ……」
「どうしたの? 『旦那様』」
「はい! ギル様!!」
周囲の歓声は止む事ない。
「どうしたのじゃ? ギルベルト……、いや、『勇者』よ!」
国王陛下の言葉を背中で聞きながら、俺はミーシャとユノを抱きかかえ、セリアに視線を向ける。
相変わらずのキョトン顔で俺を見つめる紺碧の瞳。
「ちょっと、旦那様! み、みんなの前でなんて恥ずかしいよぉ」
「わぁい! ギル様ぁあ!」
恥ずかしそうに顔を染めながらもギュッと俺に腕を回すミーシャと俺の首に顔を埋めるユノ。
俺はセリアの綺麗な瞳を見つめながら呟いた。
「に、逃げるぞ、セリア……。『閃光』でどこでもいいから、見つからない所にッ!!」
セリアは大きく目を見開くと、
「はい、承知致しました。ご主人様!」
100点満点の笑顔を浮かべる。
俺の逃亡生活、いや、『スローライフ』の幕が今上がった。
これにて一章完結です。
少しでもそう思ってくれた読者の皆様。
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